「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
個に帰結せよ!!・・・・・・尼崎脱線事故に思う

 いやもうゴッツイ事故だ。今時の日本で起きることが信じられない事故なのか、今時の日本だからこそ起きる事故なのか、それをいきなり語ることはちと早計だろうが、とにかく信じられないような大事故が起きてしまった。
 本当に亡くなられた方々、また残された方々の気持は察するに余りある。

 たしか15年ほど前、「信楽高原鉄道衝突事件」ってーのがあった。あの時もよーさんの人が死んだ。思えばあの一件もJR西日本が一枚噛んでたが、あれは安全システムを人為的に解除して強引にレールバスを走らせた、信楽高原鉄道側にそもそもの非があるような気がする。そりゃぶつかるって。

 それにしても電車はクシャクシャに壊れてる。2両目なんてアルミホイルを押しつぶしたみたいにペッタンコになってるし、マンションからひっぱり出された1両目は、何が何だか分からないカッコになっている。これで生存者がいた、というのがむしろ不思議に思えるくらいの激しい壊れかただ。
 鉄道模型だって脱線してぶつかったからってこんなに壊れやしないだろう。

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 さてさて、今回の一連の報道を見ていると、「金もうけ至上主義のJR西日本が超過密ダイヤを組んで、綱渡り的な運用をさせたのが悪い」という論調が目立つように思う。朝日がそのトーンが一番強いのは当然。戦前ならアカ新聞だな、こりゃ(笑)。なら、人権擁護法問題もちゃんと取り上げろよ!あれ、表現における治安維持法やで。都合のいいトコだけ「進歩的左翼知識人」のフリしちゃいけない(笑)。
 でもまぁ、他の全国紙も大同小異。JRバッシングにいそしんでおられる。

 ちょっと待ったれや!!いきなりそれっておかしゅうないかぁ!?

 要は高見ナニガシなる若造の運転士が、寝ぼけてたかどうかは知らんが、とにかく伊丹の駅を40mオーバーランして、そのドジをもみ消そうと逆上、パニクってアセって、スピードを出しすぎたのが最大の原因とちゃいまんのん!?
 つまりは、自分のやっとこさ得た「運転手」の地位に汲々としようとした、「保身の気持」が最大の原因とちゃいますのん!?報道によると運転士は、車掌にもみ消すための口裏合わせまで持ちかけてたっちゅーではないか。

 しかし、「保身の気持を持つな!」、なんておれはとても言えない。それはムリなことだ。

 数年前、派手な人身事故起こして相手の方の負傷状況がハッキリしない段階で、おれは会社に電話するのを、やはり、ためらった。ものすごく告げるのに勇気が必要だった。勇気を持たねば言えない自分の、保身の狭小さが情けなかった。
 だから高見ナニガシの気持は良く分かる。失うものを持った人間はとても弱いのだ。でも非が自分にある以上、どんなに苦しくても事実を告白し、それなりの罰を受けねばならないのだ。
 それは人間としてのルールぢゃないんかい?

 そこら辺をスッ飛ばして、JRの体質だとかなんだとか「組織の問題」にいきなり持って行く論調は、何とも見苦しく、いかがなものかと思う。

 やれ、2週間前に1秒単位で運行状況チェックやっただの、オーバーランすると懲罰に近い研修受けさせられるだの、って、えらく書き立ててるけど、それこそ安全かつ正確な輸送を守るためには、それくらいやって欲しいし、やって当然だっておれは思うけどな。
 あるいは匿名のチェッカーが電車に乗って運転手や車掌の行動を見て評価するのが、ゲシュタポやスタージのようだとも非難されている。

 そぉかなぁ〜・・・・・・?おれは客の立場からすると、とてもいいことだと思うぜ。

 実は毎日電車に乗ってて、これまでズ〜ッと思ってた。ダルそぉ〜にモソモソ言うだけで、まともにアナウンスもできない車掌(意外にこれが年配のオッサンだったりする)、あるいは、停車時に吊り革につかまっていなければひっくり返るようなブレーキしかかけれない運転士・・・・・・こ〜ゆ〜連中の怠慢や技量不足をちゃんと取り締まるようなことをJRはやっとらんのか!?と。

 やってたんやんか♪どこが悪いん!?全然OK♪もっとやっていいよ。匿名チェッカーなんて、外食チェーンとかぢゃ当たり前のコトだっせ。ナニ!?それが苦痛で辞めるヤツがいる!?大いに結構。辞めりゃいい。そんなハンチクな気合のヤツが運転する電車に乗せられる方がよっぽど苦痛だ。
 客は安全・迅速に運んでもらうために乗ってるのであって、アンタを新幹線の運転士に育成しようと乗ってるのではない、ってコトだ。働く側に快適な職場作りも結構だが、まずやることやれ、っちゅーねん。

 「労働者=資本の被害者」って大衆迎合的で単純で画一的な図式には、全くもってウンザリする。職業に貴賎はないが、労働者の人格に貴賎はあるのだ。

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 ・・・・・・と、ちょっとJRの肩を持ち過ぎた言い回しになってしまったが、無論、組織としてのJRに大いに非があるのは言うまでもない。

 何より、このようなテムパってしまうカテゴリーの人の特性を過去の失敗から見抜けず、一日やそこらの草むしりと反省文で許して運転手を続けさせたこと。つまり、教育・育成と表裏一体であるべき「評価と峻別」を持たなかった、身内びいきの体質だと思う。
 事故直後に、ありえない置き石説だの何だの持ち出したり、車掌にウソの調書書かせようとした(組合側発表。現時点ではそれが事実かどうか不明)、そのブサイクな慌てぶりも、身内の不始末はとにかく隠せ!という不誠実さの顕れだろう。

 次は、東西線による片町線との直結や三田のベッドタウン化によって急増する旅客数で、今や近畿の重要な幹線になっている福知山線を、昔のままの二級線区の取り扱いにして、最新型のATSの導入を遅らせていたことではないか?
 それって硬直化した組織だからこそなせる、環境変化に弱い教条主義的な融通のなさの証左ではなかろうか?それにそれは経営として安全を軽視していたと言われても仕方ない。

 三つ目は、事故が起きたのにそれを速やかに把握できず停止指令を出さなかったCTCの連中や連絡ネットワークの悪さだろう。対向でやってきて現場直前で気づいて停まった特急の運転士が、さらに気を利かして全車緊急停止信号を出したから後続列車は助かったのだ。この運転士はえらい。運転するのがみんなこんな人ばかりなら、そもそも今回の悲惨な事故も起きなかっただろう。
 いずれにせよ組織としてはインフラに依存しきって、ヒューマンエラーや緊急時の人海戦術的な対応の訓練が不十分だったことが良く分かる。

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 でもおれは、金儲けをJRが標榜していたこと自体、少しも悪いとは思わない。民営化したんだよ。民間企業である以上、適正な収益が出なけりゃ会社はツブれるし、様々な設備への再投資だってできない。それに最近はROEとやらが重視され、なかなか長期戦略的な資本投入は株主の理解を得にくい状況もある。でもそれにしたって、社会が、すなわち我々が要請したことだ。
 ましてや近畿は戦前から旧来の私鉄との激戦区である。油断するとすぐに競合他社に乗客を奪われる。しかし、その切磋琢磨があったればこそ、阪急も阪神も京阪も近鉄も南海もJRも成長してきたのだ。

 おれ達は忘れてる。収益性を度外視し、人手に頼った運用で抜本的合理化をせず、時代に取り残される中、新線建設に巨額の投資を続ける赤字の旧「国鉄」に引導を渡したのは、そして市場の競争原理を持ち込み「ちゃんと収益性を追求しなさい」と言ったのは・・・・・・自分たち一人一人なのだということを。

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 個人の過ちに対し、構造的な根本原因を探る、それは悪いことではない。しかし、そこに個人の非や責任を棚上げしようというイヤな意志が働くことが往々にしてあることを忘れてはならない。
 また、このような検証や省察は正義漢気取りのブン屋だけのすることではない。おれは記者会見でアタマ下げて言い訳する経営陣に対してと同時に、無遠慮に怒鳴り声を上げる新聞記者の人品の卑しさにも虫唾が走った。
 何様のツモリなんだろう?何をバックにした横柄な態度なんだろう?おれは少なくともおまえに代弁者であれとお願いしたツモリはないけどな〜、って思うぞ。勝手に「大衆の正義」の代表になるな!思い上がってカン違いした薄気味悪い連中だ。

 TV観てると、亡くなられた方の年老いた親御さんが、泣きながらおおむね次のようなことを言ってた。

 ------日本中の何かが緩んでるからこんな事故が起きるんです。JRだから、とかそんなんではない。私も含めて我々の何かが緩んでるんです。

 おれは何とまぁ偉いお父さんだなぁ、と思った。こんな惨事の最中にあって、愛する子供を亡くして、もっともJRにストレートに怒りをぶつけてしかるべき人が、である。それがこのように感情を押し殺して冷静な至言を言葉にしている。「緩んでる」・・・・・・何とも的を射た言葉ではないか。

 学校が悪い・企業が悪い・社会が悪い・行政が悪い・政治が悪い・・・・・・組織体に何もかんも押し付け、そうして無各性の中に個々の非や責任を拡散させて棚上げする風潮。それを平然と後押しして、自らは何ら反省することのないメディア・ジャーナリズム。おれはこのようなユル〜い事故の真の背景は、そこにあると思う。

 安易に組織の問題にすりかえるな。白痴化したおれたちが事故を起こしているのだ。そしてこれから起こすのだ。

      「個に帰結せよ!!」

 それは亡くなった運転士に対してのみ向けられるべき言葉ではないことは、だから、言うまでもない。


 あややややや、ガラにもなく今日は厳しい口調になってしまいました。

2005.05.03
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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