「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
農地解放/高度成長/定年延長


農地改革(解放)のポスターを見る農民。

https://adeac.jp/より
 
 いささか呆れたことに、米が足りないんだそうである。暑いだけで凶作でもないのに。

 うちはヨメの実家からもう何十年もいただいてるオカゲでそんな実感はないけど、上質な米ほど不足してるらしい。理由は世界的な和食人気と弱くなりすぎた円による外国からの買い付け、あまりにも行き過ぎた減反政策のせいだと言われたりしてる・・・・・・って、我が家も安閑とはしておれない。ヨメの親が亡くなれば間違いなく米作りは終わるだろうし、年齢からするにその日は近い。そもそも寄る年波には勝てず、もぉ今年なんて一枚しか田圃は作っていない。家督を継いだ男兄弟はいるものの本業があって、地味な粘り強さが必要で休日の少ない農業やる気なんてサラサラ無さそうだ。それでなくともたとえ一年でも稲作を止めた田圃を元に戻すのには大変な苦労が伴うし、山間部で冬は雪が降る彼の地では条件がひじょうに悪い。そしてそんな農家は日本に今、ゴマンとある。かくして耕作放棄地がまた拡がって行く。

 今のおれの住む近所も、宅地化の進んだ中に田圃がいくつか残ってて、昨年、越してきた頃は夜ともなるとカエルの大合唱がうるさいくらいだった。ところが今年はあんまし米を作ってない。だからカエルの声もあまり聞けなくなった。作ってた爺さんが病に臥せたか亡くなったか、あるいはこんな状況にもかかわらず動きが頓珍漢な行政がさらなる減反指導をしたのか分らないが、ペンペン草に埋め尽くされる中、刈り取られた稲株からヒョロヒョロ伸びた痩せた稲穂が何とも侘しい。
 しかし、そこが宅地になることももうないだろう・・・・・・いや、なったとしてもそれが売れる見込みはかなり薄いだろう。なぜなら人口が一貫して漸減し続けているこの地では、すでに宅地は余りまくってるのだ。「好評販売中!」の看板が色褪せて傾き、猛然と繁った雑草に覆われた分譲地はいくらでもある。そして同じような風景はこれまた日本に今、ゴマンとある。

 北海道や秋田あたりの平らで広大な農地で、大型ダンプよりもデカいくらいの巨大なトラクターを回せるような大規模農家、気候が温暖で高単価な野菜や果樹類に特化できる農家はともかく、いわゆる近郷農家、また山間地の農家はかくして今や絶滅しかかっていると言っても過言ではない。このままだとあと20年持つかどうかだとおれは思う。そうしてただでさえ厳しい日本の食料自給率は、さらに絶望的なレベルに下がってくんだろう。

 どしてまたこんなことになっちゃったんだろう?・・・・・・と、その辺を自分なりにウダウダ考えてみたのが今回のネタだ。

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 まず第一に挙げたいのは、戦後すぐにGHQの肝煎りで断行された農地解放だろう・・・・・・と言うと、すぐにヒステリックでヒダリがかった人は柳眉を逆立てるかも知れないが、農業というそれなりの一大産業を将来的に衰退させる仕組みであったのは間違いない。何故なら農地を割譲することは零細への退行に他ならず、大資本による統一的・合理的な経営が阻害されることになるからだ。そうして生産性が低く非効率な個人経営の集合体のまま80年くらいが過ぎてしまった。産業の近代化の基本である分業制さえ喪われてしまった。
 もちろんあの戦後のあの時点では、防共とか寄生地主の排除という観点から農地解放は止むを得なかったのは間違いないし、実際戦前の小作農の多くが農奴に近い悲惨な存在であったのは事実とは申せ、余りに拙速にツッコミ所の多い雑な枠組みのままでこれを行い、その後ロクに見直すことがなかったのが悪化に拍車を掛けた。まぁ日本国憲法と一緒だな。このままぢゃちょとヤバいって、資本参入を認めたのがたしか2000年代だったから余りに遅きに失したと言えるだろう。

 地主に代わって烏合の衆の統制機関としての役割を担うハズだったのが農業協同組合であることは言うまでもないが、この存在の不甲斐なさといかがわしさについては今更おれが言及するまでもなかろう。薄気味悪い平等主義、横並び主義をベースに志のあるサエた農家のモチベーションを削ぎ、ツブし、既得権を守ることだけに汲々として新規の就農・資本参入を阻害してきたワリには個々の組合員たる農家を食い物にしつつ、日本中の田舎にどぉでも良いような役員・事務員を量産してきた・・・・・・と言ったら言い過ぎか?
 しかしおれはヨメの実家で、良く分からん農協のカタログ販売(田舎特有の「付き合い」で、無言の圧があってナンボか買わんといけない)のパンフに苦しめられてるヨメのトーチャン・カーチャンの姿見てきてるがなぁ〜・・・・・・何で米作ってる農家に冷凍ピラフ売りつけんねん!?何で農協が庭に置く悪趣味な布袋の置物売んねん!?
 農協通して苗代やら肥料を買わないと、出来たコメは買ってもらえんってなヘンな囲い込み見てるがなぁ〜・・・・・・。ヨメのトーチャン、歳取って苗代自分で作るの止めて農協から入れるようにしたんだけど、いつも品質の低さをボヤいてたわ。
 大して古くもなってない農機具でも何だかんだの屁理屈で、何年おきかで買い替えんとアカンような指導・斡旋があるのを見てるがなぁ〜・・・・・・そもそも大体どれも一家に1台必要なんか?
 なのに農協の買い上げ価格は異常なまでに安い。いやマジ、以前農協の買い上げ価格聞いておらぁ愕然としたね。こんなけ何日も何日も汗水垂らして、大雨におびえ、台風の進路に気を揉みしてようやっとできた米、バカ高い機械で刈り取って脱穀してこれかよ!?って思ったモン。それならもう米作りなんて止めてしまおう、ちったぁゼニになる野菜作ろう、ジーサン死んだらとっとと不動産屋に売り飛ばそうって気持ちになるのは少し分かる。

 こんな団体、とっとと無くなってしまえば良いのにと、ハラの底から思うのはともかく、農地解放とその後の農協の存在こそが日本の農業の発展をおかしくしたどころか衰退させた、っちゅうのはあまりにアイロニーに満ちたブラックジョークだ。

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 高度成長と、それに伴う農村部から都市部への人口移動、さらにその世代が大きくなって拡がった宅地化も、日本の農業の衰退に大きく影響してるのはまぁ当然として、問題はそれが、所謂、東京・名古屋・大阪の三大都市圏に留まらず無節操なまでに地方都市近郊にまで波及したことに加えて、安い土地と安い人件費を求めてあらゆる農村地帯にまで様々な工場や物流拠点、ピッキングセンター等がボコボコとおっ建てられたことだろう。最近でも半導体工場ができるっちゅうて、熊本で土地バブルが起きてたっけ。
 工場やら何やらが出来れば、周辺にはまずアパートが建つ、飲み屋その他の飲食店が建つ。コンビニやらドラッグストア、GSができる。医者なんかもできる・・・・・・どれもこれも虫食いのようにして、まだらに農地は減っていく。ただでさえ所有関係が複雑で形も広さもバラバラな、生産性の観点からは問題だらけの農地がますますワケの分からない細切れになっていく・・・・・・。

 宅地化っちゅうても大規模に開発されたナントカニュータウンとかならいざ知らず、大半はヤマネコ的にあちこちに小規模に造成された住宅地が色々ややこしいことになってる。おれんちの周りにももちろん一杯ある。狭い行き止まりの道の両側に5軒づつくらい30坪ほどの戸建てが並んだようなチンケな分譲地だ。これは最もミニマムなパターンで、他には表通りから出入りする道路の奥に小さな周回道路があって、その両側に何十軒かの家が並んでるようなパターンとか、斜面に沿って「目」の字型に作られた道路の両側ににひな壇で家がひしめき合ってるとかいろんな形がある。どれもこれも火事とか起きたら消防車の出入りにも難渋しそうな小規模分譲地だ。もっと狭い土地だったのか、ワンルームのアパート建ててるトコも多い。いずれにせよ何とも無秩序でだらしない、何が新興だ?ニューだ?とガン詰めしたくなるような住宅地ばかりである。ホンマ見事にバラバラ、無秩序極まりない。ほいでもってやっぱし暮らしにくいってなって、あちこちで空き家になったり更地ができたりこれまた歯抜けになっている。

 農地解放によってコマ切れにされた農地が、目先の金に目が眩んだ各戸の勝手気儘な売却によって生み出されたことによるこの醜い風景はどうしたら良いんだろう・・・・・・ってなアオい感慨はさておき、こうして一度ズタズタになってしまうとますます生産性は下がる。農業用水だって、土だって、肥料だって、それでも農村という単位の中でのスケールメリット(・・・・・・それでもまぁ零細だけどさ)があったからこそこれまで回って来たんだから。

 別におらぁ農本主義者でもなければ封建主義者でもない。そもそも**イストが大嫌いだ。ただ、それでなくとも厳しい食料自給率を考えると、こんな体たらくではイザっちゅう時にマジで飢え死にするリスクがありまっせ、このままだとますますそのリスクは増大しまっせ、と言いたいだけだ。

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 岸田政権はさらなる定年延長を画策してるらしい。65歳や70歳どころぢゃなく、彼等が狙ってるのは誰の目にも破綻必至・・・・・・っちゅうかとっくに破綻してる年金制度そのものの有名無実化による解体だろう。もぉ止めちゃいますわ!っちゅうとそれこそ暴動起きるから、シンネリシンネリ受給開始年齢を引き上げてるのだ。いずれ障害年金くらいしか残らなくなるんとちゃうかな?
 その気持ちは分からないでもないし、戦後の政治が票を失うのが怖くて「臭いモノに蓋」で、見て見ぬフリをしてきた制度に切り込もうとしていることは認めよう。問題は、バカの一つ覚えみたいに定年と年金をニコイチで考えてるだけだからダメだしツマらないってコトだ。

 ただ一方で、日本の農業を支える労働力の多くが今や、こうした年金受給世代であることも事実だろう。定年後は国に帰って老親がやってる農業継ぎますっちゅうて会社を去ってった人を、おらぁ過去に沢山見てきた。あぁ、上司にもいたな。それで宮崎に帰った途端、霧島の新燃岳が噴火してあの辺火山灰だらけになってたけど、その後どうしてはんのかな?今住まう家の近所にも僅かながらいらっしゃる。首にタオル巻いて麦藁帽かぶってスッカリ農夫然とした姿形なんだけど、定年まではそれなりの企業でそれなりの立場にいたってケースやね。
 従って、今のバカの一つ覚えみたいな定年延長だけでは、間違いなく農業人口はさらに減少する。否、それどころか地方の様々な労働力自体がもっとヤバくなる。自治会での草刈りだのドブ浚いだの、祭りだの、見回りだのといった地味なボランティアはますます苦しくなる。地方はますます荒廃して行く・・・・・・そらまぁ会社の休みに来てくれる人も沢山いてはるが、見てるとやはり専ら支えてるのは年金世代だ。何だかんだで勤めに出てる連中よりはヒマなんだもん。ここが減ったらもう無理だ。

 それはともかく、今のただただ年金の都合だけで行われる定年延長では副作用が大き過ぎる、もっと他の問題も含めたトータルな施策が必要ではないかということだけは申し上げておきたい。

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 いやまぁ他にも、「土一升・金一升」に根ざした、余りにも土建屋・ディベロッパー頼みなこれまでの経済のあり方とか、補償と補助金漬けにするばかりで一貫性と長期的視野に欠けた農政とか、思うところは多々あるんだけど、これ以上長くなってもダレるので三項目に絞った。またヒマがあったら他の切り口もまとめてみたい。

 現在、庭には二羽のニワトリ・・・・・・ではなく2m四方のささやかな畑を耕して、キュウリやトマト、シシトウなんかを試験的に育てている。何せこれまで全くやったことないんで手探りだけど、まぁまぁそれで日々の食卓は潤ってる。黒字か?店で買うより安いんか?と問われればぶっちゃけいささか苦しいものの、ノウハウがある程度蓄積されればさらに低コストで拡大できる手応えも感じてる。最終的には150坪くらいには拡げたい・・・・・・ってか、こんなバカみたいな庭のある家を買ったのは、徒歩ゼロ分でかなりの量の食料が自給できる体制を拵えようと画策してるからだ。

 たしかにこの企ては正に上で散々コキ下ろした零細に他ならず、大いに矛盾を孕んでるのは認めるが、日本の農業の根幹であった米作りだけでなく、農業そのものが危険水域に近付く中での仕方のない自衛手段、とご理解いただければと思う。

 いやホンマ、これから先の10〜20年でかなりヤバくなる思いますよ。 

 
農地解放のポスター。右の方のは上の画像にも写ってる。

2024.07.22

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