「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
スッポン堂は効くか?

 赤地に金色の字で太々と「スッポン堂」と書いた看板を前に、医者もどきの白衣を着込んだオッサンが暇そうに立ってる・・・・・・全国のターミナルのコンコースや巨大旅館のロビーの片隅で、皆さんも見た記憶がないだろうか?

 商品はズバリ「絶倫系」のアレコレだ。
 朝鮮人参や怪しいドリンクはまだいい。干からびたスッポンも百歩譲って許そう。たまらんのはトグロ巻いて蚊取線香みたいなマムシである。とにかく蛇の類は嫌いだ。全身の血が逆流しそうになる。
 この本店が北陸道の加賀IC入口近くにある。以前チラと触れた通り、ここは北陸脱力観光の拠点の一つである。今回はその脱力ぶりを紹介して、是非ともギンギンのビンビン(死語ですな)になって頂こう。

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 いきなりは、急にだしぬけ唐突に!店の前には後ろから乗っかって媾う2匹の金色のスッポン!高さ3mを優に越す巨大な張り型、もとい、張り子だ。
 入口と見えたのは出口で自動ドアは表からは開かない。店内へは横の方から狭い木戸のようなものをくぐって入って行く。最初の脱力カウンターパンチの威力だけでもスゴい。

 何やねん?これ?・・・・・・畳み込むような脱力だ。
 「遠山の金さん」に出て来るようなお白州のセットがあって、お縄になった罪人のマネキンが数体。それらを前に置いといて団体写真をここで撮るらしい。そんな悪趣味なアイデアにノセられたアホな団体が最後に訪れたのは、随分以前のようである。その証拠に、セットは埃まみれだった。
 ちなみに記念撮影した方には素敵な特典。もれなく良く冷えた赤マムシドリンク1本サービス!ハッキリゆーて、要らん!

 さらに狭くなった通路を行くと、線香の匂いが漂って来る。こーゆー場所の常套手段として、宗教系の祠建てるのは基本中の基本。何かな?と曲がった陽当たりの悪いトコには「銭洗い弁財天」が賑々しく祭られてた。鎌倉かい!?
 本尊は見ないでも分かる。多分「ハダカ」だけはコピーしてるのだろう。

 いよいよ館内に入る。スッポン放し飼いの池には当然1匹も姿は見えず、汚い水が少し残るだけ。商品にされちゃったんだろう。トホホ。
 その反対側、うわ!いっちゃん苦手なのがドーンとある。バカでっかいガラスのシリンダの中に焼酎漬けになった無数のスッポンとマムシ。総毛立った。続いては殆ど理科の標本室状態だ。マムシやスッポンの骨格標本に、鹿やら熊のナニのアルコール漬け。グラインダーでスッポンをバリバリと崩す、例の医者もどきのオヤジが声を掛けて来た。

 --------お一つどーぞ。お試し無料ですよ。精力増進にどうですか?

 殆ど固まって無言のまま通り過ぎる。ここが済めばやっと土産物コーナーだ。後少し、後少しで下品なギミックに満ちたこの通路から逃げ出せる・・・・・・。

 ・・・・・・私は甘かった。脱力と倦怠と悪趣味の氾濫は終わってなかった。今度は大人の玩具とセクシー下着がドーンと壁とショーケースに並んどる!「これなんか評判いーですよー」とやたら勧められる。それは何と「森高ハンド」!・・・・・・で、どないせーっちゅーねん!?失神しそうな位、大脱力〜!

 後のコーナーもロクでもないのばっかし!マトモな土産は申し訳程度に置かれてるだけ!それに加えてあの、漬け込まれた爬虫類の壺・壺・壺・・・・・・。

 他に誰一人客の居ない、煌々と蛍光灯に照らし出された店内で、私は一種の眩暈のよーなモノを覚えた。気付くと、眼前の対象物から意識が遠のき、「小中学生の修学旅行に組み込んだら楽しいだろうな」とか「これでどうして経営が成り立ってるのかな」とか、ひたすら孤独な思考に没頭してたのである。

Original1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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