「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
極私的温泉キーワード

 皆さんは、温泉のどんな点を大切だと思われるだろうか。宿ではない。温泉それ自体のことである。宿なら色々出しやすい。曰く、豪勢な食事であったり、快適な部屋であったり、仲居のツボを心得たもてなしであったりするのが、まあ、ノーマルな所だろう。逆に、安宿、粗末な食事、センベ布団を愛して止まらない変わり者もいる。これはこれで又、よろしい。私はどっちも好きだ。

 独断と偏見で温泉にとって大切な点、とゆーものを考えた。今回はその考察の結果である。どうか笑って読み飛ばして頂きたい。

 思う所、温泉のキーワードは以下の5つである。


   “Natural”   ・・・・・・自然であること
   “Ritual”    ・・・・・・呪術的であること
   “Primitive”  ・・・・・・原始的であること
   “Sexual”   ・・・・・・・性的であること
   “Chaotic”   ・・・・・・混純としていること


“Natural”について

 これは言うまでもないだろう。コンクリート打ち放しに、配管が垂れ下がったようなロフト感覚の浴室を売り物にしてる温泉なんて見たことないもんな。都会の温泉が何で、今イチ軽く見られるのかと言えば、都会にあるからなのである。元祖、都会の温泉、銭湯に行けばよく分かる。湯船の向こうには、今は失われた田子の浦の景色をバックにそびえる富士が、必ず描かれているではないか。

“Ritual”について

 大体、1日や2日温泉浸かったって、絶対に病気は治らない。肩コリだって取れてくれやしねえ。
 それでも人は信じて入る。小さな地蔵や祠が浴室にあったりする。秋田の玉川温泉なんてすごい。末期ガンの患者が担ぎ込まれて来る温泉として名高い。それで「治った」とゆー人が多いのだからたまげる。これとタメを張れるのはフランスの「ルルドの泉」位なもんだ。つまりどこかしら合理的近代医学を圧倒する呪術性が温泉には必要なのだ。

“Primitive”について

 原始的と言っても縄文・弥生とかの話ではない。もっと「原初の鼓動」みたいなもんである。数奇を凝らしまくった造作の大浴場を見た時の或る種の嫌悪感もこれに通底するだろうし、無人の山中の秘湯で誰に憚ることもなく入り倒す快感もプリミティヴな感情だ。(・・・・・・ちょっと言葉が足らんかった)

“Sexual”について

 “子宝の湯”で分かるよなー。東北地方に行くと、湯船に巨大な木の張型が浮いてたり、ズラッ奉納されてたりする。逆のパターンもある。モチーフは性的だが、そこには密室的な淫靡な「いやらしさ」はない。山の神が女性であることも関係するのだろうが、林産物、鉱物等と同様、生み出してくれる「土地」への素朴なアニミズムの結果としての“Sexial”である。
 一方、そんな民俗学的な面はともかく、温泉街にエッチネタは欠かせない。そもそも、温泉マーク!あのサカサクラゲって、昔は連れ込み宿を指したじゃないですか!入ってやることも決まってるじゃないですか!

“Chaotic”について

 巨大なカオスである地球の中から湧き出すのだから、そりゃ混純としてなくてはならない。又、上に列挙した概念も一つ一つが明確に区別されるものではない。これらが渾然一体となって温泉や温泉場の雰囲気を作り上げているのだ。だからこそ私は昨今の、巨大旅館に集客され寂れて行く温泉街が愛おしい。幾多の情念が澱となったような、その風景を懐かしむ。

Original 1996 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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