「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
家買うオヤヂ・・・・・・或いは石に導かれて


実際の写真は遠慮しときます。これは日本庭園の例。

https://niwatrip.jp/より

 空家になってた大阪の実家が案外早く、また予想よりもホンの僅かとは申せ高く売れたんで、ソッコーで次の家を買ってしまった。捨てる神あれば拾う神あり、っちゅうこっちゃね・・・・・・って何のこっちゃ!?

 もちろん、買ってそれでそのまま空家にしておく気なんてサラサラない。近いうちに今のこの東京の住まいも処分して、引っ越す予定だ。しかしその前にリフォームぢゃなんぢゃって色々必要だろうし、まぁ実際に動くのはもう少し先になる。そもそもまだ売る方も買う方も手付け打って仮契約だけしたって段階で、正式な決済は完了してない。これにも応分の時間が掛かるだろうから、手を入れるのはさらにその後になる。アッちゅう間に半年やそこら掛かってしまうに違いない。

 こぉ書くと当然ながら、「食い扶持はどぉすんねん?」っちゅう疑問を浮かべられる方が殆どだろう。なるほどウナるほど資産があるならともかく、おれにさして持ち合わせがないのは残念ながらどぉしようもない事実なんだしねぇ。頼みの綱の退職金だって大して出ないのはもぉ分かってる。だからもちろん何らかの形で最低限食い繋いでくことは考えなくちゃならないが、こりゃもぉどうにか頑張るしかない。そんなことは百も承知なんだし、どだいおらぁ勝機の無いコトはしない。ダイジョーブっすよ。いや、経済的安定「だけ」を求めるんなら現状維持、このまま唯々諾々ツユだくだく、他のあらゆることをスリ減らしてストレス溜めながら、倦んだ眼差しで朝夕の電車に揺られる今のリーマン生活をジジィになっても続けてりゃエエのである。

 マンション暮らしも冷静に考えればそれはそれで悪くはないし、今住むトコは利便性っちゅう点ではたいへん優れてるものの、どしたってかなりのランニングコストが掛かる問題がある。まず第一に共益費、その次に外部で借りるよりは随分安いとは申せ駐車場代、そして三番目、これがいっちゃんコワい存在の修繕費積立・・・・・・どこのマンションだって事情は同じだろうけど、これらが三点セットでローンの返済にオンされてる。気になってこれまでヨメに任せっきりだったのを先日改めて調べてみたら、年間で相当の金額が発生してることが判明したのだった。
 オマケにリスクだってある。ローンは20年近く前の購入の際、勝負掛けて変動金利にしたモンだから、今後の長期金利上昇でエラいコトになるかも知れないのである・・・・・・まぁ、逆に言えば空前の低金利時代が続いたオカゲでここまで殆ど無金利に近い状態でやって来れたんだけどさ(笑)。さらにはまだそこまでうちのマンションでは顕在化してないものの、駐車場問題ってのが今後発生するかも知れない。いや、するだろう。高齢化が進み、自動車に乗る人が減って、首都圏特有の立体駐車場の維持や建て替えがままならなくなるっちゅう問題だ。都市型マンションの時限爆弾とも言われてる。さらに設計が古くて横幅や高さに制約があるため、近年のクルマのサイズの大型化やSUV普及による車高アップが事態に拍車を掛けており、実際、15ピースパズルみたいなラックのあちこちが少しづつ歯抜けになって来てたりする。
 ともあれ、ここにさらに固定資産税やら自治会費なんかが乗っかって来るっちゅう寸法だ。さらにコスト関係ないけどスラム化の問題だってある・・・・・・って、これをあんまし詳細に書くとサベツっぽくなるんで止めとくが、最初は新築で分乗の集合住宅が年経て転売が繰り返されて安くなると、住人がだんだん低所得層に入れ替わってってどこでも起きる問題だ。実際、常識無くて怪しい人が少し増えてんだわ、マジで。

 ・・・・・・何だかアホらしくなってしまうよね?そんなんなら以前書いたみたいに、住みたいトコの住みたい家に移った方が余程精神衛生上宜しい。古い村なら近所付き合いって問題はあるだろうけど、空気も水も美味いだろうから、肉体の健康上にだって良いだろう。そしてトータルでは安上がりだ。

 ・・・・・・しばらく前からグダグダ言及してたことではあるが、いよいよハラは決まった。まぁ、半ば暴挙とも言えるだろうが。

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 まったく現地見ないまま購入するってのも如何なモノかと先日、遠路はるばる内見っちゅうのに出掛けてった。思えば、今のこのマンションもあんましチャンと見ないまま買っちゃったんだったっけ。おらぁどうも小さなモノはあぁでもないこぉでもないとウジウジ呻吟してキメるのに、大きいのはスポーンと勢いでGo!なんだよな。

 バカ高い東京やその周辺とは比べ物にならんのは言うまでもないが、さらには地域相場からしてもビックリするほどに安く買えた。具体的な場所と金額は言わない。ともあれ実家の売却費用で今後のリフォーム代まで賄えそうだったりする。悪く言えば右から左、良く言えばチャラってコトだ。いやいや、別に事故物件だったからとかぢゃないよ(笑)。
 そのワケは、敷地面積のワリに建屋が小さくて庭が広く、そこにそこそこの数の庭石があってどうにもならんかったからだ・・・・・・って、将来的に土地を転がそうとかそんなさもしい了見なんてないない。ただおらぁ庭が広けりゃ畑を敷地内でやれて、自分たちの食う分くらい賄えて良いかな?って思ってたモンだから、そのアテがちょっとばかし外れてしまったんが少し残念なだけだ。

 内見の当日、不動産屋の関係のリフォーム業者もザックリした費用感を見極めるために同行してくれてた。

 ------家の方は古いワリに傷んでる箇所はないですねぇ。金掛けてかなりシッカリ作ってあります。
 ------そうですか!それはありがたい!助かります。あんましリフォームに掛けられる予算ないんでホッとしました。
 ------内装は水回り以外はまぁ好き好きでしょう。この雰囲気がお好きならこのままで行けます。天井板とかすごい良いです。
 ------あ!それはOKっす・・・・・・んなら、このまま行けそうっすね。
 ------床下とかすごくシッカリ作ってありましたね。瓦も状態良いです。でも、庭がねぇ〜・・・・・・。
 ------ん!?
 ------畑にしたいって言われてましたけど、この庭石、撤去するとなるとものすごく掛かります。
 ------えっっ!?・・・・・・。
 ------う〜ん、取り敢えず小さいのはまぁどうにでもなるんですけど、大きいのがねぇ。
 ------そんなに掛かるんですか!?
 ------はい。この大きいのだと5トンはありそうなんで重機が必要です。でも、前の道にそんなデカいクレーン入れませんし。
 ------5トン!?ダイナマイトで爆破とか?・・・・・・
 ------ハハハ、そんなの近所に迷惑掛かってムリですわ(笑)。それにこの家がまずブッ壊れます。
 ------そら困る!・・・・・・まぁそうでしょうね。ぢゃ、削岩機でドガガガ〜ッとか?
 ------大して割れません。時間ばっかし掛かりますし、とにかくうるさい。
 ------う〜ん・・・・・・(絶句)。でも元々はどっかから持って来てここに据えたんですよね!?
 ------多分、この家建てた時は周囲に建物まだ無くて、隣が空地でそっから入れたんかな?と。道からはかなり難しいです。
 ------費用はどれくらいなカンジですか?
 ------う〜ん、精査しないと分からないですけど、最低でも1千万は見ておかないと・・・・・・
 ------(声が裏返って)い、いっしぇんまん〜〜っ!?無理!無理!ずぇったいムリっす!どぉすりゃエエんっすかぁ!?
 ------私としては木だけ手入れして、石はもうこのままにしとくのをお勧めします。それにこの庭もすごく金掛かってます。
 ------そ、そらまぁ、それは素人目で見ても何となく分かりますけど・・・・・・。
 ------きょう日これだけの石組みで日本庭園作ろうと思ったら、1千万円ぢゃ利きませんよ。良い庭です。
 ------いや、でも・・・・・・自分にはそんなん「猫に小判」ですわ。身の丈に余るし、畑にしたかったんだけどなぁ〜・・・・・・。
 ------これツブしたら勿体ないです。それにこの部分畑にしたって、隣あるから陽当たり悪いですよ。

 ・・・・・・トホホホホ。地域相場より随分安かったのにはそんなワケがあったのだ。要はディベロッパーが買い取って、更地にして小さな建売何軒とかの小分けにして売り出そうにも、石の撤去費用考えたらペイ出来ん、と。それだけの話である。世の中はどこまでも経済原則で回ってるんだなぁ〜、と改めて思い知らされた気がした。

 もちろんニブチンのおれだって、かつては功成り名を遂げた人の家のシンボルであった庭石ってモンが、今や邪魔なだけでまったく不人気で、無用の長物と化してるっちゅうコトくらいは知ってたけれど、そんなにまでベラボウに撤去費用が掛かるものだとまでは知らなんだ。ホンマおらぁバカだ。改めて訊いてみたところ、何でも石の処分費自体もキロなんぼでそこそこ掛かりはするものの、圧倒的にそれ以上なのが人足や重機のチャーター費用なんだそうな。それも周囲に家ができて作業動線に制約がある現在、石の搬出にはひょっとしたら塀まで壊さんとダメかも?とまで言われて、おれは完全に観念したのだった。

 ほたら石と一緒に暮らしたらエエんやんか。それでなくても巨石とか磐座におらぁ惹かれてんだしさ。毒食わば皿まで、家買わば石まで、っちゅうこっちゃね・・・・・・ハハ、こぉゆうのを自棄と呼ぶ。

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 実際、日本庭園に於ける組石のルーツが磐座や磐境にあるのではないか?って一部で言われてるのは事実だ。

 ただ、個人的にこの説についてはかなり疑問に思ってたりする・・・・・・っちゅうのも、「ハレ」と「ケ」を峻別してたかつての日本で、「ケ」の際たるものである日常生活の空間に、そうした大掛かりな祭祀的要素を安易に持ち込むことはどうにも噛み合わないって思うのだ(※)。庭にヘリポートあるいは野外音楽堂を拵えるくらい無茶なのである。やはり日本庭園は、中国の庭園の日本的解釈とアレンジ以上のモノではないようにおれは思う。
 ほんなんゆうたかてオマエ、旧家の庭の片隅にお稲荷さん祀ってあったりするやんか、って言われる方もいらっしゃるだろう。しかしありゃぁ江戸時代に伏見稲荷が大々的に通信販売したからであって、古代神道のアニミズムとは全く関係ない。ついでに言うと、神棚や仏壇も江戸時代以降に広まったものばかりだ。

 最も古い造園に関するマニュアル本として、平安時代に出来た「作庭記」ってのが有名なんだけど、これ読んでもあんまし古代神道のアニミズムの香りはしない。そもそも「三尊形式」とかゆうとるけど、そんなんホトケほっとけゴミヤさんな仏教伝来以降のハナシやんか(笑)。方位がどうとか玄武・青龍・朱雀・白虎の四神がこぉとかはいっぱい出て来るんで、これはやはり中国の風水や気学その他の占術の影響なんかの方が圧倒的に強いように思える。家相なんかもそうだよね。
 一方で、まったくシカトされてるのかっちゅうたらそこまでではなく、寝てた石を起こしたりその逆をやると石が妖怪化する、なんてあるから、石に神が宿る考え方自体は当時からあったのは間違いなかろう・・・・・・否、だからこそ特定の神を自宅内に下ろすことは厳しく戒めててるようにおれには読める。要は庭石に不用意に神性を与えることは、むしろ努めて避けてる印象だ。
 もちろん、あらゆるものに神が宿るっちゅうのがアニミズムの基本だから、古来、家の中の各所にもそれぞれイチイチ手を合わせるくらいはしてた。竈、井戸、厠、門口、柱、囲炉裏なんかが重要ポイントとして挙げられる。注連縄飾ったり御幣刺したりすることもある。でもそうした「ちょっとした神さん」はもぉ元々どうしたっていてはるモンだから仕方ないとして、他所からの良くも悪くも強大なパワーを持った得体の知れない神さんを敷地内に不用意に召喚する設備を置くようなことは厳しく避けてたのではなかろうか。作庭記を読むと、そんな気がして来る・・・・・・あ!この書物、多くの非科学的迷信に混じってけっこう合理的なことも書いてたりするんで、一読の価値はあると思います。

 まぁ要するに、デカい庭石あるからって安易に磐座なんかに仕立てて祀っちゃダメなのである。ヘンなんを呼び込みかねない。磐座を作るのは止めとこう。

 ・・・・・・とは申せ、逆に言えばこうして簡単に動かせない庭石がいくつも鎮座してたおかげで、おれ程度の貧しくも乏しい財力で分不相応なまでに立派な家が買えた、っちゅうのは厳然たる事実だったりする。たしかに余計な広さの分、固定資産税は若干余分に掛かってしまうけど、それでも冒頭に書いた通り今のまま首都圏っちゅう異常な・・・・・・どころか最早狂ったとしか言えないエリアで暮らし続けるランニングコストからすりゃぁ微々たるモンだ。それに庭に空いてるスペースはまだまだかなりある。自分たちで食うくらいの野菜は何とかなるだろう。やはりこりゃぁ御神酒の一つでもあげて石に感謝せねばなるまい。いやいや、それよりまずは深く謝らねばならないだろう・・・・・・ダイナマイトで爆破とか削岩機で粉砕とか失礼極まりないコトゆうてホンマに申し訳ありませんでした。大切にいたしますんで、何卒どうかよろしくお願い申し上げます、って。



※註:三重県・亀山市界隈には「鎮守さん・地神・庭の神」等と呼ぶ屋敷神信仰があり、敷地内にちょっとした石を祀る風習があるらしい。

2022.06.11

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