「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
山空海温泉の巻

 能勢に究極の秘湯があると聞きつけて、早速出掛けてみた。勿論、大阪近辺で高温泉は望むべくもない。多分冷鉱泉だろう。

 実は川西・猪名川・能勢方面には古くからの鉱泉が結構あったらしい。筆者の識る範囲では、能勢電平野駅前に廃墟となって残る平野温泉、一庫ダム直下にポツンと空き家が建つ一庫温泉等みたいに今では無くなってしまったのや、すっかり健康ランドに模様替えした石道温泉等が挙げられる。そう言えば震災前後から猪名川町周辺では小さな群発地震が相次ぎ、湧水に砒素が混じったりしたのだが、これも基本的にはここいらが温泉地帯であることを物語る。

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 国道173号を一庫ダムの堰堤で田尻方面に右折して、ダムサイトを道なりに行く。段々ダム湖が浅くなりいつしかフツーの川になった辺りに、屋根に温泉マークを大書した小屋が見える。周囲にはプレハブの物置やらユンボ、ゴミの焼却炉等が雑然と並ぶ。見るからにウロンな感じだ。
 これこそが何を隠そう山空海温泉なのであった。名前だけは気宇壮大なのがナサケない。ホンマにやってんのかいな。

 クルマを降り、農道をテクテク歩いて、小さな橋を渡ると目の前だ。空缶がうずたかく積まれてる。何や汚いな。手書の看板に温泉名と諸注意が出てる。「憲法」とやらも書かれてる。大したコトはない。騒ぐな、とか、散らかすな、とか、湯治目的にこしらえたんだから真面目に入れ、とかで楽しい。生意気にも券売機が立ってて、何故か大人も小人も入湯料は一緒の500円。多分1種類しかキップが売れない機械だからだろう。

 一応休憩室もある。何々?「御利用の方は、チェックインからチェックアウトまでを、1時間当たり100円で計算して前払いでお願いします」だって。とゆーコトは24時間で2400円か。温泉代入れても2900円。ホウ。
 別の貼紙には「1泊2食6000円、素泊り3000円」とあった。計算が合わへんやんけ!エエ加減なんだかシビアなんだか判らんな。

 肝心のフロは男女別の内湯になっている。とても窮屈な脱衣場から入ると、硫化水素の臭いが鼻を突く。紛れもなく温泉だ。残念なコトにボイラーの石油の臭いも鼻を突くが・・・・・・。
 コンクリート素塗りの浴槽は高温と低温に分かれ、片隅にはオニのよーにちっこいポリバスの源泉槽もある。本格的なんだ。多分、この湯屋も手作りと思われる。その意気やよし!としといてあげよう。
 入れ代わり立ち代わり人はやって来る。皆さん地元民のようだ。ジイサンの1人が語る所に依ればアトピーに特効ありとのことで、嫁と孫連れて毎日来てるらしい。そう言えば女湯の方から私の息子ともう一人、別の子供の声が聞こえる。
 娘が「もぉでゆぅ〜」とグズり出すまで、私は半分枯れかけた窓の外のコスモスを見ながら湯に浸かっていた。近くにだって拾いモンはあるのだ。

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 このとても怪しい山空海温泉、実はとある鍼灸医院の持ち物である。設備は前述の休憩室・宿泊部屋に加えて、3人も入れば一杯の軽食コーナーや、折り畳みのレジャーテーブルが並べられた湯上がりお休み処(但し青天井)等、一通り揃ってるのが笑える。

 でも一番可笑しいのは、随所に貼り出された注意書きの数々である。そんなに心配なら誰か常駐すればいいのに。傑作なのを最後に一つ紹介して終わろう。

 --------風呂の中で、嫁・姑のワル口を言わないこと!!

Original 1996 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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