知る人ぞ知る、二股ラヂウム温泉 |

最寄り駅はこんなん(笑)----ウィキペディアより
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満を持しての新シリーズ「秘湯編」をお送りする。1発目はここしかない。
--------お兄さん等、そんなに温泉好きなら、二股にはもう行ったか〜?
--------いえ、13日の晩泊まる予定です。
・・・・・・道内旅行中、一体何度この会話を交わしたろう。それ程までに二股ラヂ(「ジ」ではなく「ヂ」なのです)ウム温泉の名は鳴り響いていた。名湯にして秘湯、そして奇湯、確かにこれらを1軒で兼備する温泉は滅多にない。
エスキモーの氷の家かトーチカか、不思議なドームが2つ並んだ全景写真は、しばしば旅行雑誌に紹介されている。私も以前からそれを見て、非常に楽しみにしてたのだ。
長万部の北西約15km、1本道の奥に、呆気なく二股ラヂウム温泉はあった。ドームの1つは浴室だ。もう1つは・・・・・・天蓋が落ちてアバラ屋になっとるやんけ!ちなみにこれは、最後まで意味不明の「水の素」なる何かについての資料室だったらしい。この謎の六芒星のロゴマークは、入口を始め館内のあちこちで見かけた。かなり宗教入っとるカンジやね。
肝心の旅館部分は、増築と改修を繰り返してボロボロの木造2階建てである。
実はこの旅館、谷を埋め尽くす膨大な石灰華(湯に含まれる石灰分が凝固したもの、一種の鐘乳石)の上に建っている。だからドームは奇を衒ったものではなく、逆に景観にマッチするようにデザインされたものなのである。
さて館内。ゾロッと浴衣に綿入れの年寄りばっかしなのは当然か。若造は私達だけみたいだ。いきなり土の固まりみたいな大きいマネキ猫が目につく。周囲は無数の同様の花瓶。これらは、どんどん湧き出す温泉の湯を掛けて固めたオブジェなのである。花瓶の中を覗くと、何と芯は牛乳罎だった。土産として売ってる。一つ買ったが300円だった。
廊下の反対側には大きな看板。温泉の由来や湯治についての心構えが、大マジメに書いてある。えーどれどれ?
「・・・・・・大正ン年、当温泉の泉質の調査をされた東京帝国大學理学博士●●教授は、その中に貴重なる放射能成分が大量に含有される事を発見され『ラヂオシンター』と命名、その効能の絶大なる事を学会にて発表・・・・・・」
いつぞやのハニベと同じで、稚気あふれる権威主義が妙におかしい。大体このテの文章の特徴は「異常に1文が長い」ことである。多分、長い程勿体ぶった感じが出ると思ったんだろう。ワハハ!わしゃアカンな。
ガランドウの部屋に荷を降ろして間もなく、夕食を告げる豆腐屋の鐘みたいなのが階下から聞こえて来た。まだ5時だ。殆ど病院の夕食のノリである。食堂に行くと年寄りがギッシリ勢揃い。その数優に100人を超えてる。簡素な食事をスシ詰めになって黙々と食べながら、私は妙に感動していた。
風呂について書き忘れるトコだった。例のドーム型の浴室を筆頭に数ケ所、いずれも混浴。極めて珍しい黄土色の湯はとにかくドロドロで、すごく泥臭い。困るのは水道水まで泥臭いことだ。コンタクトが洗えない。
怪しげな「ラヂオシンター」はともかく、多量に溶けた石灰分の量は半端ではない。湯船から洗い場から何から、元の土台が分からない位に石灰華に覆われて、グロテスクな鍾乳洞みたいだ。その内、埋没するんじゃなかろうか。
湯から上がると身体がキラキラ輝く。当然、石灰華が付着したためである。で、乾くと今度は全身ゴワゴワ。一年ほど入ってれば「動く埴輪」になれるだろう。尚、このゴワゴワは翌日になっても頑強に取れなかった。
・・・・・・紀行文で「行けば分かる」と書くのが反則なのを百も承知で言おう。限られた字数と私の文章力では、ここの魅力は伝え切れないのだ。
行ったら分かります。
2004附記
この素晴らしい二股ラヂウム温泉であったが、残念ながらその後経営者が変わり、今では建物もすっかり立て替えられ、ついでにお値段も立派なものになり、何の面白みもないフツーの宿になってしまったという。奇妙なドーム型の浴室も、ドカシーを張って雪囲いしたそこまでの通路も、光景はみんな永久に失われてしまった。
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Original 1996 Add 2004 |
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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