「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
北白川ラジウム温泉の巻


白川ラジウム温泉「不動院」外観。

 赤いノボリが沢山並んで、祠や賽銭箱や地蔵さんが狭い敷地のあちこちにある。それより何より、建物の外観。木造のいかめしい造り、「不動院」とゆー表札を見るまでもなく、これは寺である。それも異様に仰々しい、相当コテコテの、新興宗教みたいな寺である。水子供養なんかやってそうだ。
 そのくせ、コンクリートの築地には「北白川ラジウム温泉」と大書してある。

 京都の白川通から比叡山に登る、通称「山中越え」(走り屋には超有名なルートである)の途中のこの温泉、とても謎めいている。一応、2軒並んで建っているのだが、もひとつの方も何だか怪しげなたたずまいである。

 1日1000円と言われて、いつぞやの1回1000円よりは気分的に安い気がして入ると、本堂だろうか、これ又アヤしげな祭壇のある広間が休憩室。茶店によくある、平べったいデコラの机が並んでいて、定番ともいえるペナペナの灰皿。通り側に座って外を眺めていると、何となく山峡の温泉の雰囲気があるように思う。アルミサッシでないのもなかなかレトロでよろしい。

 年寄りばかり7〜8人がゴロゴロしている。小さなブリキのヤカンに入ったお茶をもらったりもする。とても静か。結構いいじゃないか。

 カルキ臭い、全くの水道水みたいな湯の、狭い浴室に入っては出てゴロゴロを自分も繰り返している内に、もう夕方。1000円がホントに安く思えて来た。

 多少の入れ替わりはあったけれども、他にゴロゴロしている年寄りの顔ぶれはおろか、寝そべる位置も、姿勢さえも殆ど終日変わらず、最初に述べた通りのコテコテの場所で、時間の止まったような奇妙な感覚を味わったのだった。

 実は昔、ここの近くに何年か暮らしたことがある。その頃は何度も前を通っていたのに、ついぞ行ったことがなかった。よくよく考えてみると、銀閣寺もすぐ近くだったが入ったことがなかった。人間不思議なもので、近いとあんまりありがたがらないものなのだろう。そう言えば、鞍馬にある鉱泉に出掛けたのもつい最近だ。

 さて、この温泉には後日談がある。2軒の旅館のどっちかは分からないが、湧き出す冷泉(正確に言うと崖から染み出してるのだそうだが)を霊泉と称して「万病に効く」とポリタンクで売りまくったのだそうだ。それも法外な値段で。

 ・・・・・・で、薬事法違反とやらで経営者とゆーか、主人とゆーか、住職とゆーか、そこのオッサンが逮捕された、と小さく新聞に出ているのを見つけたのである。

 怪しい、と言うよりはむしろ、いかがわしかったのである。この原稿を書きながら「拉致監禁」とか「ポア」なんてゆー、物騒な言葉が頭をかすめたのは無論、言うまでもない。ついでに言うなら「明満寺」とか「鬼業鑑定」なんてのも浮かんだ。いやはや、困ったものだ。


2004補足
 この頃TVにバンバン出演してカオを売りまくっていた織田無道も、そういやその後逮捕されていた。
Original 1996 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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