「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
忘れようとしても思い出せない!・・・・・・「転換期の作法」を観て。For A


どこかキッチュな50年代っぽさを漂わせたポスター

 タイトルは鳳啓介師匠の名文句である。

 ・・・・・・「転換期の作法 ---- ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの現代美術」と題された展覧会を東京近代美術館での最終日に観に行ってきた。実は今回この展覧会を企画したキュレーターの一人がAちゃんという旧友で、そのご招待にあずかったって寸法。最終日にはご本人も会場に姿を現すというので、この日に訪問したのだ。もっと早くに声かけてくれれば講演も聴きに行ったのに。
 わざわざタダ券送っていただいたっちゅうのに、おれは手土産もなしに訪問するような失礼なヤツなのだが、意外に「気にしぃ」でもあるので、今回は感想文を書いて彼女に謹呈することで、感謝の気持ちに代えたい。

 いくつかの前置きが必要だ。

 何せふだんあまり馴染みのない東欧4ヶ国、10数名のアーティストを一気に紹介しちゃおう、って企画なので、その内容は多岐に渡る。絵ありーの、写真ありーの、立体ありーの、ビデオありーの、インスタレーションありーの、の何でも来い状態。そもそもタイトルからしてかなり総花的な企画であることは否めない。それゆえ、最大公約数的でステロタイプなキーワードでもって、諸作家の諸作品を十把ひとからげ、一刀両断に論じるような愚は、なんぼアホなおれでも慎重に避けなくてはならないだろう、ということを最初に申し上げておかなければならない・・・・・・とは申せ、一方でここはエッセーのコーナーであって、決して論文ではないので、あまりくどくどしく書いても読み物としての面白さがスポイルされてしまう。寸評に終始すること、また、かなりの端折りやキメ打ちが時折顔をのぞかせることはひらにご容赦願いたい、とも思うけど。
 さらには、「現代芸術」だ。現代芸術の確定的な定義が何であるかをおれは知らないので、あくまで個人的見解だが、享受する側に意味や解釈を大幅に委ねる部分が大きいのがモダンアートの重要なファクターぢゃないか、って思う。
 加えておれは享受する側として、鑑賞する権利こそあれ、肯定的に伝える義務まではない。

 ・・・・・・え?何を言いたいか!?って?

 いやまぁ、言いたい放題に放埓に勘違いも平気で書きまくるかも知れん、ってこってすよ!(笑)。

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 まず最初に面白かったものとしては、「アゾロ」っちゅう4人組のビデオ作品。これがもう実に下らなくって楽しい。具体的な作品内容は書き出すとキリがないので省くけど、要は「ガキの思いつきとか悪戯」みたいなアイデア満載で、反権威・反芸術としてのアート、みたいなコトを延々と、なおかつマッタリ・ユル〜くやってる。しょーがねー連中だわ。音楽でゆうたら、ちょっと「テートリッヒェドリス」みたいなカンジかな。
 「批評精神」の一言で片付けるには、あまりにベタで幼稚な悪意に満ちたネタの数々は、もはやダウンタウンやナイナイのお笑いヴァラエティ番組の域に肉薄してる気がした。 もっと下品にしたらフランスの変態パフォーマンス集団「コステス」みたくなれるかも知れない。
 コイツ等の作品が順路のところどころに仕掛けられているのだが、これを「アートでござい!」みたいなカッコと顔したオニーチャン・オネーチャンがニコリともせず神妙に観てるのはかなり滑稽だ。おれは「何でコイツら笑わずにこれを観れるんだろう?」と思うと、妙におかしくて仕方なかった。
 今のノリを失うことなく、頑張ってほしいなぁ、と思うと同時に、普段どうして食ってはるねんやろ?と思った。

 続いては、K・キンテラや、L・アンタル等の、「一見もっともらしい商品に見せかけて、実用的にはまったく無意味な作品」の数々。日本の誇る「明和電気」に似てるが、そのベクトルをちょっと逆にしたような感じだ。つまり、明和があくまで「作品のフリした製品」で、実用品としての作品(現に数多くの作品が、商品として流通している、あまり使えそうにはないけどね)にこだわるのに比べると、これらは「製品のフリした作品」であり、あらかじめ「無用」であることを強く主張してる(ま、筋力トレーニングみたいなのは使えそうかも、※)。

 しかしそのことが、個人的にはいささか厄介・・・・・・もっと忌憚なく言えば、ズルくて危険な気がした。どぉゆーことかと言えば、明和が徹底的にマスプロダクトを演じることで、アートの権威までを無力化する姿勢を鮮明に見せているのに対し、これらは実用品のフリしたアートですよ、って姿勢があまりに露骨に見えすぎるために、インパクトとユーモアとナンセンスを振り掛けつつ、その実、既成のアートの権威におもねった作品、とも捉えうるからである。
 キンテラにはそれでもアートとインダストリーの境界を乗り越えようとする意思を感じたが、アンタルのフニュフニュした一連の無意味電化製品に対しては、そのような不安をいだいたのだった・・・・・・1個欲しいけど(笑)。

※おれは以前から座職の運動不足を解消するために、足踏み式のパソコンのキーボードやテンキー(ダンスマニアックスみたいにして使うのだ)があればいいのにな、と思ってる。キンテラさん、実用品として作ってください!!
 S・アーグネシュとN・チャバの紙芝居は、本来のトーンとしては沈鬱だが、それぞれの絵に添えられたエピグラムの邦訳が何だか、かつてVOWで異常な盛り上がりを見せた「点取り占い」様を思い出させるもので、そのため楽しく見ることができた。またそのエピグラムと絵の微妙なズレ感も良い。笑いながら観てるのおれだけでちょっと恥ずかしかった。こんな観方されちゃ作者もタマランやろーけどなぁ。
 不思議なことに、それぞれ単独での写真や絵はあまり面白くなかった。女性服屋の巨大なモード写真以上のものが見えてこなかった。何でだろ?

 ・・・・・・とまぁ、これらの比較的ノー天気な作品に混じって、妙に引っかかるものがあった。重い、っちゅうか、痛い、っちゅうか・・・・・・あ〜、ようやっと表題に辿り着いた。

 それはM・バウカの巨大な壁とA・ジミェフスキの年寄りに歌わせるビデオ、だ。まぁ、二つが並んで配置されてたトコからすると、出展者側もそれなりの意図を持っていたことが感じられる。
 これらが明らかに「記憶」を重要なテーマにしていることはシロート眼にも明白だが、おれはそこに作家としての記憶そのものの再構成の取り組み・・・・・・いわば過去を創り出す意思とでも言えばよいか・・・・・・が希薄なことに違和感を持った。
 東欧だろ?過去何百年に及ぶ重層的な抑圧と被支配の苦渋の歴史があるハズやろ?その後の現代に到るまでの「開放」と意外に早く到来した「幻滅」の過程だってあるでしょーが?・・・・・・なのになんでこれやねん!?みたいな。

 忘れようとしても思い出せない、薄れ行く記憶を曖昧模糊としたままで可視化しようとするアプローチ、とは、多分に懐古的である。懐古的なことは情緒的で大衆迎合的でもある。だから「三丁目の夕日」の映画は大ヒットだし、レトロな町並みを再現したお台場の駄菓子屋も大繁盛だ。
 しかしそれゆえに、とうの昔にケジメをつけたはずの諸問題まで情緒的に、一気に是として復権させかねない力と危うさが懐古にはある。アートの、それも抽象の回路を通っているうちはそれはそれでかまわないけれど、これが政治の回路に切り替わるとコワいな、って気がするのだ。

 ジミェフスキには、もう一本のビデオに別の志向性を感じたけれど、バウカは出展はされなかったが図録には収められた他の作品等からも、「忘れようとしても思い出せないもどかしい過去」をそのまま忠実に作品として固着させようとする意思を感じてしまう。ま、せっかくの芸風なんだから巧いこと活かしてね。

 あと、ちょっとマッドサイエンティストみたいなカオのオッサンが、廃墟の中でジャンクなドローイングしながらいろいろしゃべりまくるビデオには、ちょっと身につまされたりもしたが、これ以上皆さんも観てない展覧会について読まされても退屈だろう。

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 閉館まぢか、エスカレーターで地下から出口に上がって来たところで、黒づくめで髪を短くした小柄なAちゃんに出くわした。「ちゃん」ゆうたら悪いが、昔からそう呼んでるんで仕方ない。おれと同い年、うちと歳変わんない子供もいるくらいで、おれがオッサンになったように、失礼ながら(ホント、すまねぇ!)もうオバチャンだが、童女のような顔立ちで莞爾と微笑む不思議系の色っぽさは昔と変わらない。
 ちょっと彼女は疲れてるみたいだった。小さな体躯のどこにそんなパワーがあるのか、上京の多忙な合間を縫っていくつも展覧会を観て回り、この後は展覧会のバラシに立ち会うという。
 しばらく立ち話で、この開催にこぎつけるまでの苦労や、あるいは行政の予算業務に組み込まれているがゆえの、色んな企画がなかなか実現にこぎつけられないもどかしさ、等の話を少し聞いた。花鳥風月・歌舞音曲の世界も・・・・・・いや、だからこそ、現実の経済・社会と厳しく関わらねばならないのだ。キュレーターとは、その二つの間で翻弄され四苦八苦するマネージャーにどうやら近いようだ。

 Aちゃん、誘ってくれてありがとう。できればそのうち、おれのこのサイトも、一つの「表現行為」として評価していただいて、んでもって展覧会企画してぇな、っと欲なコト言って今回はおしまい、っと♪
2006.03.29
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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