地名でお分かりだろう。北海道だ。知床だ。だからとゆーて安直に秘湯ばかりと考えたら大マチガイ。羅臼の熊ノ湯みたいなバッタモンの例もある。
・・・・・・・・・・・・
半島の一番付け根を横断するのが、かつての観光ルート・通称「野付国道」である。羅臼と宇登呂を結ぶ知床道路が完成してからというもの、観光客はそっちにシフトし、すっかり寂れてしまった。
まずは金山峡温泉に到着。国道沿いのドライブインだが、源泉が枯れて温泉の方は廃業しちゃったとのこと。しええ~。あるんだよこのパターン、たまに。
申し訳なさそうにしてるオバチャンに、足元にまとわりつく子犬を撫でながら、薫別への道を尋ねた。
--------え?(ひと呼吸置いて)・・・・・・薫別、行かれるんですか?
--------(既にビビリ入って)そ、そんなにハードなんですか?
--------(クルマをチラと見て)まあ、ゆっくり走れば大丈夫でしょうけど、見つかるかな・・・・・・
--------何も目印無いんですか?
--------確か小さな杭が立ってたような気がするけど、最後に行ったの4年位前だからねえ・・・・・・。とにかく薫別川渡ってすぐだから。
--------道はあるんでしょ?
--------山道、ちょっと下りるだけだけど。それより、熊、出ますよ。秋だし、冬眠前だし・・・・・・。山に入ると沢山居ますよ。
しえええ~。私は熊除けの鈴を見せたが、一笑に付された。そんなん全然役に立たんらしい。ならば秘密兵器を見せたろやないか。こんな事もあろうかと抜かりなく用意して置いた、1斗缶2ケに鉄パイプだ。私は叩いて見せた。
--------あら!ちゃんと持っとられるじゃないですか。それなら遠くまで聞こえるし、襲われないと思いますよ。
無人の疎林をゴトゴトと小1時間、トリップメーターから判断して薫別川らしき川を渡った。標識も何もない無人の山中だ。クルマを捨てて周囲を探すコトにする。無論、缶をガンガン打ち鳴らしながらである。丸きりアホだな。
案外アッサリ見つかった。信じられない程青く澄み切った川の渕の崖の割れ目から湧いている。湯舟はコンクリで窪みをせき止めただけ。言うまでもないが何の設備も無い。ロープをくくりつけたバケツがあるだけだ。これで2m位下の川の水を汲んでうめるのである。横には噴泉塔があって、てっぺんからチョロチョロ湧出してる。対岸でも同様に湧出する。或いはさらに奥地にまだあるのかも知れない。そう疑いたくなる程に川は青かった。
私はせわしなく缶を叩きながらもジックリと入った。無人の渓谷にガンガンと1斗缶の音だけが響く。食塩泉らしくノボセやすい。出たり入ったりを約1時間、缶のおかげかそれとも始めから居なかったのか、ついぞヒグマに遭遇することは無かった。ホッとすると同時に少し残念に思ったのが、生意気な口叩きながら、私も実は貪婪な旅行者に過ぎないことの顕れだろう。
人の手に染まってないことが秘湯の絶対条件であるならば、断言してもいい。ここは数少ないホンモノの「最後の秘湯」である。営林署に発見されて、最低限の細工だけで、人に知られる事もなくひっそりと湧き続けるこの薫別温泉。ヘンに名所になることなくこのままであって欲しいと思う。
ちなみにココ、美坂哲男氏の本にも載ってないんですよ。フッフッフ。 |