「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
・・・・・・そして静かな廃市

 この単語、良く使うけど、廃市の定義なんて聞いた事がない。北原白秋がコトバを作って、福永武彦はそれをタイトルに小説書いた、それだけなのだ。
 とはいえ、廃鉱の町は決して廃市ではない。ありゃゴーストタウンだ。高齢化の進んだ都市圏の下町や、出来て30年以上経過したベッドタウンはどうだ?

 違う。一体全体「廃市」って何やねん?
 気になってしばらく前、実地調査をしてみた。行先は湖北、往年の商都・長浜である。

 ・・・・・・インターを降りて、郊外に林立するスーパー、ファミレ、ジャンクフード、GS、ビデオ屋etcを抜け、旧市街に入る。こんな脱力企画に家族が真面目に付いて来るワケないので、まずは黒壁スクエアに向う。
 何のこっちゃなない。古い銀行の建物を利用したガラス館(小樽・北一ガラスの成功にアテられて、今や日本中に溢れてる)を中心に、たまたま残った旧い商家を改造した土産物屋が散在するだけだ。しょーもない。
 それでも子供の口にアイスを押し込めば、取り敢えずは黙ってくれる。

 そこを離れて、寂れたアーケードの下の商店街を行った。悲しい程に昼下がりの通りは閑散としてる。営業してる店の少ない事!降ろされたシャッターの多くに、閉店・廃業・移転の挨拶が貼り出されていて、その数は尋常ではなかった。
 映画館の跡は白々と陽の当たるサラ地となり、雑貨屋の半分は老人介護器具が並べられていたりする。丹念に見て回る内に、奇妙な駄洒落みたいな屋号の洋品店を見つけた。「正札販売、洋品の堀マケン堂」だ。早速写真に撮る。
 そーいや以前、播州の廃市・龍野で「ヒミツを守る人気男」とゆー質屋を発見したことを思い出す。

 物好きで来たとはいえ気が滅入って来る。表通りを避けて駅前に歩を進めた。
 かつては旦那衆で賑わったであろういかめしい料亭。軒の重い商家の入口の三和土・・・・・・昔は商品が山と積まれてたハズだ・・・・・・には、三輪車と子供自転車だけが置かれていた。赤いガラス灯の提がる古風な町医者。ホウロウの看板(当然知らない銘柄が多い)がズラッと並ぶ酒屋・・・・・・幾つかの淀んだ堀を渡ると、駅はすぐそこ。琵琶湖岸も近い。私達の小旅行は終わった。

 怪しげな大衆食堂で遅い昼食(むっちゃチープなきざみうどん)を食べながら、漠然と廃市の条件の答えがまとまって来た。

    ●海又は湖、巨大河川に面した町であること
    ●戦前までに最盛期を終えた商都、又は軽工業の町であること
    ●だから旧い商家や料亭が残ってること
    ●地方都市であるが、県庁所在地ではないこと
    ●かつて交通の要衝であったこと。無論国鉄の駅に限る
    ●閑散とした暗〜いアーケードの商店街があること
    ●その多くが店を畳んでしまってること
    ●その中に下手な駄洒落みたいな屋号の店があること
    ●つぶれかけた(又は既につぶれた)映画館があること
    ●町の中を運河や堀、用水路が通る水の都であること
    ●過去の栄光が、不思議に派手な祭や町の寄合等に残っていること

 もし皆さんの郷里がこれらに全て当てはまれば、そこは間違いなく廃市だ。しかしそこは、緩慢に衰微して行く姿を晒すことで逆説的に、町は生きた人の匂いがしてこそ町である事実を実感させてくれる、愛しい場所に他なならない。

 この長浜行の翌週、私は近江八幡に出掛けた。実は最近少しハマッてる。

Original1997 Add 2004
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