「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
有朋自遠方来、不亦楽乎


ワイワイゆうて酒を酌み交わす・・・・・・大事なこっちゃね。

 そんな鳥も通わぬような辺鄙で不便な田舎の村に引っ越したワケぢゃぁないんだけど、東京・大阪・京都といったこれまでの都市部中心の交友関係からすると、地理的にこの地はやっぱしメッチャ遠い。客観的に自分でもそぉ思うもんな。

 そんなんで多くの人から「エエとこに越したねぇ〜!そのうち遊びに行かせてもらうよぉ〜!」な〜んて言われはしてるものの、大概がリップサービスで、遠路はるばるホンマに足を運んでくれるような者は滅多にいない。スネてんちゃいまっせ。そらまぁ当然っちゃ当然だろう。マジで来るとなると足代がまずそれなりに掛かるし、どしたって日帰りだと厳しいから泊まり掛けになるだろうし、それだとそこはやはりおれっちゅうよりはヨメに対しての遠慮もあるやろし、だからって近所に宿を取ったりするとさらに高く付くし、せいぜい何かの用事のついでに立ち寄るとかくらいしかできないトコにあるんっすよ、うちの家は。わびゃびゃ。

 用事・・・・・・そう、みんな未だに現役の勤め人だったりするもんだから、何だかんだと縛られてワチャワチャと忙しいのである。多くがもぉそれなりの歳だし、やはり年功制天国な日本だけあって、勤めてるっちゅうたかかて何だかんだでエラくなって職場での立場もそれなりに出来て実態としての労働はさほどないハズなんだけど、とにかく会社にあれこれ拘束されてるコトが多い。この国はホンマ、どこまで人を貧しくし、働かせ続けたいんだろうねぇ・・・・・・。

 床屋政談なボヤキはさておき、それでも時折、古くからの友人が我が家にやって来てくれたりすることがある。ナンボ狷介固陋なおれでも素直に嬉しいし、本当にありがたく思う。タイトルの通りで「友遠方より来たる、また楽しからずや」っちゅうこってすわ。

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 ・・・・・・って、来る方も来る方でひじょうに大変なんだけど、迎える方も迎える方でそれなりにどころかムチャクチャ大変だったりするのは率直に言って事実だったりもする。

 折角来てくれるのに粗略に扱うワケには行かんだろうから、まずは室内の片付けやら掃除がある。門から玄関周りを掃き清めたり、時には草毟りしたり、縁廊下に出しっ放しになってる物干し台なんかも片付けたり、掃除機掛けたり、泊まりだと布団の用意もしなくちゃいけない。ヨメはヘンなトコで癇性病みなんで、こうした来客用の普段使わない布団はカバー類を外して布団袋に仕舞わにゃならんと信じ込んでて、イチイチ巨大な袋から引っ張り出して一日干してからカバー掛けるのが死ぬほどメンド臭い。あぁ、それに加えてネコはおれたち以外の人間だと娘にしか懐いてないから、来客にビビッてとにかく嫌がる。だからその避難場所も確保してやんなくちゃいけない・・・・・・まぁ、これは家が広くなった今はマンションの時よりも苦ではないか。奥の部屋は渡り廊下で繋がってるだけで離れみたいになってるし。

 続いての難関、っちゅうかいっちゃん手間取るのはやはり饗応の主役である料理だろう。来て最初の一服に茶菓子だって必要だわな。いっそ仕出し取るか外に食いに行っちゃえば大いにラクなんだろうけど、来られるみなさん、ありがたいコトにおれの手料理を少し期待してくれてたりもする。今やそれに加えて、外で大盤振る舞いできるほどの経済的余裕は我が家のどこをつついてもないワケで、ここはやはりおれが頑張らないワケには行かない。
 そうなると買い出しに行く必要がある・・・・・・いや、その前に当日の献立を考えるのが何よりも先決だ。これがかなり大変で、往年の「料理の鉄人」での道場六三郎、あるいは「お料理もちょっと工夫でこの美味さ!」の神田川俊郎みたく、本日のお品書きを考えて紙に書き出して行く・・・・・・で、それを食材に分解する。料理の因数分解みたいなモンやね。買い過ぎたら後で難儀するから必要量を大体弾いたりしながら、同じ食材・同じ味付け・同じ調理法が続かないよう、またマニアックなんばっかしで調達に苦労しすぎないよう、あれこれ検討するワケだ。

 基本はまぁ、懐石料理ぢゃないけど最初に突き出しっぽいのをザザッと何品か出して、続いてお造りとか出して、ほいでもって焼き物、揚げ物と出してってシメはご飯物、みたいなカンジでやんだけど、具体的に何にするか?はその時の季節なんかもあるワケだし、いざ買いに行って気分で変わることだって多いから、これがもう簡単には落ち着いてくれない。もちろん、買う店だって一軒では終わらない。一軒で全部済めばラクなんだろうが、スーパーのクセに品揃えがどこもちょっとづつ偏ってて、イメージ通りのモノが揃ってないのである。狭い町をウロウロとスーパーのハシゴする不審なおっさん・・・・・・それはおれだ。

 次は仕込み。出汁取ったり、下茹でしたり、乾物関係使う時は水で戻したり、ある程度食材を切り揃えたり、チャーシューやらサラダチキン、酢漬け、マリネといった下味付けて火を通して冷すようなんとか、まぁそんなんがあれこれ何種類もチマチマとある。やった後は冷蔵庫に入れとかんとアカンものも多いから、庫内は当然手狭になって来る。気付けばビールを冷やすスペースが残ってなかったりもする。仕方ない、クーラーボックスで冷すしかあらへんやんけ。一人でこの地に赴いた当初、冷蔵庫がなくてスーパーからパチった無料の氷で、来る日も来る日も一生懸命ビールやらペットボトルのお茶を冷やしてたのを想い出したりする。あん時ゃホンマにツラかったわ。

 こんな調子だから何だかんだで材料調達と仕込みだけでも丸々二日くらい掛かってしまってる。いや、これを日々の生業にしてたらそれなりにサイクルだってチャンと出来上がってるだろうから動きに無駄や躊躇・逡巡が無くなって、もっと段取りよく手早くチャチャッとやれるんだと思う。たまにしかやらないっちゅうのがいけない。とかく生産性が上がらないのである・・・・・・「作業は出来る限りルーティンワークに定型化して落とし込め!」って何だか今迄やってた会社勤めでエラそうに講釈垂れてたコトやんか(笑)。でけへんのかい!?

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 そしていよいよ当日、おもてなしを巡るドタバタはピークを迎えることになる。♪今日は朝からてんてこ舞いの忙しさ♪盆と正月一緒に来たよなテンヤワンヤの大騒ぎ、ってか!?

 当日に実際に調理せにゃならんのは生モノや焼き物、炒め物、揚げ物くらいだろうか。煮込み系はもう出来てる、サラダやお浸しなんかも準備万端播但線で昨日には作って冷やしてある。後はドレッシング掛けたりするだけだ。鍋やら雑炊はまぁ、出汁さえありゃ何とかなる・・・・・・こんなカンジで朝の段階ではそれほどの切迫感はない。おれとしては工数に相応のマージン残してるツモリなのだ。だけども毎回必ず、絶対にそうは問屋が卸してくれない。

 ------あっ!アレ買うのを忘れてた!
 ------あっ!あったハズの調味料がない!
 ------あっ!そろそろあそこのお菓子屋にケーキ取りに行かんと!
 ------あっ!そろそろ電車の時間やんけ!駅に迎えに行ったるっちゅうてたっけ!・・・・・・一日の内に何回「あっ!」っちゅうてんだか。

 それでも約束の日時は到来し、旧知の友人はやって来る。まずは座敷で再会を喜び、一服して、家の中や庭を案内し、ネコを紹介したり、おれの部屋の溢れる楽器類に驚かせたり呆れさせたり、音出しさせたりするうちに早くも夕方近くになって酒盛りは始まる。料理作るのが好きってのも勿論あるけれど、おれはこうした時、座ったままだとすぐに酔っ払う方なので、基本的にテーブルではヨメに相手してもらいつつ、料理作って給仕しながらもてなすのが流儀だったりする。当日も含めると実に三日掛かりで拵えた料理を次々と出す。実に忙しない呑みっちゃ呑みだけど、来る連中はおれが昔からそんな行動パターンなのを知ってるのでまぁ当たり前のように宴は進んで行く。

 それでもやはりペースは普段より上がる。ナゼか?要は楽しいからだ。ついつい度を過ごしてしまう。バカな昔話、お互いの近況やこれからのコト、趣味や道楽のコト、当然辛気臭い話も出たりする・・・・・・その内やっぱし酔っ払ってツブれたりする。ホスト役のおれがツブれて突っ伏してちゃぁ〜全くもってハナシになんないんだけど、それは来てくれるヤツが、やっぱし好いヤツだからだ。

 有朋自遠方来、不亦楽乎・・・・・・それはホンマだ。今度のGW前後にもまた、色んな人が来てくれる。とても嬉しく、ありがたいことぢゃぁあ〜りま温泉。

2024.04.23

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