「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
最強の温泉発見者

 温泉に行くと、そこの由来がもっともらしく書かれている事が多い。言葉だけ入れ替えれば、寺社仏閣の由来の説明とちっとも変わらないが、あれば何だか由緒正しく見えるとこがミソなのだろう。
 ・・・・・・てなわけで、2回にわたって、誰が最強の温泉発見者かをパターン別に調べてみようと思う。

 大別すると、発見パターンは以下の3つしかない。

   1.動物が入ってるとこを見つけた。
   2.人が見つけた。
   3.夢のお告げ・奇跡・天変地異があって見つかった。

 何のこっちゃない、たったこれだけである。ステロタイプ/紋切り型の極致やね。しいて言うなら、1〜3の複合型になる程度のものだ。
 では、それぞれについて詳しく述べて行こう。

1.動物が入ってるとこを見つけたパターン

 まず、圧倒的に多いのが鹿である。姿形が優美だからだろう。温泉宿を始めるのなら、こいつが見つけたことにしておけば、無難な感じがする。
 次に熊・猿などが割合いよく見られる例であるが、鹿には大差を付けられている。狼はもひとつイメージが悪く、「山犬(つまり狼)の湯」はあることはあるが、たいてい、湯の色が似てるからついたというのが多い。じゃあ、野ウサギはどうか?聞いたことがない。小さすぎて溺れてしまうからだろう。イノシシも山にはわんさかいるが、ブサイクなのが災いしてかあまり実例を聞かない。
 牛はとても温泉と相性が悪いようで、牛が入ったら湯が出なくなっちゃったという話が、岡山の温泉にあったりする。又、鹿は多いのに、馬は少ない。人里近くにいる狐や狸も温泉を見つけてはくれないようだ。ロマンが不足してるからだろう。犬猫も身近すぎてボツ。獣関係で最もマイナーなのは、爬虫類である。「ヘビの湯」なんて聞いたことがないし、あったところで気持ち悪くて入る気がしない。しかし、夏場の露天風呂でよく見かけるものに、蛇の脱け殻がある。
 そもそも、彼らは変温動物なので、湯に入ったら温まり過ぎて死んでしまう。

 この点、珍しい例外で「亀の見つけた温泉」が山口にある。もちろん、冷泉である。ちなみに両生類も上の理由でマイナーである。「カエルの湯」ではやっぱりねえ・・・・・・。

 鳥では、サギが異常に多く、次に鶴が続く。これまた姿形が優美だからだろう。そのまま温泉名になっている例が沢山ある。しかし、あの細い脚で湯に入って温まるんだろうか?という素朴な疑問は残る。それに鶴。水鳥やろうが?中につかろうにも浮いちゃうんじゃないのか?
 まあ、まぜかえすのはこれ位にしといて、続いてが山鳩・キジなどが多い。雀もあるけれど、湧き出す音がさえずりに似てるからついたというのもあってよく分からない。カラスもたまに見かける。獣よりはまんべんなく見つけてくれる風に感じる。

 ・・・・・・と色々あるが、どれもこれも似たりよったり、今いちインパクトに欠けるのが、この動物発見パターンの短所である。もしデッチ上げるのなら「神のお使いの白い鹿が」ってなヒネリが必要だろうが、それさえも類例が多くマンネリのそしりは免れないだろう。

2.人が見つけたパターン

 人ではスーパーヒーローがいる。何といっても弘法大姉こと空海さんがダントツの1位である。恐らくその伝承のほとんどは作り話なんだろうけど、全く根拠のないことか?と言うと、あながちそうとも言い切れない。

 この理由については、次回のお楽しみということで


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 前回の続きで、何で空海伝説が全くデタラメとも言い切れないのか?の訳から始める。

 彼が企画・プロデュースしたという、四国八十八カ所霊場巡り。俗に言う「お遍路さん」だけれども、あの寺の多くが、金属や宝玉類の鉱脈や鉱床の上に建てられているのだそうだ。名前は忘れたが、本堂の床下に鉱床が露出している寺まであるという。
 つまり、当時としては最新のテクノロジーであり学問だった密教と一緒に、地質学に関する知識を中国で仕入れてきたらしいのである。多分、満濃池こしらえた土木学もそん時やったんだろう。
 一方、トップに差をつけられてはいるが、慈覚大師というオッサンもなかなかの温泉発見のプロで、特に東日本に強い。
 ともあれ、宗教がらみの人の例は非常に多くて、「何とか大師」の名前で呼ばれる連中は、たいてい2つや3つ見つけているのがむしろ普通である。

 ・・・・・・で一般人は、というとこれがほとんど猟師・木こり、当然ですな。北海道には、営林署発見の温泉が結構あるが、これは同種の話の現代版だろう。他の例となると、百姓が田んぼ掘ってたら湯が吹き出した、とか漁師が海の色が変なので見つけた、とかあるが珍しい。頑張れ、パンピー!
 最近では、庭に鯉の池を掘ってたら湯が出たのでそのまま旅館にしちゃった、というとぼけた話が長野県にある。また、高知県の例でこういうのもある。小学生が川で遊んでいたら、花火の匂いがする場所があるので、先生に教えて、センセがその水を調べてみたら、何とそれは川岸から湧きだす硫黄泉だったという。これは何となくほほえましいエピソードである。

 ・・・・・・以上からすると、モッタイをつけるために坊主や神がかりの由来で行くよりも、フツーっぽい話の方がユニークである、という結論になる。

3.夢のお告げ・奇跡・天変地異があって見つかったパターン

 夢のお告げは、新興温泉に多い。「ボーリングで出ました」ではカッコつかないので、デッチ上げるんだろう。余談になるが、現在、ボーリング技術はすごく進歩していて、ヘリに機材積んで飛ばしてγ線測定やれば、百発百中なんだそうだ。ただしちなみに、何メートル掘れば良いかかまでは分からない。
 ・・・・・・で、お告げの内容。ほとんど「観音さんが夢枕」とまあワンパターンもいい所。もうちょっとアイデアと工夫が必要であろう。

 奇跡・天変地異系では、オーソドックスな「地震の後湯が出ました」から、にわかには信じがたい、「山が割れて出ました」とか「大爆発が起こってその跡の窪地に出た」とか荒唐無稽なのまで様々である。火山国ニッポンなので、まんざらウソでもなさそうな感じのする所が、ポイントだろう。
 養老の滝伝説の、酒を湯に置き換えただけみたいなものや、壺坂山縁起(お里・沢市の話)を明らかにパクッたと思われるのも結構多い。
 一つ、最近の例で確かなものとしては、先の阪神大震災の後、岡山で井戸水が湯に変わった、という記事が新聞に出ていた。近いうちに確かめてこようと思う。

 ・・・・・・タイトルに戻ろう。誰が最強の温泉発見者か?こんなもの真面目に統計取った人がいるかどうかは知らない。多分、サギと弘法大師と猟師・木こりの三つどもえの戦いになるだろう。これは難しい。サギは飛べるし、弘法大師は法力だとか何とか妖術みたいなの使いそうだし、猟師・木こりは得意のオノや鉄砲やナタを使った凶器攻撃に出そうである。
 しかしながら軍団を形成するサギやパンピーより、ここはやはり個人で圧倒的に業績を上げている弘法大師がアタマ一つリードかな・・・・・・。

Original 1996 Add 2004
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