「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
「中、古民家」ノススメ


単身、障子の張り替えに苦戦してた頃。画面右あたりが柱僅か2本で、一番建物で華奢な部分。
ちなみに天井板は全てムク材だった。今買えばいくらするのやら・・・・・・(拡大再掲)。


 古民家ブームは依然、堅調に続いてるらしい。旧いモノを大切に使うのは基本的に良いコトなので、それはとても好ましい状況だと思う。しっかし好事魔多し、古民家カフェなんてなると一部のエリアではもぉ完全に供給過剰、レッドオーシャンも良いトコで、カニバが起こってるくらいなんだとか。
 一方で揺り戻しとでも呼ぶべき「古民家止めとけ」みたいな主張がかなり見られるようになったのも事実だろう。タダ同然で買ったのは良いけど、いざ住んでみると維持・修理・修繕費の箆棒な高さ、光熱水費の高さ、交通の不便さ、様々なインフラ不足、仕事の無さ、あっても給与の低さ、田舎特有の近所付き合いと排他性等々にネを上げる人が続出してるのは事実なんだろう。

 そもそも古民家ってコトバ、安易に使われてるがその定義は良く分かってない。実際のトコはどうなのか気になって調べてみたら、チャンとありましたありました。一般社団法人全国古民家再生協会ってのが「昭和25年の建築基準法の制定時に既に建てられていた『伝統的建造物の住宅』すなわち伝統構法とする」と定義してたりする。つまり今年(2024年)で言うと築75年以上で、昔ながらの軸組工法で建てられてるのが該当するワケだ。戦前の瀟洒な洋館なんかはだから古民家とはならんワケやね。

 とすればおれの今住むこの家は70年代も半ばの建築なので、古民家には全く該当しない。しかしおれはむしろそれで良かったと思ってる。今回はその辺を書いて、古民家を買おうと思ってる人の一助になればと思う。

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 冒頭で述べたネガな部分の、交通以降の問題については「自分でなんとかせぇや」としか言いようがない。そこに文句言うのは事前の知識やリサーチ、根回し、或いは自身の性格とかアティテュードの問題も大いにあるからだ。だから、建物およびそれに付随する問題のみ書く。

 まずガチの古民家欲しいなら、契約条件を良く調べてランニングコスト含めて限りなく安く住める物件にしなさいってコトが挙げられるだろう。TCO(トータル・コスト・オブ・オーナーシップ)っちゅう考え方で、10年とか20年暮らしたら全部でナンボ掛かるんやろ?ってな総額見込みだ。
 例えば物凄い屋敷で文化財的価値があったりすると、市町村から応分の修繕の補助が出たりする。ただその額はマチマチで、大体指定する行政が小さいほどお金は出ないと思っておいて良いと思う。指定して色々面倒臭くさせといて、そいでもって金はロクに出さんっちゅうヒドい自治体も多い。逆に街並み全体を保存してるトコとかだと、歯抜けのように建て替えられちゃ困るんで8〜9割を負担してくれたりもする・・・・・・でも、「1割負担か!?しめしめ!」と思ったそこのアナタ、甘いよ。古民家の修繕にはいろいろ制約があって、工法とか素材とか古式ゆかしくやらんとアカンかったりするのだ。そんなんでその辺のマンションのリフォームとはケタ違いの見積額になる。そいでもって今風の道具入れられんとかなったら地獄やで。
 今時、おくどさんでメシ焚けますか?冬の日も家の外で風呂の薪、くべれますか?寒いからって板の間の裏にスタイロフォーム貼ることも、勝手に土壁をクロスにしたりもできまへんねんで。
 タダでも良いから住んでください、修繕費はある程度出します、あるいは煮るなり焼くなり好きなようにしてください、くらいがまぁ現実的な落としどころだろうか・・・・・・あんましそれで好物件ないけど。

 自身で江戸だか明治だかのガチ古民家を買って暮らす不動産屋さんに話を伺ったことがあるが、土地・家屋自体はかなり安かった代わりに、入居前のリフォームっちゅうか修繕は徹底的にやったら3千万以上軽く掛かったって言ってた。でも、それくらいシッカリ最初に突っ込んどかないと後々とにかく問題頻出になるのがプロだからこそ分かっておられたみたいだ。「古民家はイニシャルでのメンテナンスにどれだけガッツリ掛けるかです」とハッキリ言ってたモンな。

 ・・・・・・つまりタダで手に入れてストック状態でタダで暮らす、な〜んて虫の好いハナシはどこにもないワケだ。

 2番目の方法はおれみたく、「定義でのガチ古民家には該当しないけど昔風な造りの家」を買うってコトだ。みなさんにもこの辺を一番お勧めしたい。おれは勝手に「中、古民家」って呼んでる。「中古民家」ぢゃないよ。これだとそこまで法外に維持・修理・修繕費は掛からない。
 実は古風な軸組み工法って、地方だとけっこう最近まで主流だった。セカンドオピニオンも兼ねて耐震調査に来てもらった建築士さんによれば、昭和50年代くらいまで、数は減ってたものの古民家でよく見掛ける曲がりくねった太い原木を梁に使ったような家は建てられてたらしい。おれんちも実はそうなってる。
 そしてできれば平屋、あるいはせいぜい屋根裏部屋くらいまでが良いとのコト。逆に古民家の間取りとして人気が高く、カフェにするとキャパも稼げる、真ん中に太い大黒柱の通った田ノ字間取りの二階建てなんかは絶対に止した方が良い・・・・・・っちゅうのは、これまで知り合いになった建築士はみな申し合わせたかのように言ってたな。地震来たらイッパツで一階部分がペチャンコなんだそうな。たしかに今回の能登半島地震でも一階が二階に押しつぶされてるケースがやたら目立つ。それに平屋だと掃除もラクだし、歳取って足腰弱くなっても何とかなるメリットもある。
 次に屋根が古風で堂々とした入母屋造りだと、見た目の重厚さそのままに重くてやはり耐震性の点で問題あるので、単純な切妻、あるいは寄棟が良い。重い本瓦でもそれならまだ少しはマシらしい。
 壁については多いほど頑丈なのは言うまでもないが、筋交いがどれだけ入ってるかがポイントとなる。これはしかし、ナカナカ事前に調べるのはむつかしいと思われる。あと、付け加えるなら建物の角部分が壁になってるのが強度的には良い。その一方で角部分は縁側など、数寄を凝らして見晴らし良くするために柱だけで支えてることが多かったりもする。繊細であるが素人目にも華奢だ。まぁこの辺はトレードオフっちゅうか痛し痒しだろう。建築士曰く、「地震来たら窓の少ない北側か庭に逃げてください」とのコトだった(笑)。

 ぢゃ具体的にはどんな物件が狙い目か?っちゅうと、そこいらの田舎のフツーの百姓家ではなく、地元のお金持ちが金にあかせて建てたような、しかしあまり大き過ぎない物件、ってコトになる。
 あくまで結果論だし別にドヤ顔したいワケでもないが、おれの買ったのが正にそれだった。別宅として建てられたとかで、実はさほど大きくはない。ムダに玄関デカくて縁廊下が広くて長いから延べ床面積がそこそこあるだけで、ぶっちゃけこれまで住んでたマンションより部屋数的には一部屋多いだけだったりする。

 ぢゃあ何が良いってそこは流石お金持ち、見えないトコにまで使用材や造作に手抜きがない。事実この家の柱は、殆ど節目のない最上級の檜だったりする。檜って200年は軽く持つ、と言われるし、製材されてから50〜100年くらいかけて強度が増して行く不思議な材だ。しかし70年代は輸入材が一般化した時代でもあり、その中には日本の気候に馴染まない材もあって、見た目はリッパに日本建築だけど材は粗悪でスカスカの外材ばっかし、なんてコワい例もあるらしい。
 基礎も通常の倍くらい高く取ってあって、高床式みたいになってる。こんなのとても後から変更できるものではないからありがたい。だから湿気の心配は殆どない。キッチンだけ今風にリフォームした際に床剥がしたら、たしかに恐ろしく頑丈に基礎が打たれてた。建築士曰く、このまま建て替えてRC載せれるくらいなんだとか(笑)。
 壁もガチの聚楽壁だった・・・・・・って、これだけは建てたお金持ちをちょと恨んだかな?(笑)。いや、風合いとかはそらもぉ最高なんだけどさ。聚楽壁ってクロスに変えると新たに下板を張ったりせんならんので、そのまま塗り替えるのとコスト的に大して変わらなくなってしまう。でも今は鏝を綺麗に使える職人が少ないんで、塗り替えはメッチャ高い。リフォームの見積書見た時のけぞったもん。
 一事が万事そんなんで、床の間の床框なんて今はワシントン条約で買おうにも買えない極太の黒檀がそのまま使われてたりする。ギターの指板にしたら20本分くらいは軽く取れそうだ(笑)。

 ちなみにおれは偶然にずいぶん助けられただけで、決して最初からそこまで知悉して狙ってたワケではないし、泥縄で後から学んだことも多い。ただ言えるのは、こうした惜しみなく金掛けた物件は大抵の地方で良く探せば必ず見付かるし、どんなけ金掛けて凝った造りでも価格的には償却終わって二束三文になってるし、それにそうした家ってそこまで辺鄙な場所ではなく、意外と市街地に近いトコに残ってたりするから、それこそ交通や仕事云々のハードルは随分下がる(・・・・・・その分値段はそれなりにするが)ってコトだ。
 現に最終的に比較検討した中だけでも似たような来歴を持つ物件は3〜4軒あったもん。いつの時代にも豪気な金持ちはおるんですなぁ〜。すぐ近所にもあった。そっちは家の陽当たりがイマイチだったんと、おれにゃぁ無縁の茶室があったんで止めたんだった。ナンボ何でも要りませんわ、茶室。

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 こうして首尾よく「中、古民家」をゲットしたとしても、光熱水費は覚悟しとかなくちゃいけない。夏はまぁエエよ。窓を開け放っておけば比較的それでも過ごせるモン。夜だって寝る部屋だけクーラー入れたら何とかなる。意外に障子ってのはデキるヤツで、想像より遥かに断熱性は高い気がするのが僅かに救いだったかな。
 ・・・・・・って、問題は冬だ。とにかく寒いし木造で気密性・断熱性が低いから暖房が効きにくい。風呂や洗面所、トイレなんてもぉ底冷えして凍えるくらいに寒い。台所も冷蔵庫が要らないくらいに寒い。そんなんでエアコンに加えて火鉢はまぁネタで良いとして、電気ストーヴやら石油ストーヴ、合わせて4台も買わざるを得ない羽目になった。
 もちろん地方あるあるでガス代だって高い。プロパンは一般的な都市ガスに較べるとメチャ高い。そらそうやわ、ボンベチェックして交換とか家まで来てやってくれるんだから。人件費の掛かり方が違う。ただ、これは覚えといて損は無いと思うが、実はプロパンって都市ガスのメタンやエタンに較べると発熱量が倍くらいあるから、同じ使い方だと相対的に使用量は少なくて済む。だから実質1.5〜7倍くらいな感じに収まってるような気がしてる。まぁこの辺は工夫やろうね。
 水道代は地方によって随分開きがあるから一概には言えない。ただ、下水道が整備されてないトコだと汲み取り問題があって、これが結構なランニングコストになることは覚えといて良いかも知れない。上水に関しては井戸があったらかなり助かるだろう。風呂や庭の散水だけでも井戸水に出来ればかなりコストは変わって来る。ちなみにおれんちは水に関してはこれまでと同じ上下水道共に普通にある。井戸は欲しかったけど無かった・・・・・・あったらあったで貞子やお菊さんが出て来そうで怖いんだけどね。

 そうそう、意外な伏兵は穴ム心な窓だった。これまたお金持ちの余徳、アルマイト剥き出しの銀色の安っぽいのではなく、ブロンズカラーで重厚な錠前の付いたサッシでこりゃラッキー♪と思ってたらあにはからんや、メッチャ大変なんっすよ。もぉ型が古過ぎて縁のゴムパッキンとかの消耗部品が無いんですわ。だからってサッシ窓全部の交換だとひどく掛かるし、長い縁側の分、異常なまでに窓が多いからより一層高くなる。
 窓はまだまだ使えるのに、ただパッキン無いってだけで全部交換ってのも、ケチなおれにはどうにも業腹なことで、ここは目下思案中だ。しかし、思案してる間にもカーテンが揺れるほどに隙間風は入って来るワケで(笑)、何とも悩ましい。
 余談になるが、窓のサイズがある程度全社共通に規格化されたのはワリと近年のことで、70年代くらいまでの家の窓って現在の規格品だと合わないことがすごく多いらしい。だからって今さら、木枠の格子でガラス窓にするっちゅうワケにも行かんしねぇ。まぁとにかく、インテリア関係の工業製品は今の一般的なのと合わないことが多い。カーテンレールとか、地味なトコでイラッとする。

 また、本間・江戸間の問題もある。例えばおらぁネコが爪とぎするリスクを考えて、畳はそのままにして上に一面の茣蓙を敷いたんだけど、本間だと今は数が出ないからか、全く同じシリーズの商品なのに江戸間より値段がメチャ高くなった。障子紙なんかも同じで、今は専ら江戸間を基本に作ってるから、本間をベースとしたサイズだと割高だったり、ヴァリエーションの幅が狭かったりする。
 また、いずれにも属さない地方独自の尺貫法によるケースもあるらしいから、たとえ「中、古民家」であれ、求められる方はまずは巻き尺持参が必須だろう。ちなみに襖はサイズ問題に加えて用紙の問題がある。単純に鳥ノ子紙使ってあったら上に貼るだけでラクだけど、上等の織物襖紙だと一度全部が剥がして貼り直しってコトもある。それで費用も手間も格段に跳ね上がる。

 工法が同じなんだから、虫の問題もガチ古民家同様に、ある。何やかんやよぉさん出て来てくれはりましたわ、ホンマ。だから色んな害虫駆除の薬剤も必要で、蚊取線香だけでも昨年の夏は50巻入り長時間タイプのジャンボ缶をすぐに使い切った。それ以外にもバルサン、アースジェット、ムカデなんたらとかあれこれ導入してケッコーな物入りだった。しかし防ぎきれなかった。仕方ないから家蜘蛛の捕食に期待したら、それなりに頑張ってくれた。それはとてもありがたかったものの、今度はソイツ自身が豊富な餌で巨大化して大変不気味だった(笑)。

 何を言いたいか?っちゅうと、たとえ「中、古民家」でも、佇まいをそのまま残すにしてもリノベするにしても、問題は次から次に出て来て予想外のコストを覚悟しとかなきゃいけない、ってコトだ。そしてこうしたコストは、時流通りにグラスウール詰め込むとかスタイロ噛ますのより遥かに高く、かつエンドレスに続く。それを達観して受け入れられないとしんどいだろう。いやまぁ、おれだって達観はしてないしできないんだけどさ。

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 古民家に暮らすことを考えてる人に「止しとけ!」っちゅう気は毛頭ない。むしろ同志が増えてありがたい。みんなもっと古いモノに再び命を吹き込めばいい。
 だけど、勢いだけだと必ず後悔するし、応分のコストは多い目に見込んで考えとかないと最近のコトバで言う「詰む」になっちゃうよ、ってコトだ。そしてそうした古民家に付きまとうハードルを少しは下げるのに、「中、古民家」はまぁまぁ有効だろう、ってコトだ・・・・・・いやまぁエラそうに書いたおれだって、日々の暮らしはこれまでとは比較にならないくらい倹約してるし、それでよぉやっとなんだけどね。

 そうしたことを踏まえても、ようやく半年が過ぎたここでの平凡っちゃ平凡極まりない暮らしをおれはかなり愉しんでるっちゅうか、未だワクワクしてる。あるいはそれはヒヤヒヤかも知れない(笑)・・・・・・が、少なくともまったく退屈はしていない。何だかこれまで得られなかったリアルがある。

 「中、古民家」、みなさまハッキシ言ってオススメでっせ!

2024.01.08

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