「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
美人姉妹とM君な新湯田中温泉

 志賀高原の入口、渋・湯田中温泉郷は、外湯巡りで有名な信州を代表する大温泉地である。温泉に入る猿で知られる最奥の地獄谷まで、10kmくらいに渡って各地区が点在し、それぞれに温泉街の味わいがあって楽しい。どこも高温で無色透明の湯が、ふんだんに溢れている。
 その、新湯田中温泉は「清風荘」という旅館に泊まった時のことだ。

 私ともう1名(野郎だよん)いつも通りのパターンで、夕食後の酒と肴を物色に街に出た。何と、号外が出ている。最初は観光地のアトラクションかと思ったらホンモノで、それは、帝都を騒がせたあの「幼女連続誘拐殺人」の犯人、M君が逮捕された、とゆー内容だった。
 丁度その頃、コリン・ウィルソンの「現代殺人百科」なんて物騒な本を読んだばかりだったので、私達はこの話題でムチャクチャに盛り上がったのだった。(この本は、最近のキワモノ鬼畜系の本なんかとは較べもんにならない精緻な内容である。興味のある方はどうぞ)

 さて、大概へべれけになって時計を見れば深夜12時。私は急にこの旅館のフロの構造を思い出したのであった。即ち、えらく豪華な造作なのが3ケ所、どーゆーワケか全部「混浴」だったのだ。

 --------こーゆー時間、よー女のコ入ってるて言いまっせ。・・・・・・と、私
 --------ホントかよ!?
 --------そらやってみんと分からんけど、確率高いんとちゃいまっか。
 --------そっかあ〜(急にうれしそうな顔で)よし!行こう!

 内湯じゃのぼせるので露天に向かう。脱衣カゴには先客が・・・・・・あっ、浴衣のカスリの色が赤やないか!ワシ等は紺や!ホンマに入っとるやんけ!トドみたいなん入っとるんちゃうんか!?ええーい何でもええ!いてまえー!
 ・・・・・・一瞬の心理の敏捷な動きとは裏腹に、二人が無言になってたのは勿論、恐ろしく息がピッタリ合っていた。一糸乱れぬとは、こーゆー動きの事だろう。一糸まとわぬ状態だったけど。

 ああ!生きてて良かった!

 千葉から来たとゆー20才と18才の姉妹、又これが、可愛いかったんだー。まさか、口からでまかせがこーゆー展開になろうとは。いやーもう、ごちそーさまでしたっ!!えー思いさせてもらいましたっ!!
 普段は、自分のコテコテの大阪弁に我ながらウンザリすることもあるが、かかるシチュエーションでこれ程強い武器はない。何を話しても笑いが取れるし、しっかり仲良くなれるもんな。

 部屋に戻ると、先刻までの「FBI心理捜査官」ばりの様々な心理分析なんて、どっかに吹っ飛んでしまっていた。そうだそうだ。何が悲しゅうて大の男が二人揃って旅館の一室で、陰惨な事件の犯人のオブセッションやサイコパスを考えなあかんねん!?辛気クサイと言えば、これ程辛気クサイものはない。

 酒と風呂と美人姉妹に、結局は、すっかりのぼせ上がって真っ赤になった私達は、

 --------やっぱし若いネーチャンっちゅーのはええなぁ〜

 ・・・・・・などとノー天気な結論に達して、ネクラでオタクのM君談義から始まり、元は遊廓だったというこの新湯田中温泉の夜は、最後は色っぽく更けて行ったのでありました。

 今から7年位前の暑い夏だった。その後、新聞にあの事件の裁判経過が出る度に思い出す私こそが、それこそ「難儀な」パブロフの犬であることは言うまでもない。

Original 1996 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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