「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
「ユビシュク」ッ!

 新湯温泉「新燃荘」に着いたのが予定より早かった。まだ昼過ぎである。韓国岳や新燃岳に登るには時間が足りない。仕方がないので霧島神宮に行くことにした。

 なるほど大きくて立派だけれども、さほど神社とゆーものに興味もないので、境内をプラプラして、これがホンマの「暇つぶし」。やはり、寺社仏閣の観光は老夫婦に限る。風景にシックリ馴染むとゆーものだ。オレは似合わんな。なんて考えてると、おお!正にイメージ通りの老夫婦が目の前に居るぢゃないか!石の台の上の風景案内板を仲良く二人で見ながら、あっちの方向はどこでとか話している。

 --------あっちが桜島なんですね。      、とバーサン。
 --------そうそう。                、とうなずくジイサン。
 --------これは何と読むんですかねえ?
 --------あー?これか?これは「ユビシュク」だ。

 ???、ワハハ!そりゃ「いぶすき」だよ「いぶすき」!指宿ってムチャ有名ちゃうんか!?
 とはいえ、要らぬ茶々を入れて婆さんの爺さんへの信頼や、爺さんの婆さんへの威厳を失わせるのは余りに野暮とゆーものだろう。何も言わずに私はそこを立ち去ったのであった。

 ・・・・・・・・・・・・

 全く同様のエピソードが呉智英の「大衆食堂の人々」なる本に出て来る。著者が食堂でメシ食ってると、カウンターの向こうでテレビで見てたそこのオバチャンがオッチャンに尋ねるのだ。

アンタ、これ何て読むんかね?
ああ、そりゃオマエ「フトマキ」だ。

 「フトマキ」とは映画村や弥勒菩薩の広隆寺がある京都「太秦」のことなのだった。

 ・・・・・・・・・・・・

 早熟のライフル魔永山則夫は獄中で猛勉強して、極貧の生い立ちと、満足な教育を受けられなかったルサンチマンを「無知の涙」とゆー本に叩きつけた。そこには無知への深い憎悪がある。ごっついパンクな怒りに満ちた奇本である。基本的にその気持ちは正しい、と思う。無知は唾棄すべきものなのだろう。

 しかし思うのだ。若者の無知が腹立たしいのに較べて、年寄りの無知は時として哀しくも愛おしい。反核アニメの傑作「風が吹くとき」に描かれている、老夫婦の無知は哀しさばかりが目立つが、あれの主人公が若夫婦だったら単なるそれはボケタワケなのであって、全くオハナシにならんのだ。「いぶすき」が「ユビシュク」で「うずまさ」が「フトマキ」でも誰も困らない。ほほえましくさえある。それでいーんだ。

 宿に戻り、真っ白な硫黄泉に浸かりながら、ガラにもなく優しい気分になれたのであった。無論、南九州の宿では必ず出て来る「ブタの角煮」がとても美味く、ビールに良く合ったのも理由の一つではあるが・・・・・・。

 そーなんだそーなんだ。地名の読み違いなんてどーでも良い事なんだよな。目クジラ立てる事ないんだよな。と思えない人の為に最後に地名クイズを少々・・・・・・。

  1.丹後の「間人」
  2.向日市の「鶏冠井」
  3.東住吉区の「杭全町」

いずれも超難読です。サラサラと正解出来る人の方がハッキリ言って、ヘンです。

Original 1996 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved