「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
とっても嬉しい、木部谷温泉

 温泉巡りをしてて何が一番おもろいかと言うと、そりゃもう「地図にも載ってないヤツ」を見つけた時に限る。但し、最近流行りの1000mボーリングのクアハウスもどきはダメ。1000mもほじくり返して何も出ん方がおかしい。だから、他所に知られることなくやって来たのでないとイカンのだ。
 しかし未だこれを売り物にしてるトコもある。曰く「地下3000尺!本物の温泉!」とか色褪せた看板に出てると、ま、それはそれで違った楽しさがある。アルプス1万尺じゃねえっちゅーの!

 さて、とは言うもののハマる程に必要以上に詳しくなるのがオタクの悲しき習性。当然、知らない温泉は知識の増大と共に減って来る。知るは不幸の始めなり、とは正にこのことだ。特に、以前紹介した温泉大王・美坂哲男氏の驚異の7巻本を入手してからは、全く未知の温泉は日本から殆ど消滅した。流石は5000湯達成ジジイだ。アタマが下がります。

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 島根県の益田から広島に向かう山中は冷鉱泉ばかりだが、泉質や湯の色、たたずまいにひとヒネリあるのが多い。年寄りで混み合う目当ての柿ノ木温泉もシブかった。そこを出て2km程走った辺りだった。看板が出とる。

 「名所・冷間歇泉、木部谷温泉」

 すぐに私はダッシュボードの美坂本と照合した。無い。いやいや安心は出来ん。カスのよーなクアハウスは、文字通り雨後の筍の勢いで増え続けてる。
 ともあれ冷間歇泉の方にも心牽かれるものがあって、クルマを停めた

 熊笹の繁る山道を少し登るとそれはすぐに見つかった。
 直径3m位の、驚く程鮮やかな真っ黄色の泥水の池である。薄暗い雑木林の中で異様な光彩を放っている。多分、大量の鉄分を含んでるのだろう。噴水のように出るワケではなく、1時間に1ぺん程度のペースで、ボコボコと泡立つらしい。それは相当毒々しい光景に違いない。周囲は赤褐色に染まる。
 とにかくコッテリしてる。天下一品のスープみたいと表現すれば分かり易かろう。その濃厚さは二股ラヂウムや毒沢に優るとも劣らないドロドロであった。
 この一部が樋で引かれて、下に建てられた真新しい村営の共同浴場に使われるのである。

 館内に掲げられた由来を読む。古来この鉱泉は存在し、近隣では霊泉として名高く汲んで帰って用いられてた事、五衛門風呂を置いただけの粗末な湯屋が最近まであった事(そん時入りたかったな・・・・・・)、その跡地につい何年か前、この施設を「村おこし」事業で建てた事、等々が分かった。泊まることも出来るみたいだ。

 浴室自体は新築なので、何も期待すべき点はない。至極平凡な男女別の内湯があるだけだ。この手の泉質は時間が経つにつれ湯は酸化し、色が悪くなって行くものなので、あの鮮やかな黄色のままでなかったのは残念だが、それでも上記のコッテリ系と比肩し得るに十分な濃さを保っていた。

 こんなキテレツな鉱泉、そーとー珍奇な部類に入る。誰も今まで旅館の経営を考えなかったのだろうか?この近くにはもっとフツーの、ただの水みたいな湯で、もっと不便な場所で頑張ってるんだってあるのに。
 或いは案外能書きはデッチアゲで、その異様さに昔は誰も薬効があるとは思わなかったのかも知れない(例えば有馬の炭酸泉は大正位までは毒水と信じられてた)。それがこの温泉ブームで急に脚光を浴びて・・・・・・止めとこう。だからオタクはいけない。

 今はただもう素直に未知の温泉を発見して嬉しがってりゃいーのである。

Original 1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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