「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ええじゃないか

 近頃は小学校の修学旅行もリッチになって、二泊三日だ、信州だ、ディズニーランドだ、と隔世の感がある。往年の小学生の修学旅行と言えば、「お伊勢参り」。これしかなかった。
 多分、想像を絶する低予算だったんだろーなー、あれって。

 アズキ色した近鉄電車(フツーのヤツだ)の臨時列車に揺られて(これがもう途中で抜かされまくって遅いの何の)、伊勢中川辺りでナゼかバスに乗り換えとゆー、摩訶不思議なコース。外宮/内宮/朝熊山/ぶらじる丸/水族館/真珠島/夫婦岩と、テンコ盛りの内容を詰め込んだ過激なスケジュール。
 二見ケ浦の、木造二階建ての外観からは見当もつかない収容力の旅館に着けば、正に「子供だまし」のチープな夕食。食後の自由行動は子供相手の土産物屋に繰り出して、ペナントだ、スタンプ帳だ、置物だと気持ちはハヤるが、しかし、いくら20年前とはいえ、2千ナンボの小遣い制限で一体どんだけマトモな物が買えるとゆーのか?
 戻れば座敷一面の布団、壮烈なザコ寝、おきまりの枕投げ、怒る先生。朝は浜辺で体操だ。赤福ちゃんと予約したか?

 同様の記憶を持っておられる方は非常に多いに違いない。あれはあれでとても楽しかったのだが、かかる原体験のために、もひとつ伊勢が軽く見られてたのも又、間違いないだろう。
 現地もこのことは重々承知していたみたいで、久しぶりに訪ねて少なからずその変貌に驚いた。変わっちゃってるんだ、これが。

 内宮の門前町はテーマパークみたいになっとるやないか!
 藻の生えたクラーい水槽の水族館は移転してピカピカやないか!
 チンケなぶらじる丸はなくなってしもたやないか!
 それより何より、若いカップルがえらい多いやないか!

 いつの間にこんなにアカ抜けたんだ!?あの年寄り/子供の団体オンリーのモッチャリした雰囲気は何処に行ってしまったんだぁぁ〜!?

 閑話休題。

 伊勢の海を舞台に描かれ、何度も映画化された三島由紀夫の「潮騒」、あれってギリシャをイメージして書かれたんだそうだ。健全で筋肉質で素朴で屈託のない神話的恋愛を描きたかったワケだ。作者本人がそんなこと言ってる。

 ・・・・・・で、「陽光あふれる海」で似てるから舞台が伊勢。何とまあ、安直な。ホンマに名作か?

 「さすが関西の軽井沢」や「瀬戸内のエーゲ海」や「ここが淡路かニースじゃないか」といった、何だかとても恥ずかしいコピーもブッ飛ぶ水平思考のセンスである。志摩スペイン村よりも40年早い発想である。いやーすごい。さすが大作家。

 しかしこのキッチュ感・フェイク感が、伊勢旅行の本質であり醍醐味だったんじゃないのかなあ、と相当ヒネクレ者の筆者は思ったりもしたのだ。あの野暮ったさには、今になって思えば、何とも言えないそれなりの味わいがあった。
 それを30ヅラさげたオッサンの、戻れない幼年期への感傷、と一言で片づけてしまえばミもフタもないけれど・・・・・・。

 赤いアクリル樹脂で固めた、ミニチュアの夫婦岩にクズ真珠の太陽が昇る小さな置物。確か「伊勢の思い出」と白く彫ってあった。多分、実家の茶ダンスの奥には今でも、アレが転がってるハズだ。今度探して見よーっと。

Original1997 Add 2004
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