「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
越えられないカベ、垓(※)ノ湯温泉

 大分・熊本県境は、その名の通り湯気をもうもうと噴き上げる湧蓋山を中心に、日本有数の温泉地帯・・・・・・このイントロ、以前に使ったな。スンマヘン。

 村人にジトーッと監視された(と思っただけだろうが)エピソードを紹介した岳ノ湯温泉よりさらに上がると、垓ノ湯温泉に着く。

 実はこの漢字、正しくは「山ヘンに亥」であるがワープロに無い。所謂「外字」とゆーヤツで、「ハゲ」と読む。「草木が枯れて地面が剥き出しになってる様」とゆー意味なので実際「禿」と変わらない。私もヤバいって、ダァーッ!うるさいわい!

 湧蓋山がもう眼前だ。物凄い勢いで蒸気の噴き出してるのが見える。クルマで登ると、そこは地熱発電を計画してる場所なのだった。轟音と共に100mくらいの高さまで蒸気が上がり、傍らには熱湯の真っ青な池があった。ここからも随分引湯してるみたいで、ゴムホースが何本も麓に向かって延びている。

 今夜の泊まりはここの松屋旅館という宿だ。「バッテンバッテン」が無闇に会話の途中に挟まる元気な女将さんに案内されて、部屋に上がる。天井だけが白木のピカピカで、異常に新しいのが目についた。

 --------えらい天井、新しいですね。
 --------そうバッテン(と言ったかどうかは不明。原文は再現不能なので、方言は筆者の気分)。台風19号で屋根引きむしられて、もうちょっとで旅館ごとつぶれるごたるメに遭うたバッテンが、お客さん達の予約が入っとったバッテン、どーなるかなーて。それがやっと昨日直ったバッテン。屋根出来て初めてのお客さんで、めでたいことバッテン・・・・・・。

 そのせいかあらぬか、夕食は御祝儀とばかりに豪勢やったバッテン!貧乏性な私は思わず料金を確認した位だ。中でも「鶏の地獄蒸し」とゆーのが変わってた。村中に点在する蒸気を利用したカマドの中に、丸のままの地鶏を2時間ほど突っ込んだ物で、ポン酢みたいなタレで食べる。荒っぽい調理法とグロテスクな見かけとは裏腹に、実に淡白で繊細な味わいである。
 岳ノ湯でそがれた気分がすっかり晴れた。ゲンキンなもんだ。

 旅館から少し上がった所に露天風呂がある。古風なカンテラを貸してくれた。大きな楕円形で混浴の湯舟がポツンとある。何てことないシンプルなものだ。しかし頼りなく揺れるランプの光だけで温泉に入るのは随分久しぶりで、黒く沈む山影を見ながらの風呂は心地よかった。

 旅館の横が共同浴場を兼ねた内湯になっている。こちらは非常に古風なたたずまいだ。適度の荒れ方も良い。男女別の入口を入って脱衣場。その奥の扉を開けて・・・・・・!?はあ?

 極端に男女の浴室の間仕切りが低いのだ。

 小判型の浴槽が真っ二つに男女で仕切られる形になってるのだが、壁の高さはタイルの床から1m程しかない。それも湯舟の部分だけ。後の洗い場はまともに2m位ある。
 無論、お互い丸見え。それでなんでワザワザ男女別に区切ってあるのか、サッパリ分からない。年季の入り方からすると、後から壁を作ったのではなく、当初からこのスタイルだったのだろう。私も妻も、首をひねった。何なんや?

 バッテンな女将さんに質問しようとして、止した。尋ねることでクレームと勘違いされても困る。こんなケッタイな風呂の形式、他所で見たことない。恐らく、この辺特有のものなのだろう。そーゆーのはあった方がいい、絶対。

 おおらかなのか何なのか、非常に不思議な秘湯なのでした。

2004附記
 2004年、宮城県は蔵王の青根温泉で共同浴場に入ったら、やはり男女の仕切りが低いタイプだった。2千kmも離れた場所で共通の様式の理由は不明である。

Original 1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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