「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
秋山郷を行く〜〜切明/屋敷温泉

 信州秋山郷は、JR飯山線沿線の新潟県側より谷に入って行く。だから長野県に属するとはいえ信州の感じがしない。地理的には、スノーリゾートで名高い苗場の、丁度山の裏側に当たる。直線距離では10kmも離れてない。道路が依然未整備なので遠回りして行かねばならないのだ。
 無論冬は豪雪に閉ざされ、落人伝説も残る山間の集落群である。ま、信州の秘境とゆーよりは、上越国境の秘境ですね、実際は。

 谷沿いにはそれぞれ個性のある多くの温泉が点在する。近年の村おこし事業で掘り当てたトコも多い。多分、どこでも出るんだろう。この最奥が、川原から直接湧く湯に入れることで有名な切明温泉だ。国道はここで切れ、後は奥志賀林道につながる、大荒れの雑魚川林道とゆーのが細々と続いてる。素人はウカツに入り込んではいけない。この辺の林道は想像以上にハードである。

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 無論国道と言っても名前だけ。津南からのアプローチはひどく曲がりくねってる上に狭い。途中の谷は非常に深く、ガードレールも怪しかったりで大変だ。
 秘湯に向かう高揚感よりも、対向車との離合にいい加減ゲンナリし始めた頃になってやっと到着した。周囲は真新しい村営の保養施設がポツンとある。
 
 川原に下りると、巨きな石がゴロゴロしてる。そんな、手でほじくり返して湯舟がこしらえられるような砂地なんぞ何処にも無い。川に手を入れてみる。無茶苦茶冷たい。そりゃそうだ、昨日奥志賀で山田牧場から笠岳越えのルートで発哺温泉に下ろうとしたら、雪が1m近く残ってたもんな。
 よく見ると、離れた岩の上に服が脱がれて置いてある。結構人は来てるのだ。バーベキューの焦げ跡も残っているから、休日は混み合うのだろう。

 結局、岩のスキ間や浅瀬のあちこちに手を突っ込んで、やっと頃合いのを見つけたのは30分近くも経ってからだった。いい場所にはどれも先客が居る。何やねん何やねん!?よー見たら、どいつもこいつも水着やんけ。軟弱やのお。性根据えてかからんかい!!
 とはいえ深さは20cmもない。尻と太股の裏側だけが無闇に熱い。私は洗面器を持って来なかったことを後悔した。湯は少量づつではあるが、かなり熱湯に近い温度で湧き出してるのが分かる。

 どれ位の時間ピチャピチャやってただろう。ちっとも温泉に入った気がしないが、少しは汗ばんでたのだろうか、アブがたかり始めた。何でか知らんけど、春から初秋の露天風呂には必ずコイツが近寄って来やがる。
 気がついた時はすでに3発噛まれた後だった。クッソォー!

 正直に告白すると、私はやや失望した。まずまずハードコアな環境とはいえ、火を焚いた跡だらけ。ついでに言うと、残されたゴミも目立った。立派な駐車場もある。何のこっちゃない。これじゃお馴染みの高槻の摂津峡と何ら変わらへん!それでも行ったのがシーズンオフの平日だったから、「山の迫る渓谷の天然の風呂」の風情を幾許かは楽しめただけとちゃうんか?

 そーいやあ、同様のシチュエーションの和歌山・川湯温泉も近くにキャンプ場が出来てからは、行楽シーズンは呆れるほど沢山の人であふれ返る。 秘湯は何故秘湯なのか?の議論が置き去りにされたまま、そうして遠慮会釈なしに押し寄せる行楽客を受け入れるのは、長い眼で見た場合、決して地元にも良い事とは思えないのだが・・・・・・どうだろう?

 少し憂鬱な気分で、私は今夜の宿泊地、屋敷温泉へと引き返したのだった。




 先週は何だかスッキリしない結末になってしまった。今週はメデタク行こう。 だから最初に言っちゃおう。

 --------屋敷温泉「秀清館」は実に感じがよろしい

 言いたいことはこれだけだ。しかし、これではこのまま終わってしまうので詳しく述べることにする・・・・・・スンマヘン、人食った出だしで。

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 切明から戻ること約5km、少し谷の広がった所が屋敷の集落である。川っぺりには立派な新築の小学校が建ってたり、駐在所や消防詰所、タバコ屋兼酒屋兼食料品店、農協にスーパー、役場の出張所、と淋しいながらも一通り揃ってる。山奥の交通の要衝なのだろう。
 旅館は民宿を含めて僅かに2軒、隣同士で小学校の対岸に建つ。経営も親子だか親戚だかでやってるらしい。私が泊まるのは旅館の方で、上記の通り「秀清館」という小さな2階建ての木造だ。にこやかなオバチャンが出て来た。

 まずは内湯に入る。全く特徴はないが、川に向かってガラス張りの平凡な浴室は、最近作り直したものらしい。小学校の運動場が望まれる。湯もひたすら熱いだけで無色透明・無味無臭。特段取り上げるべき点はない。
 案内された2階の部屋も至極フツーの部屋。食事も山菜の天ぷらやらお浸しやらキノコのホイル蒸しやらと、山宿の定番を地で行く内容だ。ま、ここまで山菜オンリーなのは、少し珍しいかも知れない・・・・・・あれ?フツーやんか。

 ・・・・・・何がそんなによろしかったのかと言えば、それはベッピンの娘さんがいたのは尻焼温泉!違う!

 すごく綺麗なのである。隅々に到るまで。

 決して新しい旅館ではない。風呂以外は随分古びている。やっとるのも家族の数名だけだろう。なのにピカピカに磨き上げられてる。愛想だって非常に良い(誤解の無いよう申し上げると、観光旅館にありがちなベタベタした御世辞とかがあるワケではない)。要はハキハキ・テキパキやってくれるのだ。

 これでお値段は随分安かった。当たり前のことを当たり前にキチンとやって、モノ分かりのいい料金。これに感動するとは良く考えずとも、如何に他の日本の旅館と呼ばれるモノがえー加減に仕事をしてるか、とゆー事実の証左に過ぎないのだけれど・・・・・・。旅館の格が料金帯で決まるような現状では仕方の無い事なのかも知れない。

 さて、ここは露天風呂が変わってた。通常建物の裏手や隅っこにあるものなのだが、探しても見つからない。聞くと宿の表にあると言う。何と!Y字型に隣の民宿とに道が分かれる部分に、共有のモノが堂々と造ってある。
 余りにドーンと前にあったので、流石の私も鯉の池か何かと勘違いしてたのだった。ごっつい熱い混浴で広さは8帖敷位ある。千葉からやって来たと言う初老の御夫婦と一緒になった。さっき食事を終えた頃、入れ違いに食堂に下りて来た人達である。結局、客は2組だけみたいだ。
 降るような満天の星の下(月並みやな)、私達はいつまでも出たり入ったりを繰り返していた・・・・・・。

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 後日談を一つ。ココ、例の温泉大王・美坂哲男氏の常宿なのだそうだ。ホンマ、よー識ってはるとゆーか、油断も隙もないとゆーか、恐れ入りましたっ!

Original 1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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