「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
GSIの空中写真と限界ニュータウンと


昔住んでた富田林周辺の変遷。上が1961年、下が2021年。

画面中央やや左、南北に走る南海高野線の線路と、中央下の池から位置関係はお分かりいただけるだろう。

https://www.gsi.go.jp/より

 これまで何度か触れたけど、おれは国土地理院ホームページの「地図・空中写真閲覧サービス」ってのんの大ファンで、しょっちゅう見てる。いくら見ても見飽きないし、そもそも莫大な量にのぼる日本中のすべての過去の空中写真の履歴をすべて閲覧することなんて一生掛かったってほぼ不可能だろう。ちなみに「GSI」は”Geospatial Information Authority of Japan”の略だけど、「SGI」は創価学会の略称だったりするんでどうか御注意を(笑)。

 この素晴らしい「地図・空中写真閲覧サービス」の内容について、ご存知ない人のために若干説明しとくと、要は「過去の地図や空中写真の履歴を、現行の地図上から、年代や図版の種類を指定して自由に検索できるシステム」ってコトになる。地図の上をマウスでなぞってくと、過去の図版のあるポイントがピンクの丸いマップピンで示され、そこをクリックすると該当する図版が開く。さらに「高精細」ボタンを押せば、限度はあるものの拡大して細かいトコまでみられる。当然ながらカメラの性能が良くなかった昔の写真はそれほど大きくズームは出来ないし、撮影条件が時代によって違うから全く同じ縮尺で見較べることは難しいんでそこは少々残念に思うけど、それでも古い町並みや風景の画僧が見られるのはひじょうに貴重だしありがたい。

 こんな優れものが無料でいくらでも見れるってホンマ、日本は税金ムダ遣い天国・・・・・・もとい、実にエエ国ですわ。

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 ともあれこうして同じ地点の過去から現在までの変遷を見ることができるワケだ。おらぁ鉄チャン気質なんで、やはり古い鉄道路線を中心に見てることが多い。今は見る影もないほどに空漠な空間が広がるだけの荒廃しきった地方の駅が、かつてはドッシリした本屋を中心に何本もの側線を有し、客車・貨車が列をなし、車庫やら詰所やらターンテーブルまで備えた駅だったことが分かったり、地方私鉄等、マイナーとは申せそれでも今でも情報に上がって来る名前の付いた路線は当然として、あちこちの港や山の鉱山に向かって名も無き貨物専用線なんかが延びてたのが見られるのは楽しい。こんなトコにまで線路走ってたんだ!?って驚いたことは数え切れない。ホント、かつては鉄道だけで日本地図が描けてしまうくらい、文字通り津々浦々、日本中に線路が引き回されてたってコトが良く分かる。汽車が煙を上げてる様子が写ってたりすることもあったりして、これまた楽しい。
 撮影者は戦前は日本陸軍、戦後すぐくらいは米軍、その後は国土地理院自身であることが殆どだと思う。そら戦争にも負けるわな〜、って思ってしまうくらい、戦前の日本軍撮影の画像は粗い。ニコンもそこまでイバれるほどぢゃなかった、っちゅうこっちゃね。米軍撮影のも残念ながらあと一歩のズームに耐えないのが難点のど飴だけど、白黒とは申せまぁ当時の風景をリアルに看取できる程度の細密さにはなってる。

 気付けば1時間くらい、アッちゅう間に経ってしまってる。その時のおれは、少し寂し気に微笑んでるような気がする。

 今住まう場所のかつてを見ると、家なんてホンマ一軒も建ってない。畑が一面に広がるだけだ。昔暮らしてた富田林もそうだ。今度引っ越そうと思ってる街もケッコーそうだな・・・・・・って、日本中が概ねそんなカンジだった。平野部にはそれなりに四角く、そして山裾の狭い谷の奥の奥まで等高線に逆らわず、丹念に拓かれた田圃や畑が広がっているだけだ。この国がかつて、都市近郊と言われるトコまでどれだけ豊かな自然に溢れてたか、長閑な風景が広がっていたか・・・・・・っちゅうよりは、今やアメーバの増殖のように野放図に風景を侵食する住宅地ってのが如何に少なかったかが良く分かる。東住吉区はさすがにかなり昔から住宅地だったけど(笑)。
 撮影年代で言うと60年代くらいから、急速に日本の国土は都市を中心とした同心円状に宅地化が進展したことが画像からもハッキリ伺える。人口自体はそんなに増えてないのにね。「金の玉子」とやらで一気に労働人口が地方部から都市部に流入し、その後定着したコト、また職住分離が文化的でハイブローあると無批判に信じて誰もが邁進した結果がこのザマってコトなのかも知れない。

 ちなみにそうして労働力を都市部に掻き集めた企業に対して、批判する向きを多いだろうが、日本のかつての「ムラ」で次男坊以下、或いは行き遅れた娘の置かれた悲惨な境遇は、「オジロク・オバサ」のエピソードからも伺えるように極めて苛烈だった。実はこれ、信州方面だけの問題ではなく、多かれ少なかれ全国どこの地方にもあった問題なのだ。「長男は竈の灰まで貰える」・・・・・逆に言えばそれ以外は何も貰えない、ってコトなのだから。
 都会に出れば、頑張ることで生まれた順番関係なしに、豊かに、主体的に、活き活きと暮らせる。辛いったって、食うモノも食わずに新田耕して分家するよりは千倍マシだ・・・・・・貧しさゆえに何百年も続いた日本の家長制度が、戦後の異様な宅地化の波の背景として横たわってたのは間違いない。

 そんなこんなで戦後80年近く、そらゴルフ場や高速道路、地方進出した工場なんかもあるだろうけど、風景を最も蝕んだモノって実は宅地造成なのではないかとおれは思う。

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 話は変わって、近頃しきりに「限界ニュータウン」なんてことが言われる。限界集落は山奥とかにあるんだけど、同じような超高齢化と過疎化、そして荒廃がニュータウンに押し寄せつつあり、特にバブル末期に開発されたニュータウンなんかはエラい苦境に陥ってるのだという。

 有名な例だと関東では山梨県の上野原にある「コモアしおつ」、埼玉の「鳩山ニュータウン」等を筆頭に、三浦半島一帯とか千葉の外房方面の最早名前さえもないような分譲地まで、関西だと箕面っちゅうか能勢っちゅうか「絶望ヶ丘」、こと「北大阪ネオポリス・希望ヶ丘」から、さらに奥地な(!、笑)「茨木台」やらなんやら北摂、また宝塚方面に多数存在する。南海高野線の紀見峠越えた向こうや、関西線の笠置のさらに奥とかにもある。いやホンマ、枚挙にいとまがないほどに。
 中には造成はされたものの結局、宅地としては全く売れないまま今では太陽光発電のパネルがビッシリ並んでたり、碁盤目の生活道路までもが万年藪に埋もれちゃったようなトコまであるが、これらは人が住まなかっただけまだマシと言えるだろう。悲惨なのは、頭金ロクすっぽ入れないまますんげぇ長期ローン組んで夢のマイホームっちゅうて引っ越したは良いが、とんでもないロケーションにあって何もかもが不便だわ、いつまで経っても区画が売れず空地だらけの虫食い状態で、だからって売って住み替えようにも資産価値はダダ下がりなだけでなくそもそも買い手が全然付かないわ、その後のバブル崩壊で給料下がるわリストラされるわで、進退窮まったままそこで齢喰っちゃったようなケースだろう。

 アータ、茨木台なんて標高が500m(!?)で、名前こそ茨木だけど実際は京都の亀岡市にあって(笑)、駅に出るのにバスで50分掛かるっちゅうんだからもぉタイヘン。500mって毎日登山やん。マタギとか山窩、山伏ぢゃあるまいし何やねん!?と。とうの昔に町の徒歩圏内にあった商店はなくなり、元から学校も病院もない。どだい、ここって元は別荘地として開発されたんをムリクリ住宅地として売り出したってんだからタチが悪い。ほぼ詐欺やな。
 おれの仕事関係の知り合いにもいた。「夜、波の音が聞こえるんですよ〜」って、訊いたらこれが大網白里の海の方!(笑)。通勤しようにもバスがロクに走ってないからクルマで駅まで来なくちゃなんない。「駐車場代掛かんないから良いんですけどね」・・・・・・って、そぉゆう問題ちゃうやろぉが!?(笑)。鳩山ニュータウンから通ってるのも実際、いたりした。

 バブルが崩壊し、地価がそれでも落ち着き、都心回帰の流れもあってこうしたニュータウンが軒並み限界集落化してるってワケだ。おれんちはまだ都心部に近く、そこまで凄まじい状況に陥ってはないものの、それでも似たような波は押し寄せており、戸建ての広がる一帯で空家がポツポツと目立つようになって来てるのは以前書いた通りだ。

 目下、都内のタワマンに人気が集中してるのは今さらおれが言うまでもなかろう。そいでもって明らかにしょうむないのでも6千万とか、悪い冗談のような値段にまで上昇してる。そして今は賑やかだ・・・・・・今は。

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 そろそろ結論に移ろう。

 いやいや、GSIの空中写真を見てるうちに、諸問題が激越、かつ急速に顕在化したのがこの所謂「限界ニュータウン」だったってだけなのではないか?って、おれは思ったのだった。
 60年代以降に造成された日本中のすべての住宅地が、ワリと近い将来に等しく限界集落化してくのではないか?って気がする。きっとそのうち「限界タワマン」あるいは「九龍城砦の再来」なんてのまで現れるだろう。すでに大昔に建てられた中小マンションがそうなりかけてる事例はいくらでもあるし。60年代末から70年代半ばに開発された公団の巨大団地がゴッソリ限界化してるのもすでに珍しくはない。また一方では、田園調布や成城学園、近畿圏で言えば芦屋や六甲といった高級住宅地でさえも現在、急速に空家が増えつつあるって事実もある・・・・・・まぁこちらは分割相続が思うようにできないとか、そもそも相続で揉めて宙に浮いてるとかが多いみたいだけどさ。

 ネットのゴミ広告にリビン・テクノロジーズってトコの「『もうすぐ**はヤバい』家を売る人続出」ってのが良く出て来る。「**」にはプロバイダの接続ポイントの位置情報から自分ちの近くの地名が示されるって仕掛けだ。実に卑しく下衆なコピーではあるんだけど、日本中のあらゆるポイントが何となくそれなりに当てハマって読めるっちゅうのは、アイロニーに満ちた正解なんだろう。

 おらぁ別に農本主義なワケぢゃないけど、こうした状況を見てると、かつてたしかに存在した、土地の自然が持っていた緩やかで密やかだけど着実で無窮の再生産サイクルを、いつかはマイホーム、いつかは一国一城の主の掛け声の下、ナサケ容赦なく断ち切って来たツケが回って来てるように思えてならない。


北摂地区の限界ニュータウンの位置関係。
左下の北大阪ネオポリスはまだマシで、他がどれほど凄まじく辺鄙な場所にあるか良く分かる。


2022.07.02

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