「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
餃子への頌歌

 そりゃ京都千本中立売の「吉林」や茨木「ハルピン」の餃子は本格的なんだろう。本場ではニンニク入らんのが正式なんやろーし、手延べのムチッとしたブ厚い皮をマズいとは言わん。あらあれでウマい。
 神戸南京町は「民生」の水餃子のチュルッとした食感も、悪いとは言わん。あれもウマい。「赤萬」のミソダレだってウマいし、上新庄の「台湾」の春雨餃子も絶品だ。だから文句つける気はサラサラ無い。
 でもな、でもな、でもな・・・・・・ちゃうねん。

 ついこないだまで絞りハンに直管・ミツバ3連ホーンで、特攻服着てパパリラパパリラってやってたよーなヤンキーが「コーテルリャンガッ!」と叫ぶ。ちなみに「コーテル」とは「鍋貼(グォティェ、焼餃子のコト)」がなまったもんだ・・・・・・こう書けば皆さんお分かりだろう。「王将」である。それなりにウマいし、学生時分は随分タダ券/半額券のお世話になった。悪口は書けないが、やっぱしちょっとちゃうねん。

 一方、中年以上の人は餃子は「眠々」に限る、と譲らない。最近すっかり地味なチェーン店になってしまったが、「王将」が台頭する以前は、餃子と言えば確かに「眠々」だったのだ。今でも結構安くてウマい、でもやっぱしちゃうねん。

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 幼い頃、近所に「ヤマトウンジョウ」とゆー小さな中華料理屋(どんな漢字だったか覚えてない)があった。内職が忙しかった母は、よく昼食で私をそこに連れて行った。頼むのはいつも餃子1人前とライス。悲しいがそれだけ。たかが昼飯にバカスカ食い散らかすだけの余裕は、我が家には無かったのだ。

 餃子同士がくっついて、パリパリ・サクサクした網目状のコゲが一杯の、何の変哲もない餃子が1人前確か8ケ。ライスには沢庵が2切れ付いてた。勘定はしめて80円だったと思う。思えば侘しい「贅沢」だったのかも知れない。
 私の餃子の原点であり、トラウマでもある。

 恐らくこの感覚は関東出身者にはないだろう。と言うのも関東の餃子は異常に高いモノだからだ。今の相場では1人前450円前後が普通である。「餃子が安い」コトと「タンメンがメニューに無い」コトは、関西の中華料理屋のナゾと言える。ワケを識ってる方が居たら教えて欲しい。

 とまれ、ニンニク入って皮がパリッと焼けた焼餃子こそが、やはり「餃子」なのである。そんな「透き通る米粉の皮に海老の赤が映える」とか「丁寧に取られたスープに浮かぶ官能的な舌触り」とか、笑止千万!アホか!
 昔から「餃子は焼餃子に限る」と法律で決まっとるわい!

 形も最近は飲茶の流行で色々凝ったのがあるけど、最も古典的な三日月型でヒダがテキトーについたのでいいんだ。具も白菜とニラと豚ミンチで充分なんだ。但し、良く蒸してから焦げ目をつける、これだけは守って頂きたいものだ。

 それもテンヤモンがよろしい。家で作るのもいいが、あの味はナカナカ出せない。出来合いのチルドではハナシにならない。それに家の食卓ではなく、中華料理屋のカウンターで食ってこそ餃子ではないか!

 ・・・・・・そうして私はどこか「ヤマトウンジョウ」の味を探し続けている。

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 実はつい先日、所用で生家の近くを通りがかった。店のあった場所はすでに代替わりして別の名前の中華料理屋となってた。丁度昼時、一縷の望みで私は店に入って餃子を注文したが、無論、出て来たのは記憶とは似ても似つかぬ味だった。

Original1997 Add 2004
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