「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
秘湯の基本、十津川温泉上湯

 紀伊半島の山深さは世人の想像を遙かに凌ぐ。紀の国の語源が「木の国」にあるとゆー説も、絶滅したハズの日本オオカミが未だに棲息すると根強く囁かれ続けるのも、あながち一笑に付せない。これを支えるのが、ケタ違いに多い年間降水量だ。これが標高の割に深く、峻険な渓谷と、豊富な水量の川を形成してる。尾鷲は日本一傘の売れる町で有名だ。地場産業として傘工場が無いのが不思議な程である。
 非公認だが猛烈な記録が残っている。大正年間(何年だか忘れた)、大台ケ原は桃ノ木谷の大台教会に設置された雨量計は、3日3晩で1万ミリの膨大な雨を観測した。1時間約140ミリ、10mだ。事実だとしたら凄まじいのだが、余りに途方もないデータに、観測機器の故障とされた。だから非公認。
 通常1時間30ミリも降れば、十分豪雨だ。確か長崎の大水害の時だって時間100ミリだったから、確かにニワカに信じ難い数値ではある。

 さてさて、人跡果てる紀伊山中には、近畿圏では珍しくマトモな高温泉が多い。それぞれ鄙びた味わいがあって楽しいが、今回はタイトル通り秘湯の基本、十津川温泉上湯を紹介しよう。日帰りで十分行ける。

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 五條から幻の国鉄五新線に沿って、新宮目指して南下する。途中にも幾つか温泉があるので、立ち寄ってみるのも良いだろう。谷瀬の吊橋は、観光場所としては欠かせない。秋から冬はワイヤーも延び気味で良く揺れて面白い。

 十津川温泉は3地区に分かれる。国道沿いに旅館の点在する十津川、その湯元である下湯、そして最奥、旅館が数軒と村営の半露天の共同浴場があるだけの、今回紹介する上湯だ。
 狭い道路脇に鬼太郎の妖怪ポストみたいなんが立ってる。ここに料金を入れて川に下りると、差し掛け屋根の風呂が男女別に5m程の距離をおいてある。大抵の場合、どちらかは大水で土砂に埋まってるので、混浴と変わらない。無論どちらもボロボロなのは言うまでもない。
 湯はかなり熱い。極めてオーソドックスな湯の花漂う硫黄泉だ。

 河岸一帯からも湯は出ていて、少し掘るとジワーッと湯が湧いて来る。夏休み期間以外なら人影も疎らだ。フロでのぼせたら川に入れば良い。すぐ傍らには観光用だが「野猿」(人力ロープウェー。奈良山中にはかつて無数にあったらしい)もあったりする。記念写真でも撮りましょか?

 このシチュエーションは少々ハードやないかと不満の向きに、綺麗に整備された露天風呂が最近少し上流に出来た。わしゃ好かんけどね。高いし。大体女は男の方丸見えやのに、逆がアカンてどーゆーこっちゃ?
 ひつこいよーだがオトコのハダカはいかん!どだい貧しげで美しくねえ。ハダカはオンナに限る。この意見だけは譲らんど!・・・・・・いかんいかん。激昂してしまった。

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 18才を振出しに、もう何回行ったか分からない。数年前、例の料金箱の横の自動販売機でジュースを買った。オツリのフタを押しても、引っ掛かって開かない。意地になってグイとやったら、ザラザラと小銭が(それも百円・5百円玉ばかり!)出て来た。数えると総額8千円以上にもなった。

 これはきっと温泉の神様が褒美をくれたんや!。何でも一心不乱に追求してみるもんやなー、と勝手に解釈して有り難く呑み代に替えさせて頂いた。

 だから、っちゅー気は毛頭無いが、ここが素敵な秘湯である事は確かだろう。

Original 1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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