「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
近場を見直したくなる、国領温泉

 それにしても近畿には温泉が少ない。有馬だけが突然変異的に高温泉としてあるだけだ。城崎・湯村・白浜・勝浦・・・・・・とても気軽に行ける距離とは言い難い。

 え?太陽温泉や千里の湯があるじゃないか、って?大阪サンパレスも温泉だし、フェスティバルゲートも出来たやないか。中津にも出たらしいで・・・・・・。
 分かってないなー。駐車場の順番待ちがあったり、送迎バスがあったり、入場制限されるよーなトコ、誰が行きたいねん!?ドアホ!千里石亭かて温泉やろ?あれは料亭!温泉はオマケでくっついてるの!

 求めてるのは「たたずまい」なんだ。銭湯ともヘルスセンターともつかない自称「温泉」(但し1000mボーリング)なんて、ハナシのネタに一度行きゃ十分。まして泉質・効能云々なんて二次的な問題、どーでもいいコトなんだ。

 勢い、近場は冷鉱泉巡りが殆どとなる。そんな中には、以前取り上げた増位温泉・鹿ノ子温泉といったパンクな迷湯もある一方、全国区で比較してもイケてる掘り出し物があったりする。
 何事も謙虚が一番、侮っては駄目である・・・・・・と私が言っても信用ないな・・・・・・。

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 舞鶴道の春日ICを下りてすぐ、福知山線なら黒井駅の近くに国領温泉はある。
 田んぼの中を抜け、少し山に差しかかった辺りにポツンと建つ一軒宿だ。周囲にはホント、何もない。北摂から丹波にありがちな「山深くはないが、ボサボサと草深い風景」としか言い様がない。平凡の極致である。
 宿は大きくないけど決してボロではない。綺麗に刈り込まれた庭を持つ瀟洒なものである。誤解の無いように申し上げるならば、立派に「旅館」してる。多分客層は、近隣の宴会とゴルフパックがメインだろう。
 入浴のみもOK。確か500円だった。

 温泉を看板にしてるとは思えない位に小さな浴室は、これ又全く何の特徴もない。浴槽にはいかにも鉱泉らしい赤褐色の炭酸鉄泉が湛えられる。別に風呂からの見晴らしが良いワケでもなく、ボケーッと入ってると、だんだん時間の感覚が失せて来た。

 レポート自体はこれで終わり。だってホンマに何も無いんだから。

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 ここまで読んで、浴室の小ささに注目された方は鋭い。本来、鉱泉宿の浴室は狭いのが当たり前なのだ。大体において鉱泉の源泉湧出量は貧弱だし重油代がばかにならないからである。ここ国領にしても1分間の湧出量は僅か数リットル。これをなるだけ正直に使用すると、自ずと風呂のデカさには限度がある。千人風呂なんざ作った日にゃ大変だ。
 実は現在、数ある日本の温泉旅館で、源泉100%でなおかつ非循環風呂を持つ所は皆無である。大温泉地だからといって安心出来ない。むしろそーゆー所の巨大観光旅館ほど源泉をケチッてる。何故なら、物凄くランニングコストがかかるからだ。「風呂自慢の宿」のキャチフレーズや、豪華な岩風呂の天井付近から蕩々と流れ落ちて来る湯に、騙されてはいけない。ま、だからといって通ぶって非難するのもいかがなものかとは思うが・・・・・・。

 従って、規模の割に大浴場がチンケなのは逆に信頼が置けるだろう。バカ正直に源泉だけで風呂をこしらえた結果、そうなっちゃったのだから。

 だからこそ私は、ここ国領温泉を推すのである。いつまでも地味で平凡な存在のまま、草深い田舎に埋もれていて欲しい。

Original 1997 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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