「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
百貨店という高み

 「百貨店」とゆーコトバ自体が、そもそもレトロだよな。しかし、それを「デパート」と置き換えたとしても、現代の流通業界の驚くべき変容の前では、何だか色褪せて見えるのは、否定しきれないように思う。
 「百貨店に出掛ける」。それは3昔位前までは、それなりに甘美な響きを伴うものでありました。ホント、単なる暇つぶしでもなく、購入自体を事務的に済ます作業でもなく、1日を費やすに値する正当な「行楽」の香りがしたものでした。
 そんな百貨店と幼い記憶をつなぐものは、何と言っても「大食堂」と「屋上遊園地」に尽きるだろう。今回は、それらについて・・・・・・。

 大食堂、あそこに行かなくなってどれ位経つだろう?和洋中何でも来いの、「くいだおれ」のようなメニュー。入口で食券買って半券切ってもらうやり方。紙ナプキンにくるまったスプーン。お決まりの「お子様ランチ」(とはいえ私自身は偏食が激しく、たいていザルソバだった・・・・・・)。そして、窓際に陣取って下界を見下ろす食事。
 それは、「百貨店で買い物して、食事をする」事がステータスであった時代に、ステータスなんちゅー抽象的な意味を、物理的な「高さ」の感覚で理解させてくれる瞬間であったように思う。

 いつだったか妙に気になって、この大食堂でメシを食った。そして失望した。ファミレ以下の味と内容にではない。奇跡的なまでになーんも変わっとらん中で、唯一、窓からの風景だけが変わっていた。
 高層ビルが増えて、その場所はもう、全てを睥睨する高みではなくなってしまっていたのである。

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 さて先日、R・メイプルソープの写真展を見ようと、難波の高島屋に出掛けた。子供達は当然、退屈極まりない展覧会なんざ我慢していられるワケがない。即、妻と共に屋上送りである。
 何やらカンの強そうなアート系ねーちゃんやら、メールヌードだけを見に来たような得体の知れないオヤジ(そーいや某特殊雑誌でメイプルソープ特集してたよな)、美術館とかには絶対いるハイブローオバタリアン軍団。
 静謐な構図の写真よりも、それらと、上に例を挙げた怪人達の対比が妙に面白かった(まあ自分自身もそーとー不審な方なので他人のコトは言えない)。
 図録を買い込んで会場を出れば、そこは元のバーゲンセールのフロア。この落差が良い。だから百貨店の展覧会は好きだ。あ、話がそれた。

 ・・・・・・屋上遊園地なんて、これも一体何年ぶりだろうと考えながら上がると、ありました。今でも。全然変わってない。チンケな遊具にペットショップ、屋台。保護者に祖父母とおぼしき初老の夫婦が目立つのも変わらない。はしゃぐ子供達とは対照的に、大人達は皆一様に所在無げで、疲れていた。
 しかしここも(階下の大食堂が上に述べた通りなんだから当然だが)、何だか圧迫感がある。それもそのはず、隣にはドベーンと見上げるように、サウスタワーホテルがそびえているのだった。

 百貨店が高級小売店のステータスを取り戻すには、100階でも200階でも、とにかく高く建て直して、富士山のてっぺんから見るような眺望の大食堂と屋上遊園地をこしらえるのが、手っとり早かろう。このままでは、今の子供達は、百貨店に出掛けることがある種のスノッブな歓びに思えることがなくなってしまう。大変なこっちゃ!

 ・・・・・・そんなことをボンヤリ考えながら、もう一つの考えが浮かんだ。これって結構「脱力観光」に近いノリがある。しばらくは百貨店の大食堂&屋上遊園地巡りでもしてみようかな・・・・・・。

Original1997 Add 2004
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