「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
彷徨!千年の古都

 せいぜい10キロ平方メートル四方に、こーんなに名所旧跡・寺社仏閣・博物館のひしめく町は他に無いだろう。デパートの建つ繁華街から2kmも行けば、人も通わぬ山の中に出る町も、他に無いだろう。都市のクセに夏冬の寒暖差がこーんなに激しい町も、こーんなにウジャウジャ大学生があふれる町も、やはり、他には無いだろう。
 いやナニ、全部京都のハナシである。実はここでかつて何年か過ごした。

 近畿圏外の中高生の修学旅行といえば、一頃は必ず京都と相場が決まっていた。新幹線で京都八条口、ガラーンとした団体待合室の地ベタに並ばされ、金閣/銀閣と廻って、清水寺に三十三間堂/平安神宮とゾロゾロ連れ回されては怒濤の鑑賞、ひたすら見学。夜ともなれば新京極か鴨川べり辺りで乱闘、なん、ちゅーのが、最もレトロなパターンだろう。修学旅行直前にボコボコできる即席恋愛も、古都の風景にはそれなりにハマると思うのだが・・・・・・。

 ところが、昨今は随分様変わりした。新幹線で八条口、までは同じだろうが、まず団体で行動しない。数名の小グループに分かれて、タクシー貸切なんて粋なコトをしてくれる。昼食にしたって要領がいいとゆーか何とゆーか、今出川通界隈の安い学生食堂で、日替り定食食ってたりする。千本釈迦堂みたいなマイナーな寺の境内で記念写真撮ってたりする。しかし、学生服やセーラー服はまだしも、ジャージの上下、ありゃムゴい。始めて見た時は、老人のゲートボールクラブかと思ったぞ。
 昔はややクラい女二人連れが上得意だった、三千院や寂光院、「ZENノセカイ、Oh!、タイヘンフカイデスネー!」なーんて言いそうな、首からニコン提げた外人があふれてた竜安寺は無論の事、どこでどう調べたんだと感心するような場所にも彼らは現れる。全くもって神出鬼没、油断もスキもない。

 何を言いたいのかというと、まあ、そんなけ狭い町だとゆーことだ。

 だからここは一つ、歩いてみることをオススメしたい。ヤミクモに歩いても絶対大丈夫。決して迷うことはない。ガイドを見れば分かるだろうが、この狭い町だけで立派に一冊の本が出来ている。ページを開ければ、ホント、名所の嵐である。どこに行ったって何かに突き当たる。

 非日常的風景や一大スペクタクルを期待して行ってもコケるが(最初に挙げた名所の定番にしても、実際はけっこーショボいんだ)、異日常の光景はそれこそ至る所に転がっている。平凡だけれど、何だかとても印象深いシーン。長編ロマンとゆーよりは、私小説のノリに近いものがある。
 その中でただもうボーッとするのも、悪い体験ではないだろうと思う。

    日の傾きかけた、人っ子一人いない黒谷(金戒光明寺)の広い境内。
    ウンともスンとも言わず、黙って噛みついた赤山禅院のチャウチャウ犬。
    うどん屋の、いつも背を丸めて掃除していたガラパゴス大トカゲみたいな風貌のバアサン。
    雨の日の壬生寺、崩れかけた土塀から、いく筋も溝に流れる茶色い水。
    染工場の波板の天井から差し込む光。
    軒の深い町屋の、トンネルみたいな通路の奥を抜けた先の更地・・・・・・。

 しょーもないと言えばこれ程しょーもないモンもないだろうが、何故かそんな景色ばっかり思い出す。でもホンマ、結構よかったんだ。

 しかし問題はそれを見つめていた側にあった。連日の一升酒でブクブクに肥え、カッコだけは黒づくめで、アゴの下まで伸びた前髪の、まことに不気味なニューウェーブ野郎の筆者のことである。これの方がよっぽど非日常的とゆーか、ホラーな奇観である事は論を待たない。何ともはや懐かしくも、情けない。

 こんなんバラすんじゃなかったぁ〜!

Original1997 Add 2004
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