「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
畳のある生活


上に茣蓙敷いたんでちょっと皴寄ってたりするのは、まぁご愛敬ってコトで。

 ・・・・・・いや、実は畳の上に茣蓙を敷き詰めちゃったから、正しい表現ぢゃないんだけどね。茣蓙敷くなんてセコいって分かっちゃいるんだけど、ネコが爪とぎとかしたら畳表が一発でワヤなりますやん。それに全交換したらメッチャ高う付くし。

 去年移り住んだ家は、嬉しいことに和室が3部屋もある。六畳が二間に八畳だ。オマケに関西で造りが古いもんだから、畳の大きさが京間とか本間って呼ばれるサイズで、長辺の長さがスタンダードサイズである江戸間の6尺より10cm、団地サイズと較べたら20cmくらい長い。たかが10〜20cmと侮るなかれ、例えば六畳や八畳だと長辺で20〜40cmくらい長くなる。だから随分広々としてるように感じられる。この感じ、学生時代の修学院の木造アパート以来だ。まぁ、あそこは四畳半だったけどさ。それでも当時の富田林の団地の実家の四畳半より随分広く感じたもんだ。
 余談だけど謎なのは、所謂応接間みたいな洋間があとの2つ、ってことだろうか。ほんまワケ分からん家ではあるな。

 洋間はさておき、昨今ガチの和室は旅館でさえ少なくなった感があるのはいささか残念だ。やはりどうしても古臭いとかダサい、使いにくいってイメージがあるんだろう。しかし、和室、また和風建築ってやはり日本の気候風土の中で長い時間をかけて成立して来ただけあって、一日の長っちゅうかメリットはそれなりに大きいのではないかと思ってる。それにそんな合理的な理由だけでなく、やはり落ち着くんですよ。ノイズがぁ〜!とかゆうておらぁエクストリームな表現行為が大好きなクセに、家についてはコンサバかつ古典主義なのだ。

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 これまで住んでたマンションは申し訳程度にヘンな形の畳の敷かれた狭い和室が一間あるだけで、後は水回りに近いトコを除くと廊下から何から全部フローリングだった。まぁ、本物の木でそれなりに風合い良いし、ニードルパンチやリノリウムでなかっただけマシなのかも知れないが、ナンボ上に絨毯やらラグやら敷いてるとはいえ、その床に座るのはなんかとても違和感があった。オマケにまぁまぁ高層階だったにもかかわらず、冬はすごく冷たい。なるほど床暖房は付いてたものの、結局はヒートパイプの通ってる部分が申し訳程度にモワ〜ンと暖かくなるだけで、そのクセ恐ろしくこれが電気代の掛かる代物だったんですぐに使わなくなってしまった。ホンマに無用の長物だ。
 フローリングっちゅうから聞こえは良いけど、極論すれば要は「板の間」に過ぎない。それがツルテカにワックスがけされてるだけや、っちゅうねん。

 そんなんだからその内、ヨメのたっての希望でソファーが置かれることになった。そしたらさして広くもないリビングがより一層狭くなった。あれホンマに場所取るね。何とダイニングテーブルの片側の椅子が出せなくなっちゃった。3人以上でメシ食う時はよっこいしょとソファーをずらさなくちゃいけない。ところがこれがムチャクチャ重い。普段からその位置に置いときゃエエやん、ってご意見もあろうが、そうなると今度はあまりにソファーとTVが近くなって却って見にくいのである。
 ソファーはその内、ヨメの昼寝ベッドになった。ネコが来てからは隅っこが指定席になった。おれは結局ほとんど座らなかった。

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 住んでみて改めて気付かされたのは、驚くほど湿気が籠りにくいってコトだろう。そらもちろんこの地の瀬戸内式気候のオカゲもあるだろうし、やっぱし限界だってあって、北側の押入なんかはいささか厳しい。だけど、全体としては少々長雨が続いても冷え冷えするだけでそこまで室内がジメジメすることが無い。コンクリのマンションだとこうは行かなかった。それは、高床式ちゃうんか!?っちゅうくらいにシッカリ取られた床下や、壁と畳の調湿効果によるものなんだそうな。住んでしばらくした頃に耐震診断をやってもらった時にやって来た建築士のセンセがそんなこと言ってた。だからこうした昔風の造りの日本家屋では、そこまで換気に気を遣う必要なんて本来的にはないとのことだった・・・・・・その分、冬はあちこち吹き込む隙間風で寒かったが(笑)。

 そんな和室をどんな風に今使ってるかっちゅうと、ぶっちゃけ台所に繋がった六畳が炬燵とTV置いて居間になってるだけで、あとのも一つの六畳と八畳は泊まり掛けで子供たちとかが来た時の寝室に使うくらいで、ほぼ遊んでる状態だったりする・・・・・・あ、お客さん来た時も通してるか。
 先日までは、トップ浮き修正中のアコギがギプス咬まされた上にクッソ重たい座卓の重しの下敷きになってたりした。後は夕方になってといれた洗濯物をヨメがそこで畳んでたりするくらいだ。我ながらメチャクチャ贅沢な使い方とは思うけど、「立って半畳寝て一畳」っちゅうくらいで、普段の生活でそんなにあちこちの部屋をウロウロすることはないモン。

 しかし効用は、ある。 いささかどころかかなり悪趣味だとは自覚してるものの、おらぁそれらを眺めて要は悦に入ってるワケだ。

 八畳の間には床の間と仏壇収めるスペースがあり、続きの六畳との間には見事な欄間が入ってる。天井も綺麗な杢の出た杉板だ。合板とかプリントちゃいまっせ。最初にリフォームの見積もりに来た業者さんは「これは絶対そのままにしとくべきです。もうこれほどの単板材はナカナカ手に入りません」っちゅうてた。床の間の床框だってこれまた今はワシントンなんちゃらで入手困難、っちゅうか不可能に近いであろう紫檀だか黒檀だかの無垢の太い角材が使われてたりする。エボニーやん。ギターの指板にしたら20本くらい取れるんちゃうやろか。襖も普通の鳥の子紙ではない。織物紙ってヤツだったりする。そして壁はガチの聚楽。最初のオーナーはどんなけ金持ちやってん!?って思う。

 問題は、どれもかなり古びて来てるってコトだ。板はまぁ頑張って磨けば良い。しかし壁は居間の六畳以外は余りのお値段に塗り替えを断念したから元のままだ。見事に煤ボケてる。襖は一ヶ所、大きく凹んで穴になってたりするが、織物紙の値段見ておらぁシビれましたわいな。それに張り替えったって襖一枚だけ更新ってワケにも行きませんやん。ほたらナンボ掛かりまんねん?っちゅうこっちゃね。そして畳・・・・・・そう、畳もモノ自体は凄くエエのんらしいが如何せんこんなの消耗品だし、そもそもかなり灼けちゃってたりする。いずれどこかで更新しなくちゃならんだろうが、今時こんな本藺草の畳、やはりゴッツいコストが掛かってしまう。

 マジで自分の寿命と相談してキメにゃならんのは、ぶっちゃけちょっとばかし切ない気持ちにもなる。なるほどそれは、ある。

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 ・・・・・・それでも、だ。畳はやっぱし良い。

 夏涼しく冬暖かく、硬すぎも柔らかすぎもせず、ゴミや埃も溜まりにくく、掃除で掃くのだってとてもカンタンだ。水拭きしても晴れてりゃすぐに乾く。こんな優れモノを、昔からあるってだけでダサいだの昭和だの何だのディスるヤツは、無知蒙昧なアホだと思う。それか或いは生家が貧乏で、筵でも敷かれた環境で育ったのかも知れないな(笑)。
 夏の暑い日など、縁側の窓開け放って座布団折って枕代わりにして昼寝なんかしてると、藺草の香りも爽やかで大層気持ちが良い。流石は元々寝具、一種のマットレスとして生まれて来たものだけある。カーペットやフローリングではどしたってこの感じにはならない。エエよホンマ、チャンとした和室のある暮らしって。

 ・・・・・・何かその内、病膏肓で「油団」とかまで欲しくなったりしてね(笑)。

2024.05.23

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