「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
温泉番付に物言い

 よく尋ねられる。最も困る質問だ。

 --------今までで一番良かった温泉はどこですか?

  多分相手の方はまだまだアオい私のことをそれなりのオーソリティーとして見てくれてるのだろうが、面はゆい。私は口ごもってしまう。

  口ごもってしまうのは単に照れてるだけではない。順位なんてつけようがないのだ。いや別段、かけっこに順位をつけないような、「価値の相対性」なんて学級民主主義のイヤラシイ部分を持ち出す気は毛頭無いのだけど。
  無いけど、例えば山峡の温泉と海辺の温泉を同列に論じることが出来るだろうか?温泉のベクトルは互いに逆を向いて無数にある。団体向けvs個人向け、歓楽vs湯治、山vs海、酸性vsアルカリ性・・・・・・言いだせばキリがない。

  仕方がないから記憶に残る温泉をあれこれ挙げてみるが、それらはどこか際立った個性のあるのばかりだ。何の変哲もない温泉にだってよく考えずとも忘れ難いのは幾つもあった。どうして順序がつけられよう?
  勢い、問いへの回答は順不同の知識の開陳になってしまわざるを得ない。聞いた相手は「知識をひけらかしやがって・・・・・・」と不愉快になってるかも知れないが、これでも悩んでるんですよ。

 ・・・・・・・・・・・・

さて、野口冬人とゆー温泉評論家が作成した「全国露天風呂番付」なるモノが存在する。西の横綱が岡山・湯原温泉で東が上越国境の宝川温泉だったハズだ。この番付表に載ってるコトを誇りにしてる温泉も数多い。

  いちいち内容は忘れたが、何だかこれがとてもウサン臭い。大体根拠が薄弱である。番付を謳うからには、公正なジャッジメントの基準でも出してみんかい!と文句の一つもつけたくなる。何で湯原と宝川が横綱なのか?私にはどーしても納得出来ない。
  しかしこの番付に気を良くした宝川なんざスッカリ天狗になってしまって、日帰り入湯だけで何と!5000円!フザケてる。又、こーゆーのにホイホイ金払うバカが居るから温泉もツケ上がるのだ。ボイコットすりゃいい。
  湯原も別に悪いとは言わん。ダムの堰堤直下の露天風呂は必要以上に手を加えず、といってワイルドに走ることもなくそれなりに風流にまとめてる。それに無料だ。東屋もそんなにイヤミではない。でも横綱では断じてない。なのに巨大な番付表は麗々しく立てられてるのだ。

 ミシュランのガイドや、ホテルランクの星の数はまだ信用出来る。ともすれば愚劣な、件の「価値の相対性」の袋小路に陥りがちな「官能の評価」へ果敢に切り込んで行こうとするだけの、「冷徹な客観性」と「価値の見直し」に絶えず大金を注ぎ込んで腐心している。だって調査員は絶対匿名の上に、主観を排するために、時期を変え何人もやって来るとゆーのだから。

 この番付にはそれがない。せいぜい好事家の寄り集まりが相談した程度だろう。それとこれは想像だが、恐らくは地元の観光協会の猛烈な接待攻勢もあったに違いない。それが証拠に旅館もロクにない温泉は平幕力士が殆どである。

 ・・・・・・・・・・・・

 さんざん憤慨しておいて、私は妙案を思いついた。いっそ本物の相撲と同じく、春場所やら秋場所とかで年に何回もやったらどうだろう。儲かりまっせ。

 そんなおいしいハナシ、その内自分でやってみたいもんですね。



2004補足
 クソミソにけなしてる宝川温泉であるが、その後実際に訪問してみたら2千円だった。コテコテもあざとさもここまで徹底してやれば脱帽ものとゆー演出で、私はケッコー気に入ってしまったのである。

Original 1996 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved