「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
小さな奇蹟・実家編


これが件のドレッサー。おれの身長よりも高い(笑)。

 この10年くらい、大阪に戻る時はレンタカーを借りることにしてる。色んな行政手続きだのなんだの、限られた時間内でチャッチャと片付けねばならない用事が多くって、クルマがどうしても必要なのだ。ホント、行政のネットへの対応の遅さはイライラする。どんどんIT化進めて合理化して、仕事しない公務員半分に減らせ、っちゅうねん。

 いつも新大阪で新幹線降りるとすぐに、駅の近所のレンタカー屋に予約しておいたクルマを取りに行く。移動できりゃそれで十分なんで、そんな大した車種には乗らない。ヴィッツ(・・・・・・今はヤリスっちゅうたっけ?)・フィット・スィフトのどれかばっかしだ。確率的にはやはりトヨタがいっちゃん多いけど、当たって嬉しいのはスィフトだろう。ホント、ちょっと車内が狭いのが難点のど飴なだけで、足回りやハンドリングがワンランク上の印象なのだ。フィットもかなり良いんだけど、操舵やエンジンレスポンスのスポーティーさまで兼ね備えてる点ではスィフトがさらに一枚上手だと思う。

 それはともかく、先日戻る際に予約入れようとしたらコロナの影響なのか、メニュー画面の中に「車種おまかせ」ってこれまで見たことのないコースがあって、上のリッターカークラスよりさらに安い。とにかくおらぁ走りゃあ何でもいいんで、何も考えずそれにしてみたのだった。しっかし、コロナやブルーバードの銀色の古いセダン、あるいは小さすぎるSmartの二人乗りとかだったらどうしよう?(笑)。一抹の不安を残したまま改札を出る。

 ・・・・・・「これです」と案内された車は、デカッッ!!何と、現行モデルのホンダ・ステップワゴンだった。

 「わくわくゲート」っちゅうて2通りの開け方のできる不思議なバックドアも付いてるアレ。イマイチ使い道に困るのと事故った時の修理費が異様に高くて、次のモデルでは廃止になると言われるギミックだ。
 まるで真四角なハコのボディは見切りが良すぎるくらいなのと、広大な車内にも関わらず5ナンバーのオカゲで、大きさのワリに取り回しがメチャクチャ楽だ。エンジンも意外に力強い。1.5リッター+低圧ターボって、2リッターのNAより実用域が太いわ。ホンダって初代ステップワゴンやS−MXあたりから徒に馬力追わなくなって、低速でのトルク重視なエンジンが増えたんだけど、その流れな特性みたいだ。バイクで言うならレーサーレプリカから、アメリカンになったカンジだな。ギャンギャン回して面白いエンジンではないし、そんなに回らない。少しVTECが懐かしい気持ちになったが、もぉそんな時代ぢゃないんだろう。

 今日の用事のために、関西に暮らす上の子にもムリ言って動員掛けてるんで、待ち合わせ場所で拾って実家に向かう。いや、本人から借りれるんなら借りてますよ。しかし街に暮らす今時の若者らしく、クルマなんて所有しない主義・・・・・・っちゅうかそもそも必要を感じてないらしいのだ。困ったモンだぜ、最近の若者は(笑)。

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 もう随分長くそのままにしてあった調度類をいよいよチャンと古道具屋に引き取ってもらう運びととなって、その見積をしてもらうのが今日なのだ。

 色んな伝手を頼って紹介してもらった古道具屋は、約束の時間キッチリにやって来た。まぁどぞどぞ、なんて家に上がってもらう。もうかなりな爺さんで、ニコニコしてるが目が全然笑ってないタイプ。ハハ、既に見立ては始まってるようだ。
 そうしておれは、本物のプロの仕事ぶりってのを垣間見させてもらったように思う。ホント、最早「至芸」と呼んで差し支えないくらいにそれは見事だった。舌を巻いた。
 プロは、そもそも「ナンチャラ鑑定団」みたいにいちいちジックリ手に取って見たりなんてしないのね。一瞥するだけである。そして恐ろしい精度でその氏素性と価値を当てて行くものなのだ。

 ------あ〜、持って行きたいモンあったら、段ボールに入れるか、大きいんはどっか一ヶ所に固めといてな。
 ------はい。ぢゃ、こっちはこっちでやらせてもらいます。
 ------ん?それ、持ってくん?
 ------ええ。
 ------かぁ〜、それ2万円で買うてもエエんやけどね。確実に売れるし。

 「それ」とは大昔、父親に梅小路の売店で買ってもらった古い琺瑯のサボ・・・・・・行先表示板である。

 ------そのサイドボードは中、全部OKです・・・・・・あ!いや、その瀬戸物の重箱だけは持って行きます。
 ------それ、大正の初めくらいのや。100年ちょっと経ってる。7千円にしとくで。
 ------んん〜、これは値段やのうて、うちに大昔からあるんで記念ですわ。
 ------そぉかぁ〜・・・・・・それは大事なこっちゃ。あ、座敷に並べたぁる壺、あれ全部で1万円やで。切子も大したことない。
 ------分かってます。エミール・ガレ紛いとかどぉせそんなんでしょ?あらオカンが家具屋にノセられて買いまくったんです。
 ------ニーチャン、よぉ識ってるやん!それや。

 ちょっと褒められてしまった♪(笑)。続いて奥の物置代わりになってる部屋に入る。

 ------この部屋はみんな、父親が拾て来たガラクタばっかしですわ。値段付かん思いますけど。
 ------(ホント一瞬だけチラと見て)あの椅子もか?
 ------!?何で分かるんです!?あれだけは昔、何かスゴい高い椅子やてオヤジゆうてました。
 ------(上に積まれてた座布団の山を除けて)うわぁ〜、こりゃアカンがな!座面の籐が破れて抜けてもとる!
 ------そうなんですよ・・・・・・。
 ------これ、破れてなかったらゴッツいで。
 ------ホンマですか!?
 ------修理費は掛かるけどな。これは売れるわ。

 ・・・・・・正直、少し怖くなった。これが鑑識眼ってヤツなのか、と。だっても明後日も、その椅子は座布団やら襤褸に半ば埋もれて、全体がマトモに見えてなかったのだから。
 続いては二階。天袋の上にあったHOゲージの鉄道模型はジャンクにも拘らず、驚くべきことに1万5千円。カビ生えまくりでゴロンゴロンになった古いカメラやレンズ類は締めて5万円、とこの辺がいっちゃん高かったかな?カメラ類は専門業者で分解してカビ取りやらのレストアが必要で、それに相当なコストが掛かってしまう。もし、防湿庫でチャンと保管されてたらもっともっと高くで買ぉたってたのに!勿体ない!・・・・・・との御託宣だった。

 俗に「捨て目が利く」ことが古道具や古美術を扱う者には絶対必要な能力だと言われる。チラッとみただけである程度の価値を見抜いたり、真贋の判定ができないと商売にならんらしい。手に取ってひねくり回しながら呻吟するようなんではプロになれない。その点でこの爺さんは本物のプロだった。やってることと言えば、フワ〜ッと歩き回って、たまに白紙のノートにメモるだけなのである。
 最近、ロクに知識のない連中がメルカリやらジモティ、ヤフオク等を舞台に、知ったかなセリフ並べて一端の背取り師を気取ったりしてるのを見掛けるが、あんなモンはほぼ児戯に等しいってコトを思い知らされたように思う。

 大きめの段ボール一箱分の小物と、ムリヤリ段ボールに押し込んだ小さな薬棚が2つ、母親がヨメにいずれ上げるわ、って約束してたとかいう巨大なドレッサー、あとは螺鈿の座卓と古風な違い棚はいずれそんな和室に住みたいおれのシュミ、ってコトで残すことにした。爺さん曰く、家具はよほどの銘品でない限り、引き取りの手間考えたら二束三文らしい。ほ〜ら、やっぱし!思ってた通りやったわいな。
 そんなこんなで撤去費用と買取価格の差分は、若干の黒字になったのだった・・・・・・って、東京からの足代やら何やら考えたら赤字だけどね。

 見積もりは完了し、こうした業界の人特有の現金主義で、分厚い財布から差額分の万札をおれに渡しながら爺さんはニヤッと笑って、「ニーチャン、なかなかエエのん取っといたやん♪」とリップサービスかホンネか良く分からないセリフを吐いて去ってったのだった。

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 2つの段ボールは近所のコンビニから、当然ながら楽勝で送れた。強いて言うなら「ワレモノ注意」にしてもらったくらいだ。

 しかし家具が難物である。とにかく東京の自宅まで送らなくちゃいけない。クロネコヤマトに電話して訊いてみると、引取りは今日の今日ではムリで、翌日以降を予約しても訪問時間までは約束できんなどとヌかしよる。佐川急便も似たような返事でオマケにベラボウに料金が高い。ちょっとした引っ越しくらいの金額を告げられてしまった。
 でも、よくよく考えずとも何の偶然か今日はレンタカーが大きいのである。ほたら持ち込みやったらどないややねん?ってもっかい電話。ところがこれもナカナカうんと言わない。どうやら破損によるクレーム等を警戒してる感じがある。そうして渋るのを切々と事情を話して粘ったら、上席と思われる人が電話口に出て来て、何とか引き受けてくれることになったのだった・・・・・・何でもダメ元で頼んでみるモンだな(笑)。この辺の交渉は専ら息子がやったのだが、いつの間にか上手く言いくるめる術を身に着けてやがる。ちょっと見直した。

 ・・・・・・あまりムダに引っ張っても仕方なかろう。

 夕暮れ迫る中、3つの家具は、シートを倒したステップワゴンの後席に、まるであらかじめ測ってたかのようにピッタリと収まったのだった。オカンとヨメとの約束っちゅう、鏡がおれの背よりも高いドレッサーはどうやらオークの無垢材みたいで、その重さはホンマに凄まじく、マジでギックリ腰になるかと思った。あとの二つもまぁそれなりに重かったっけかな?
 ひどく苦労したとは申せ、ともあれこれより大きいと入らなかったろうし、小さいとどれだけパッキン代わりに段ボールをそれぞれの間に挟んでも、揺れて擦れて傷だらけになってたろう。本当にいささか薄気味が悪いほどに3つでピッタリだった・・・・・・話は少しも盛ってない。全てホントだ。

 これまで何度か書いた通り、おれにはシンクロニシティっちゅうか、奇妙な偶然みたいなことがしばしば起こる。これまで何十回も帰省してはレンタカー借りてたけど、こんなワンボックスがあてがわれるなんて初めてのことだったし、それが調度類の処分の日だったってのもただの偶然、そして手許に残すのが車内にピッタリ収まるなんてのも別段、意図して狙ってたワケでも測ったワケでもない。マジでたまたま、っちゅうヤツだ・・・・・・いや、そうしておれに何かしらの超能力があると言いたいワケでもない。大体起こることはそんな些細なしょうもないことばかりで、それで贅沢が出来たとかそんなのは残念ながら一切ないんだし、ドヤ顔するだけ野暮ってモンだろう。ただただもう起きちゃうのだ。

 おらぁ別に敬虔な仏教徒ではない・・・・・・どころかほぼ無宗教に近かったりするんで、エラそうに語るのは憚られてしまうけど、仏教の世界では「縁」とか「因果」あるいは「巡り合わせ」みたいな考え方が強い。「アカシック・レコード」なんてのもかなり似てるかも知れない。森羅万象のすべては「定め」によって、ある種の必然性を持って動いてる、みたいな考え方だ。今回のエピソードがそれに合致するモノかどうかはちょとばかし微妙なトコだが、まぁそれほど遠くもないだろう。

 そんなこんなで手許に残した家具やら什器類は、さして広くもないマンションの一角を占拠し、取って付けた感丸出しのアンバランスさでそれなりに収まってる。いつか相応しい空間に鎮座する日もあるだろう・・・・・・オトン・オカンよ、全部はムリやて。これだけでまぁ勘弁してぇな。大事にするからさ。

2022.02.04

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