「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
日本最小共同浴場、寺尾野温泉

 --------どこやろなあ?地図やとここしかあらへんねんけどなあ。
 --------でも、こっから先、家もあらへんよ。
 --------畑ん中にあるんかなあ・・・・・・。無さそうやな。

 村外れ、舗装が途切れて農道に変わる辺りで私達はクルマを停め、途方に暮れた。道は急に細く険しくなり、軽トラがやっと上がれる程度だ。こんな時のセオリーは、刑事ドラマじゃないけど「足で探す」に限る。
 周囲はのどかな山村。地図上の温泉マークは谷底ではなく集落付近にあるから、ここを中心に徹底探索するしかない。人に尋ねれば手っ取り早いのだろうけど、朝7時、人影は全く見当たらない。

 元の数戸の農家に向かって下る途中、綺麗に刈られた草地に枝振りの良い松が一本。脇には小さな地蔵堂が建っている。絵に描いたような構図だ。ここでオニギリとサンドイッチとゆーのも悪くはない(温泉旅行の際、旅館の朝食は余りに出発時間が早いため断ることが多いのです)。

 近付くと地面に水色のタイルの破片が散らばってる。あちゃー!無くなってしもたんかと思ったのは早トチリで、このお堂が何と、寺尾野温泉の共同浴場なのだった。勿論、無人だ。

 見た目は古風なお堂だが、結構新しい。まずは入る。男女別の浴室には無色透明の熱い湯。このテの無人共同浴場はボロボロ/カビまみれがキマリだが、想像に反して内部は手入れが行き届いてる。隅っこに置かれたデッキブラシやバケツ、ホース、ゴム手袋も真新しく、キチンと整理されている。
 決して立派なものではないけれど、地元の愛着が伺えて嬉しくなる。きっと大切にされてるのだろう。そーいや、「地元民以外入湯お断り!」の看板も見当たらない。最近多いよな〜、アレ。ガックリ来るもんな・・・・・・。

 特筆すべき点は、垓(正しくは山ヘン)ノ湯で触れたのと同じく、男女別に浴室は仕切られてるにもかかわらず、全くその仕切りが用を為してない事だろう。ここは更に無意味な例で、湯舟の水面ギリギリから約50cm程の羽目板があるだけだ。つまり浴槽自体は筒抜けになっている。ここまでして男女を分離する必要がどうしても理解できない。
 不思議な事に、やはりここも湯舟以外は身の丈位の板壁で仕切られる。何かこの地方特有の風習とか祭があって、共同浴場がそれに用いられるのだろうか?フロの中でハダカで見合いするとか・・・・・・んなワケないよなー。

 上がると、出口の所に賽銭箱があった。上には建て替えに当たって、寄進をした人々の芳名がズラツと札になって掛かってる。ギッシリと書かれた説明板を読んでみた。少々長くなるが大意はこうだ。

 「・・・・・・長らく愛されて来た当寺尾野共同浴場も、随分古くなっておりました。建て替えに当たっては、別記の方々の御浄財を賜ることが出来、先年、念願叶ってこんなに立派なんが作れました。メデタシ、メデタシ。とはいえ、実を申しますと立派過ぎまして、資金がチョーッとばかしショートしちゃいました。つきましては、ここに入湯する方はその意を汲んで頂きまして、少ーしばかり、多い目に喜捨をしてもらえるととっても嬉しいのですが・・・・・・。家はたった4軒しかない村ですが、これからも大切に温泉は守って行く所存ですのでよろしゅう頼んます・・・・・・」流石に文章なので「バッテン」は無かった。

 ワハハ!何だかいい!コレ。正直で謙遜しながらも、スチャラカなのが気に入った。それに何より「オラが村のいで湯」への愛情が溢れてる。タイトルの最小とはつまり、湯を守る家々の軒数のことだ。
 ホント、過疎化の進んだ村で温泉を維持するのは実に大変だろう。手間はともかく税金だってバカにならないハズだ。頑張って欲しい。
 温泉の宝庫、大分・熊本県境、実は先週のネタの翌日のハナシである。

Original 1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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