「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
恐怖!旅の一夜


泉鏡花。異常な潔癖症だったらしい・・・・・・


エドウッドJr。色男だったが女装マニアっちゅう変わった人。

 冬の金沢の旅籠で「私」は、旅の高野聖(一種の乞食僧)と居合わせる。語るとも無しに彼が聞かせてくれたのは、恐るべき妖異譚であった。天下の峻険、飛騨・天生峠に一人住む美女の館での一夜は、妖怪変化と魑魅魍魎の跋扈する世界。彼女の色香に迷うて一夜の情を交わした者は、あわれ畜生へと化身し、そのしもべとなり果てる・・・・・・。
 明治の妖異文学の金字塔である、泉鏡花「高野聖」は大体そんなストーリーだ。中編のこれも傑作「草迷宮」は駿河・大崩海岸を舞台に、母の残した手鞠歌に導かれて旅する若者が、妖怪変化の棲家となった廃屋で、怪しの一夜を過ごすオハナシ。又々有名な「夜叉ケ池」は、越前の山奥の・・・・・・。

 全部同じや!ワンパターンやのお!

 Lハーンの「ろくろ首」、上田秋成「雨月物語」中の「白峯」「青頭巾」等の類例を引くまでもなく、古典的パターンなのだ。この「旅の一夜に妖怪ゾロゾロ」っちゅーのは。ロッキーホラーショウだって基本はそうだ。

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 ドライブ中のカップルが墓地に迷い込み、狼男とミイラ男にとっ捕まる。ドラキュラ夫婦(?)の奇怪なサバトは何と!・・・・・・裸のネーチャン達が踊り狂うだけ!二人は延々と(つまりは観客も)その光景につきあわされる。
 ・・・・・・とても大脳を使って作ったとは思えないこのストーリーは、エクスプロイテーション(ヤマ師)映画の極北、邦題「死霊の盆踊り」の粗筋だ。ホラー映画史上不朽・不滅の駄作!の声が高い。

 皆さんはTバートン監督の「エドウッド」とゆー映画を見たことがおありだろうか?フツーのレンタル屋にもあると思うので、是非とも御笑覧頂きたい。腹の底から笑えて、そしてどこか悲しい。
 内容は「史上最低の映画監督」(笑)と言われる、エドウッドJrの伝記である。リュミエール兄弟が映画(らしき物)を作って約1世紀、空前絶後の圧倒的駄作と称賛されるSF映画、「プラン9フロムアウタースペース」をモノした、女装大好きなオッサンだ。映画作りの熱意だけ、は誰にも負けなかった。

 ・・・・・・で、エドは「ハッタリの魔王」Oウェルズ(今時スゴイスゴイゆーとんのは「アカデミー出版」だけ。晩年の実態は殆どペテン師)の助言を天啓と、口八丁手八丁で資金集めに奔走し、スポンサーを作り、監督第5作、上記「プラン9〜」を意気揚々完成させる。ものすごい低予算で。そして事実上、監督生命は断たれる。当然の結果だが・・・・・・。

 「死霊の盆踊り」は何と!この落魄したエドが脚本書いてる。78年に彼は窮死し、評価が高まるのは(?)80年代に入ってからの事なのだった。合掌。

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 ここで良く考えてみて欲しい。鏡花とエドの創作したプロットに、一体どれ程の違いがあろう。「旅する者が体験する恐怖の一夜」という点では、瓜二つだ。美女が出て来るトコや、大袈裟なイントロその他、酷似してる。
 そう、鏡花自身が元来エクスプロイテーションである。初期の深刻小説と呼ばれる一群「夜行巡査」「外科室」「海上発電」「瀧の白糸(正式タイトル忘れた)」等にしてもしかり。どれもこれも、「んなアホなことあるかい・・・・・・みたいなストーリーで、鬼面人を驚かすことしか考えてない小説だ。全然設定目茶苦茶やん。
 しかし、鏡花は大家となりおおせた。

 何が違ったのか?

 ・・・・・・単純だが、「才能の有無」、それだけである。それだけでエドは「旅の恐怖の一夜」よりも無残な後半生を歩まねばならなかったのである。
Original 1996 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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