「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
新興住宅地の迫る、駒ノ湯温泉

 伊豆半島は温泉の宝庫である。有名な修善寺・湯ケ島を筆頭に、誰もがそのバカデカさにたまげるハトヤを擁する伊東、何やったっけ「細うで繁盛記」かなんかの熱川等々、まあ目白押しである。
 数は多いのだけど、何せ首都圏から近く、古くから発展した温泉場が大勢を占めていて、秘湯には正直言って乏しい。特に東海岸はその傾向が強い。

 え?北川の海見る露天風呂?高いんだよな〜アレ。それに湯を抜いてる時が多い。よくAVのロケしてるってウワサがある。大滝・七滝がある?大したコトないよ、アソコ。土肥のまぶ湯はカルトだけど入れないしな。大沢?その内紹介するからさ。雲見に石部?わーったって!それも今度書きます。

 ・・・・・・何一人でいちびってんねん?

 伊豆旅行の1泊目に、どっか安いトコないかいな?とガイドをひっくり返したのは今から7年前の秋だった。 「駒ノ湯温泉」なるのが出てる。一泊二食で5000円はベラボウに安い。この際内容は無視しよう。キメた。予約はすぐ取れた。

 勇壮な海岸美、名作の舞台となった落ち着いたたたずまい、それはどれもこれも半島を随分南下してからのハナシだ。三島から伊豆長岡位までは、変化に乏しい、中途半端に開発の進んだ虫食いの風景が続く。この低い丘陵地帯に件の温泉はある。

 「好評分譲中!」の幟が並ぶヒナ段の新興住宅地を抜けたと思ったら、もう旅館に着いた。周囲を雑木林に囲まれた1軒宿だ。元々は近隣の農閑期の湯治場だったらしく、決して豪華なモノではない。大体値段が値段だから、想像は付いてたけど・・・・・・。

 部屋の印象は記憶に残ってない。簡素っちゅーよりは粗末とゆーた方が正解だったことは確かである。とりあえずは風呂に入ろう。今日はココだけなのだ。馴れないのもあるけど、どうも名神・東名は時間が読みにくい。こんなに早よ着くのなら、もーちょっと寄り道しとけば良かった。まだ2時半だ。

 円形の大浴場には年寄りがチラホラ。伊豆の温泉の特徴は「ひたすら無色透明・無味無臭の湯」であることに尽きる。つまり温泉かどうか分かりにくい。無論ここもそうだ。ドアから外の露天風呂に出れる。

 外に出てそのシブいたたずまいに驚いた。表の道路からは林にしか思えなかったが、樹間に露天風呂が点在している。無論混浴。時間が早かったのと、湯温が比較的低いためか、殆ど誰も入ってない。私は思う存分入り倒した。
 木々の奥をよぉーく眼を凝らして見ると、新興住宅地が案外近くにまで迫って来てるのが分かる。その様子は、ノワノワと不気味に広がるアメーバか何かに浸食されてるようでもあった。

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 実を言うと、ここのように遠隔地で、ある程度開けた場所にあるめっけもんの温泉には、原則的に2度と行かない。非常に単純かつワガママな理由だ。
 再訪した時に、すっかり様子が変わってて失望するかも知れないからである。

 これまで宿を支えて来た近郷農家が減少し、世代の紐帯を断たれた核家族の住まう新興住宅地が迫る中、あの姿のまま駒ノ湯は今でも残ってるだろうか?それとも或いは、ヒマを持て余すオバハン達相手の「日帰り昼食プラン」をメインにした、薄っぺらな割烹旅館マガイへと変貌しただろうか?

 それを知りたいとは思わない。


2004補足
 「伊豆東海岸の秘湯」ということになると、河津浜のバス停横の露天風呂あたりが挙げられると思うが、どうも私にはあれは珍奇なだけのキワモノに思えて仕方ない。

Original 1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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