「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
つげ義春について


つげ義春。弟・忠男も漫画家。二人ともほとんど描かないけど(笑)。
 ・・・・・・と大層な紹介を書けたガラではない。極めて寡作な彼の作品については、作品数を遙かに凌ぐ膨大な優れた評論が出ている。最近、竹中直人が「無能の人」を映画化してたな。彼もファンなのだろう。とかくファンが多い。
 恐らくある年齢以上の人なら、彼の作品は知らなくても、半ば神格化された名前だけは知ってるハズだ。

 余談だが、俳優の三上博史は高校の文化祭(笑)で「ゲンセンカン主人」を芝居にして、全くウケなかったと言う。それもウケないとハナッから判っててやったのだからタチが悪い。いつだったか本人に直接聞いたハナシなのでウソではないだろう。
 ま、何のかんの言って、彼は文学青年である。だって始めての主演映画、寺山の作品だもんな、ワハハ。それが今や「トレンディ」と来たもんだ。

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 さて60年代劇画の記念碑的作品「ねじ式」、これ一発でつげ義春は伝説となった。多愛ないと言えば他愛ない、シュールで幼児退行的で、どこかグロテスクな内容である。悪夢のような、と言えば分かりやすい。
 さにあらん、作者がソバ屋の2階かどっかで昼寝してる時に見た夢が基になってる。冒頭の「メメクラゲ」がコンテの「××クラゲ」をそのまま写植した結果、とゆーのも有名なエピソードだ。スチャラカですな。

 「ねじ式」はかなり毛色が変わってるが、他の作品は概して「紀行マンガ」とでも呼ぶべき、私小説的なモノが多い。明らかに創作のも、旅先での記憶を基にしたのが大半で、これらが非常に味わい深い。以前も紹介した「二岐渓谷」「オンドル小屋」「紅い花」「会津の釣宿」等々、枚挙にいとまがない。どれも短編ばかりである。

 ストーリーに取り立ててドラマティックな要素があるワケではない。「二岐渓谷」は晩秋の湯治場を舞台に、バナナを盗んだ野猿と季節外れの嵐の一夜のハナシ。「オンドル小屋」は東北の温泉を舞台に、場違いな若者連中の花札を巡るハナシ、「紅い花」は・・・・・何だか、面倒臭くなって来たな。ともあれ全部こんな調子で、手に汗握る盛り上がりはあんまし無い。絵もどちらかと言えば稚拙である。

 しかし小学生の終わり頃、初めて触れたその世界は衝撃的だった。それまで読んでたマンガが全部ブッ飛ぶインパクト、と言えば理解して頂けるだろうか。私はすっかりハマったのだった。今にして思えばイヤなガキだ。
 ある程度マンガが揃う書店ならすぐ手に入るので、是非御一読を願いたい。文庫本でも出てる。

 とにかく本人が意識しないまま周囲に持ち上げられて、彼は一躍カリスマとなったのだけど、それがひどく苦痛だったらしい。元々傾向はあったのかもしれないが「不安神経症」とやらも発症し、マンガを殆ど発表しなくなる。それに元々、放浪とゆーか失踪癖がある。根本的に旅人なのだろう。
 かくして、マンガよりむしろ多い位の紀行文・旅日記の類が世に出る。「貧困旅行記」なんて目茶苦茶に面白い。マンガ家だけにイラストも付いて、これが絵日記とも何とも形容し難い、現実離れした、不思議な独特の世界を形作っている。これも是非御一読願いたい。

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この数年、彼は目立った活動をしていない。消息もよく分からない。印税でいつまでも食えるでもなかろうに、一体何をしてるのだろう?・・・・・・てな感じで忘れた頃に新刊が出るのが、この20年位のパターンだ。仙人みたいやな。

 最後に、恥ずかしながら白状しておこう。私の旅行は未だに彼の作品世界の呪縛から離れられない。何を隠そう、私もチンケだがエピゴーネンの一人なのだ。

Original 1996 Add 2004
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