「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ワイス温泉の巻

 何となく言葉の響きから、「さわやかな高原の宿」を想像していたけれど、そりゃスイスの間違いだっちゅーの。国道沿いにかなり大きいピンク(!)の建物が見える。何やこれは!?ラブホテルみたいやないか!?迷湯の予感、騒ぐことしきりである。
 全く予備知識のないまま、圧倒的な宿泊料の安さに惹かれて行ったのだが、いきなりのカウンターパンチであった。ともあれフロントもある。部屋選んでボタンでも押すんかいな、と不安だっただけにホッとした。

 下品な外観とは異なり、とっても簡素な(要はビンボ臭い)部屋に荷を降ろすと、まだ4時にもなってない。周辺には名所もなく、ウダウダTV見て時間つぶしてフロに行けば、期待もしてないがフツーの大浴場。効能書きの看板がなけりゃ、とても温泉とは思えない。シーズンオフなのに人があふれている。
 ただ、妙な事には、入ってる連中が良く日焼けして身体がゴツイのだ。肩なんか、往年のダイナマイトキッドみたく盛り上がったオッサンも多い。ナマッ白い体躯に細い腕で、腹だけ出てる自分が、何だか情けなくなる。

 不思議に思いながら部屋に戻る途中、外の駐車場を見て驚いた。自分のクルマ以外、観光客らしいのは1台も停まってない。白の10人乗りの1BOXやら、Wキャブの平トラックやら、クレーン付きの4tやら、どれもこれも「はたらくクルマ」ばっかしではないか。○×建設とか書いてあったりする。

 恐らくこの旅館は、近くの道路工事か何かで、飯場代わりの宿舎になっていたのである。秋の終わりとかには良くあることだ。何のこっちゃない、そーゆーことだったのかー。とゆーコトはこの人達がおらなんだら、泊まりワシだけやないか。どうしてオレって、自分しか客のない状況によく遭遇するんだ?
 ・・・・・・てなコトを考えてると、夕食を告げる館内放送が鳴った。

 大広間に勢ぞろいしたのは、前述の如くオトコが殆ど。オバチャンがチラホラいるだけだ。若いコなんざ一人もいなかったのは当然だろう。

 自分の場所に陣取り、並んだ料理を見てのけぞった。何じゃあこれは!?
 
 白身魚のピカタにメンチの玉子とじ、御丁寧にも目玉焼き添え。グリーンピースの玉子とじに、キュウリのとカニカマの酢の物、玉子巻き。温泉玉子に茶碗蒸しも両方仲良く(ふつー片方だけだよな)置いてある。汁椀のフタを取ると、予想通りと言うべきか、玉吸であった。
 どれもこれも、全部玉子で固められとるやないか!!量だけは物凄いボリュームだ。でも、玉子取り除いたら、ムッチャ貧相やで、これ。

 私の記憶が確かなら、玉子が使われてなかったのはオヒツに入ったごはんと漬物だけだった。それらの皿が、どっからどこまでが自分のテリトリーか分からん位ギッシリと、長テーブルにひしめいている。一種のこれは奇観である。
 しかし、皆さん黙々と食されているのを見ると、どうもこれは今日に限ったことではない様子であった。

 これはつまり、安い宿賃で料理をカサ上げする窮余の一策、とゆーか、建設に携わる人々のカロリー不足を思いやる、せめてものココロ尽くし、とゆーか、まあ、そんなもんだったんだろう。
 とはいえ大食漢の私でも少々、胸ヤケして気分悪くなりそうだったけれども。

 ・・・・・・さて翌朝、やっぱり朝食も見事に玉子まみれであったのは、今更申し上げるまでもなかろう。もういちいちは書かない。思い出すだけで、何だかこみ上げて来るモノがある。

 この、まことに不思議な肉体労働玉子固め温泉、北海道での出来事であった。

Original 1996 Add 2004
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