「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ナンギなAV撮影隊

 --------おう、海行かへんか?海!ええで〜。行こや〜。
 --------いつ行くねん?ああ、別にええけどな。かまへん。え!?オレが手配するてか?まぁえーわ、しといたる。せやけどオマエ又、知らんオンナのコ連れて来るんやろーが?放っとけ!?アホ抜かせ!

 電話の主は、昔からの悪友である。まだ彼が京都の飲み屋で働いてた頃だから、随分以前のコトだ。連れて来るのは店の常連のコだと言う。ラスタでレッドストライプ持って、ラリリで「Jha!」とかゆーて現れるんやろうか。まーいーや。取り敢えず行き先は、安くて魚が美味そうで静かなところ、という線で探して、若狭・小浜の先の地味な海村に決めた。

 ・・・・・・当日、朝から私は面白くなかった。2の2で行く予定が直前でコケて、自分は手ブラになってしまったからだ。これでは奴等の運転手ではないか。クルマもオレのだ。何ぼ約束とは言え、何やねん一体!
 1泊2日なのにバカデカいカバン持って、チンピラみたいに悪趣味なアロハの友人とネーチャンが立ってる。彼は奇癖の持主で、枕が変わると眠れないとかで、旅先に自分の枕を携行するのである。女の子は趣味ではなかったが、結構美人だ。ラスタじゃなかった。Yちゃんと言う、アーパー系の派手で陽気なコである。イケてんだかイッちゃってんだか判断に苦しむ。

 小さな砂浜と突堤、その向こうに広がる磯、船が数艘で一杯になりそうな船着場、折り重なる家々、民宿が何軒か・・・・・・着いたのは、背後に山の迫るホントに小さな漁村だった。海水浴客の姿は少ない。
 突堤の上に陣取って定番のバーベキュー。湾の外側の海は呆れる程に透明で、底にサザエらしきモノが転がっているのもよく分かる。

 Yちゃんはちょっと灼くと言い出した。眠たかったのだろう。友人は潜ると言い出した。私は余り泳ぎが得意ではないが、この綺麗な海に入らないのは勿体ない。一緒に飛び込んだ。浅く見えたが、それは透明度が高かったからで実際はかなり深い。転がっていたのは実際、ホンモノのサザエだった。
 持久力に難のある私が先に上がった。うわ!Yちゃん、ハダカ(!)になって寝とるやないか。何やねんコイツは!?再び私は飛び込んだ。

 --------どないした?溺れるで。オマエ泳ぐのヘタやないか。
 --------オイ!何やアレ?スッポンポンで寝とるやないか!
 --------Yか?ああ。アイツすぐ脱ぎよるんや。うれしいやろ?
 --------アホか!別にそこまで不自由しとらんわい!趣味とちゃうのんまで見とないわ!

 午後の突堤に静かに横たわる裸女と、その下の海を平泳ぎでグルグル回る2人の男!寺山の前衛映画やあるまいし、他人が見たらこれは余りにシュールな光景だったろう。夏の強烈な日射しは倦怠と不条理にはピッタリだ。

 ・・・・・・翌日私とOで支払いを済ませる時、民宿のオヤジがデカいカバンに目を遣りながら、言いにくそうに口を開いた。

 --------あの、何かビデオ撮っとられたんですか?
 --------はあ?????

 もうお分かりだろう。私達一行はAVの撮影隊だと勘違いされていたのだ。なる程、一癖ありそうな男2人に派手なネーチャン、巨大な荷物。海での行動もキッチリ見られてた。ついでに言うなら、昨夜オレは寝たフリしてやってたんだぞ!声まで上げやがって!疑われない方がおかしい。

 無論、帰路の車中でどっちが男優に見られてたかで大激論だったのは言うまでもないが、それにしてもアホらしく腹立たしいハナシではあった。


2004補足
 これは、かなり大げさな脚色を加えてある。帰りしなに撮影隊に間違えられたのが判明したのは事実だが、オネーチャンはまぁ、乳をほりだした程度だったし、会話もほとんど創作である。
 「陽の照りつける真っ白な突堤と波の静かな入り江に似合う光景」というテーマの習作と思っていただきたい。

Original1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved