「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
温泉カウント、数こそ命!

 美坂哲男さんとゆー方がいる。温泉巡りをする者にとっては、神様のようなヒトで、何と!入湯数5000ケ所!!それも日本国内だけでだ。この記録は多分塗り替えられることはないだろう。なぜなら、既に消滅・廃業した温泉も数多く含まれているからだ。
  この方、これだけの偉業を達成するだけの条件に恵まれていたのも確かである。勤め先が岩波書店の校正部とかで、資料探しに苦労しなかった。子宝に恵まれず、奥さんにも先立たれ、孤独ではあるが比較的身軽であった。異常に山歩きが好きであった。等々・・・・・・。
  以上のような好(?)条件も手伝ったが、何と言っても「全部入り倒してやろう!」とゆー、堅い意志とゆーか数への執念がすごい。約40年かかったそうだ。

  日本の鉄道模型マニアの伝説的存在で、最近温泉ライターでも名前の出て来た坂本衛さんとゆー方がいる。この人で約1000。大したことないが、何でワザワザ名前を挙げたかと言うと、この工場のすぐ近くに住んでるのだ。一度お会いしてみたいものである。

  温泉評論家なんてエラソーにしてても、6〜700程度の連中も多い。不肖、私が現在300を少し超えた辺りである。まだまだ甘い。しょーもないトコはパスしてしまうので、中々増えてはくれない。CMじゃないが、数ではなく、中身で勝負!なのだ。

  さて、ここで出した5000とか1000とかの根拠についてが、今回のハナシである。そもそも、この入湯数とはなんぞや!?
  ここで又もや登場するのが、他ならぬ美坂哲男さんで、この人の数え方が概ね一般に用いられてる。ルールは簡単だが、何せ校正屋。意外とシビアである。

1.ちゃんと裸になって入った温泉であること

  行ったけど休業中だった。フロ洗ってて入れなかった、では無論ダメ。山中の秘湯で湯船さえなかったら、身体を裏表湯にくっつけたり、タオルを浸してこすりつけて(そーとー不気味な光景ですね)でも実行せねばならない。

2. 同じ温泉地の場合は基本的に、地区毎の名称に従う

  例えば、熱海は数え切れないほどの旅館があるが、温泉としては「熱海温泉」しか呼称がないので1ケ所。別府は歴史的にも8地区に分かれているので、計8ケ所。城崎は7つの外湯巡りで有名だけど、全部入っても1ケ所、ってな具合だ。要は、地区名称の独立性を優先する。
  一方、北海道は支笏湖畔の、丸駒・伊藤温泉は、100mも離れてない上に、泉質も作りもソックリだが、元々別々に成立したので2ケ所。同様に四国の白鳥・黒川温泉は、谷川を挟んで一軒宿が向かい合うが、同様の理由で2ケ所、・・・・・・と若干首をひねる点もある。

3.名無しの温泉の場合、1ケ所を1カウントとする

  とはいえ問題もあって、やはり北海道、然別(しかりべつ)峡菅野温泉は、2本の谷筋のあちこちに温泉が湧く。いちいちピリカだのメノコだの、もっともらしい名前がついてる。しかしこれは、幾つ入っても厳格に+1とするが、泉質の差もあり、議論の余地はあるだろう。信州の白馬蓮華温泉等も同様。
  以前に紹介した、別府奥の露天風呂は、それぞれ+1と自分では数えた。

4.入った温泉については、記録を取る。パンフやマッチなんかも取っとく

  余談だが、そうして書き留め、収集したものが、この連載の元ネタの多くになっている。パンフは段ボール2箱分。整理しきれず押し入れで眠っている。

 ・・・・・・てなワケで、この数へのこだわり。前編は入湯数についてまとめてみました。後編は、1日当たりハシゴ件数についてです。



読者の中には、「温泉ばっかし行っとって、ヒマなやっちゃ」と思う方もおられるかも知れぬ。或いは「よー金が続くな」といぶかしむ方もおられるだろうが、とんでもんない!
  要はスケジュールをムチャクチャに詰め込んで、他のプライベートを全部犠牲にした上に成立してるのだ。道楽は、それなりに塗炭の苦しみを伴うものなのである。経済的なものだけど。

  話が外れてしまった。今週は温泉ハシゴについてである。一体一日に幾つ、先週のカウント法に基づいて温泉巡りが出来るのか?
  ここで、三たび美坂氏に御登場願おう。
  温泉大王の彼の記録は、1日8ケ所だそうだ。8つ!?大したコトないやんけ!と思ったら大間違い。このジーサン、鉄道とバスしか使わないのだ。バスを降りながら服を脱ぎ捨て、共同浴場に転がり込んで、湯船にドボン!カラダもロクに拭かず、衣類を抱えてバスに戻る・・・・・・なんちゅー荒技もかました事があるとゆーのだから、恐れ入る。
  温泉キ○ガイとは、こんな人の事を言うのだ。私なんぞ、修業が足りない。

  自分はクルマを使うので、それだけで随分効率的に回れる。それでも様々な、そしてアホみたいな工夫はしている。
  まず格好。上着はパーカーに限る。ガバッと脱げるからだ。ホントはジャージかスウェットの上下が理想的なんだろうけど、個人的に大嫌いなので、パーカー。ボタン付きは向かない。下はGパンが多い。汚れても平気だもんな。続いて靴はズックのスリップオン。ひも靴は面倒でダメだな。革靴は蒸れていけない。だから「トレッキング!」とかでもホーキンスはアカンのである。
 カメラは、すぐ手の届くクルマのシフトレバー近くに。バスタオルは何枚かをイスの背もたれに掛けとく。直近で使うのは、首に巻く。
  全てはタイムロスを押さえるためだ。

  到着すると、まずは外観の全景写真、次になるだけ全体が写るように浴室内部(人が居なければ、だが)、そして自分の浸かってるトコ、と最低3枚は証拠写真を撮る。風光明媚な場所ならあと何枚か、入れなくてくやしい時もと、とにかく証拠写真は必要だ。
  湿気の多い場所で使うためか、カメラの寿命の短い事!たいてい2年以内に壊れてしまう。だから、余り多機能で精密なカメラは使えない。

 ・・・・・・で、ここまでの所要時間、約15分。余韻を楽しんでるヒマなんてないのだ。次の予定地が近い時は、もう下着もパス。

  障害は何と、「予想もしない素晴らしいのに当たること」である。やっぱしユックリしたいからだ。最近薄くなりかけてるとはいえ、後ろ髪を引かれる思いである。そうならないためにも、事前の予習は欠かせない。そんな温泉は、なるだけ宿泊場所になるように、コース計画を組まねばならないのだ。

  さてさて、そうして回った私のこれまでの最高記録は、1日11湯。北海道は長万部近くの桜野温泉をフリダシに、銀婚湯、濁川、鹿部、磯谷、大船下の湯、水無海浜、石田、恵山、恵山高原(原田)、湯の川と入り倒したのであった。途中、濁川近くの温泉マークの実地調査や、以前にも書いたクアハウスみたいな大船上の湯、川汲等は、時間が押してパスしたのが、今になって悔やまれる。
  先週書いた「中身で勝負!」は、全くウソやね。マニアそのもの。

 ・・・・・・ てなワケで、殆ど冥府魔道の温泉巡りとでもゆーべき数との戦い。冷静に考えると、自分もかなりキテます。一つ皆さんもいかがですか?ちなみに今年は久々に、「年間100湯!」の目標を立てています。

参考文献:美坂哲男「諸国いで湯案内1〜7」「山のいで湯行脚」他



2004補足
 美坂哲夫さんも先年亡くなられた。近年、氏の温泉へのアプローチに対して否定的な風潮もあったが、あんまり細かいことにこだわらないで、大瓶ビール飲みながら「トロンとした泉質」とか感覚的でアバウトな論評していたのは、個人的には、ウザッたい理系くずれのような厳格さより好きだ。

Original 1996 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved