「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
紀州鉄道は1/1

 鉄道好きには年季入ってる。物心ついた時分からなので30年を越える。買いこそしないが、今  でも鉄道雑誌は欠かさず立ち読みしている。プラモデルの怪作「箱庭シリーズ」の”山の温泉宿”と”ローカル線の驛”も、ついつい買い込んでしまった(このシリーズはヘンな笑えるものばかりです)。
 温泉同様、ワビサビ系が好きだ。新幹線・新型特急といったハイテクには、全く興味が湧かない。ローカル線・軽便/森林/鉱山鉄道といった地味なヤツ、今では消え失せた風景に心が和む。要は盆栽とか水石鑑賞に近い趣味なのだ。

 ・・・・・・白浜の帰路何となく立ち寄った御坊市は、海に面した古い商都である。日本の醤油発祥の地にして、かつては紀伊山地からの木材の集散で栄えた町で、旧市街に入ると、重厚な造りの商家が残っていたりする。まあ、これも廃市のひとつだろう。

 寂れた商店街の入口に踏切がある。アレッと思って横見たら古い型のジーゼルカーがエンジンを震わせて停まってるではないか。車体もついでに震えとる。ボロい。両側を家の壁に挟まれた狭い空間から、ヌッと顔だけ出してるその様子は、大型の老犬が犬小屋に引き篭ってる姿を連想させた。

 これが日本一距離が短いのが自慢(ナサケなや!)の、脱力!紀州鉄道なのだった。

 何と全長2.7km!歩いたって30分少々!私の徒歩通勤距離より短い。ちなみに偶然たどり着いたこの駅は終点。ポイントも何もない。ドーンと線路が突っ込んでおしまい。終点らしさは微塵もない。Nゲージで再現したら、恐らくカマボコ板程度の広さでレイアウトが作れてしまうだろう。
 かつてはも少し先まで線路は伸びていたし、生意気に支線まで存在してたのだが、既に廃止されて久しい。残っている部分でも、無論レールはグニャグニャに歪み、一面の雑草に埋もれ、荒廃しまくってる。加えて面倒なのか何なのか、廃止部分のレールは撤去されずにそのまんま。一層侘しい。

 脱力感に包まれて、私は線路沿いを行った。くすんだ風景が続く。途中、やや大きな駅があり、小さな車庫と多分予備なのだろう、いかめしい面構えのさらにクラッシックなのが1輌、放置されていた。

 鉄道存続の意味も意義も喪くして、荒廃した線路を荒廃した車両がピストン運行する。行き先は目と鼻の先。もはやアートに近い無意味さと非実用性だ。
 仮にも鉄道やろ!?経営しとるんやろ!?何でこんなん続けとるんや?

 朝夕の高校生と、昼間の年寄りの為?そんな答えでは少しも面白くない。悲しくなるだけだ。確かこの紀州鉄道グループは、ホテルチェーンやゴルフ場まで所有する大会社だったハズだ。これはだから多分、経営者の鉄道趣味なのだ。
 1/1の原寸大レイアウトを楽しんでるに違いない。そしてワビサビ系が好きなんだ、きっと。その気になれば、最新型をつなげて遊ぶ位の財力はあるんだろうが、シブーい車両数台でまとめて、風情と趣を楽しんでる・・・・・・

 んなワケあるかい!絶対!!

 我が事ながら想像の余りのバカバカしさにげんなりして、一層脱力したのだった。

 余談だが、このケッタイな紀州鉄道には近くに脱力仲間がいる。かつてはミカン輸送で栄えた有田鉄道がそれで、こっちの脱力感もいずれがアヤメ・カキツバタ。何と全便運休日(!?)があって、その日はバスが代替輸送するとゆーテイタラク。はぁ〜も〜脱力っっ!

 頑張って!とエールを送るべきなのか、それともスカッと止めてまえ!と引導渡すべきなのか、いちマニアの私としても、流石に困ってしまう。

Original1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved