道東・屈斜路湖の東側半分は温泉の宝庫である。温泉地としては、最も開けた川湯を筆頭に、仁伏・砂湯・赤湯・池ノ湯・古丹・三香・和琴等、又、ただもう湯が出てるだけの場所も多く、硫黄山・沼湯・オヤコツ地獄等、とまあ、無数の温泉が10km程の間に点在する。多分、地元民しか知らないのも他にあるだろう。
湖岸の温泉はどれも似たり寄ったりのサラッとした無色透明、少し離れると、今度は白濁したり湯の花の浮いた高温の酸性硫黄泉ばかりで、この辺りの地球の活動は、まだまだ盛んなようだ。
さて、温泉地の中では最も寂れてるのが、赤湯と池ノ湯だ。実は双方100mも離れてない。全部で3ケ所の風呂に入ったが、どれがどれか忘れてしまった。
全面アクリルガラス貼り(屋根も)の無人の小屋が建っている。まるで温室だ。サボテンでも植わってるんだろうか?よく見ると、吹き抜きが作ってあるので、やっと共同浴場と分かった。
扉を開けてギョッとした。誰か居たからではない。床から浴槽から何から、内部は深緑色だったのだ。一面に苔と藻とカビが密生している。
実に気色悪い。最後に人が入ったのは一体いつの事なんだ?掃除位しろよ。
それでもガマンして入った私は、まことマニアの鑑と言うべきか、それともただのバカなのか・・・・・・バカですな。
早々に退散して湖岸の露天風呂に入ることにする。東屋になった風呂は湖面とほぼフラットで、眺望が良い。遊覧船が通って行く。先刻よりはマシだな。湯温も適当。風が心地よい。
しかし、入って思わず顔をしかめた。底からモラモラモラ〜ッと極めて大量の堆積物が舞い上がったのである。だ・か・ら、掃除しろってば!
まあ量には驚いたが、この程度のことは普段から慣れっこである。静かにして元通り沈殿すると、そんなに不快感もない。少し機嫌が治った。
よし!次は有名な、名前の由来ともなった池ノ湯だ。湖に隣接した、直径にして30m程の池がそのまま温泉なのである。脱衣場も屋根も、設備らしき物は全く無い、冬は白鳥が浮いてるとゆー野趣に富んだモノだ。
周囲に並べられた石の上に服を脱いで入る。生暖かいだけだ。結構深い。底は藻でヌルヌル。うう、キモチ悪い。え!?うわ!?うわわわわ〜!!
あっとゆー間に、スリ鉢状に深くなった池の中央付近まで滑って行った。胸位までの深さがある。底のヌルヌルはともかく、非常にドブ臭い。これはマズい。早く戻らねば。
泳いだらすぐなのは百も承知だが、この湯に顔まで浸かると思うだけでサブイボが出る。私は思案に暮れた。
結局、「爪先立ちになって、指を藻の下の石に立てる」というやり方で、ようやく岸にたどり着けたのであった。数十分が、いつの間にか経過してた。全身に染み込んだ藻ともドブともつかない臭気は、結局その日の晩、和琴で旅館の風呂に入るまで取れなかったのである。
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この恐るべき「藻の湯」、含まれる硫黄分を好んで繁殖するメカニズムが、実際ドブと大差ないのを識ったのは、それからしばらくしての事だった。しかし、あらかじめそんな知識があっても一体何になろう?
それでも入ってただろう。ナゼッて、私は、正しく温泉バカなのだから。 |