「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
花火が映し出すもの

 先日、香住の花火大会を見に行った。海上に開く花火が水面に映えてそれはそれは美しいのだと言う。
 何のこっちゃない。総数たったの2800発。延々とスポンサー名がアナウンスされ、ダーッと上がってポンポン開いて、又スポンサー名の連呼。これを10回繰り返して、最後は配線の不備かプツンとマイクが途切れ、勢いで花火は上げられたけれど、妙に尻切れトンボな幕切れであった。

 それでも閃光に照らし出される観客の表情は、皆、無邪気に笑って輝いていた。一様に満足そうである。花火は、大人を子供に還らせてくれる。
 そーいや童心の貼絵画家、とゆーよりは「裸の大将放浪記」のモデル、山下清の代表作は確か「長岡の花火」だったっけ。
 ・・・・・・そんな事を考えながら膝に抱いた子供を見ると、轟音にもめげずいつの間にか眠り込んでいる。子供の還る場所は、胎児のまどろみなのだろう。

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 マンガ家菅野修(ちゅーてもマイナーな人で誰も知らん。すんまへん)の短編にこんなのがあった。ストーリーはありがちだ。冴えない中年男が仕事をサボッてフラリと降りる駅。都市圏からそう離れてないのに、活気を無くしさびれた町。彼はアテもなくフラフラし、夕刻、町外れの夏祭に行き当たる。勿論、さみしいさみしい祭りである。閑散としている。

 その時、打ち上げ花火が上がる。

 パーッと輝く光を、男は正視出来ない。思わず顔を覆った指の間から、伏目がちにようやく見る。当然それは、まぶしいからだけではない。
 見開き2頁に大きく描かれたその光景は、ホンマ、実にナサケなく侘しい。結末は忘れた。調べようと思ったが、本は富田林の実家にある。

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 富田林と言えばPLである。法律ではない。新興宗教の本拠地なのだ。でっかい展望タワー建てたり、遊園地にプールにゴルフ場にガッコこしらえたり、とワケが分からん(最近、幾つか売却したらしい。経営が苦しいのかも)。
 何てったって有名なのは野球と花火だろう。野球は今更言うまでもなく、高校野球の常連にして、桑田・清原を筆頭にOBのプロも多数輩出している。

 で、花火。毎年8月1日に行われる花火大会で、一年を掛けて集めたお布施をパーッと使う。れっきとした宗教行事(←主催者側発表)だそうで、その数何と!12万発!総費用はン億ともン十億とも言われ、ともあれ世界一。
 晩の8時からピッタシ1時間、アーもスーもなく滅多矢鱈に花火が上がり、上記2段に述べた如きチンケな感傷も吹き飛ばして、ガンガン飛ばしまくる。最後は、一体どんなけ一度に点火したらあーなるのか、地鳴りと共に真昼のように明るくなって終了。テンション高い高い。
 いやもうこれは、夏の夜を彩る一大スペクタクル(笑)、夜空を焦がす壮大なページェント(笑)とでも申しましょうか、全く情緒に欠けるキライはあるが、死ぬまでに一辺は見とく価値はある。

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 冒頭の花火大会の翌日、大阪に戻る途中の播但道、丁度市川の辺りで、小さな花火大会がやはり催されていた。バックミラーにも花火が写る。それが遠ざかって行くのを見遣りながら私は、香住での海上花火を素直に楽しめなかった自分を思い出し、何だかひどく憂鬱な気分になった。

 そう、あのひと時、幼児の無心さに、自分も浸るべきだったのだ。

Original1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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