「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
家売るオヤヂ


これはホンマごく一部分。調度まみれで息が詰まりそうだったなぁ・・・・・・。

 「子孫に美田を残さず」とは、まっことよく言ったモンだとほとほと思い知らされる今日この頃である。

 兄弟がいなかったのは、こんな時に不毛な諍いにならなくて助かったんだけれども、その分しかし、残されたあれやこれやのモノのあれこれがそっくりそのままおれの手に委ねられてしまった。

 ・・・・・・って、腕時計はそんなにジャマにはならない。バブル期に恐ろしい数が売れたと言われるジュビリーベゼル・金銀コンビでバーインデックスのロレックスのセンスにはいささか閉口させられてしまったが・・・・・・いっそテンポイントダイヤの埋め込まれたヤツの方がバッドテイストに振り切ってて良かったかも知れないな(笑)。でもまぁ、今やビンテージな手巻オメガはナカナカシブいんで、普段使いのルーティーンに入れてる。高級時計っちゃロレオメだった時代なんだろうなぁ〜、としみじみ思う。母親のクィーンセイコーはいつもお世話になってる時計屋でレストアしてやった。たまにヨメが着けてたりする。その他、クォーツのがいくつかあって、これらもそのうち手を入れても良いかも知れない。
 宝石類は二束三文であることがハッキリした。結局は「ナントカの涙」みたいな、名前が付くくらいの世界的・歴史的名石でもなければ、所詮はどんぐりの背比べで、資産価値としては殆ど変わりはしないのだ・・・・・・安値で買い叩かれる、っちゅう点に於いて。オマケにカットが今風ぢゃありませんね、でもカットし直すともっと小さくなってカラット数自体は減っちゃいますが、な〜んて言われる始末だ。ほたらどないせぇっちゅうねん!?

 書籍類にも往生させられた。6つの本棚にギッシリ並んだ本は大半が新書とか文庫とかナンチャラブックスってなヤツばかりで、ほぼゴミ扱い。函入りの全集なんてぇのも、初版の美品かつよほどの稀覯本でもない限り、漬物石にもなってくれない。
 古いカメラのレンズ・・・・・・父親が防湿庫をケチってたせいで、ほぼどれも見事にカビ生えまくり。それにオールドレンズったってチヤホヤされてそれなりにプレミアな値が付くのはツアイスくらいなんですよ。どれだけニッコールレンズが優れてたっちゅうたかて、50mm/F1.8なんて掃いて捨てるほどタマ数出回ってんだし、便利ズームなんて今や性能2倍くらいになってんだし、それにもうFマウント自体が「ジジ臭いニコン」の象徴みたいになってんだし・・・・・・。

 そいでもって瀬戸物やガラスの類。コーヒーカップなんて毎日とっかえひっかえしても全部使うのにしばらくかかりそうなくらい、ある。カフェでも開きたかったのか?とイヤミの一つも出てしまう。ウェッジウッドやマイセンも中にはあるみたいだけど、もぉウンザリしてサイドボード自体開けたことないから分からない。皿も多い。ソーサー・ディッシュ・プレート、なんでもありまっせ。番町皿屋敷のお菊さんに好きなだけ持ってって、と言いたいくらいだ。数えるんタイヘンやけど知らんで(笑)。
 切子のグラスも多い。大言壮語っちゅうか、それこそが正に双極性障碍の症状の一つだったのかも知れないけど、母親はよくこの切子については「国宝や〜!」なんて言ってた。あとは壺とか花瓶、だな。細い一輪挿しに始まりそこそこの大きさの花活け、ただもう飾るためのモノまで、陶製・ガラス製合わせると50個くらいある。1%のキックバックで良いから統一教会が霊感商法で売りさばいてくれんかな?と真剣に思ってしまった(笑)。

 次は家具だ。まぁそこまで余分なモノはないと思うけど、そもそも老夫婦二人で暮らすのにそんなにあちこちに揃えて置きまくる必要があったんやろか?っちゅうくらい溢れ却ってる。
 食器棚、細かい寄せ木細工の埋め込まれたイタリア製って触れ込みの丸い食卓、その横にローチェストが2つ、背の高い整理棚、ワゴン、コーナーの家具、サイドボード、巨大なドレッサー、和風の飾り棚、コテコテしい薬棚が2つ、螺鈿細工の文机、机、座り机型のPCデスク、回転座椅子、炬燵、茶箪笥、整理箪笥が2つ、洋服箪笥、猫脚のソファー、それに合わせたロココな椅子が2つにテーブル、ベッド、ベッド脇のローボード、シャンデリア、上記の通り本棚が6つ、花台も4つか5つ・・・・・・ウガガガ〜ッ!

 たしかに大半はエラく高価なモノだったってコトが素人目にも分かる。見事な細工が施されてたり、紫檀の無垢材とかもぉギターの指板にしたいくらいだ。だって近所にあった家具屋の良いカモにされてたもん。あんましおだてに乗せられん方がエエでって何度も忠告したにもかかわらず、小金持ちになった彼等は聞く耳を持たなかった。それまでの人生で褒めそやされたりヨイショされることのなかった二人にとっては、心地良かったんだろうと思う。
 そらまぁ合板に薄い化粧板張って誤魔化したようなパチモンはたしかに、ない。それ故だからどれもメチャクチャ重い(笑)・・・・・・え!?これは末永く使える財産やで!大事にしぃ!ってか?
 でもさぁ、自分の趣味に合わない家具なんて欲しくもないやんか。大体その善意の押し売りっちゅうか贔屓の引き倒しに、おれは窒息して押し潰されそうになって、それで大学に入ると同時に家を離れたんだよ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・そうして最後に残る最大の器が家ってコトになる。これがまた厄介なんですわ〜。

 不動産屋に査定してもらったら、何を考えたか建屋だけはトーチカのように頑丈な作りになってるらしい。家の大きさからすると、エラく耐震性が高い。
 まぁ頑丈なコト自体はとても良いハナシなんだろうけど、実はデメリットも数多い。まずは壁柱構造になってて間取りの変更がほぼ不可能なんで、今後住む人のニーズに合わせた柔軟なリフォームが出来ない。建て替えようにも解体費がひじょうに高い。木造のおよそ3〜4倍掛かるらしい。何でもコンクリートの基礎だけで厚みが最低50cmはあるんだとか。マジでトーチカか銀行の金庫室やで。
 さらに経年劣化による雨漏りのリスクがある。単純に雨が下に垂れてく木造とは異なり、コンクリートは建物内部に出来た複雑なクラックの中を染み込んで行く。表面のヒビ割れと雨漏り箇所がエラく離れてることだってある・・・・・・っちゅうか、どこから漏ってるか良く分かんないことさえある。だから定期的な建物全体の外壁と屋上の防水メンテが必要になる。それをキチンとやれば、逆にものすごく耐久性があるのは間違いないんだが・・・・・・。
 場合によっては大昔に飯場に住み込んでやらせてもらったような、ハツリの防水工事が要るかも?とかコワいコトを言われてしまった。アレ、メチャクチャ金掛かる、っちゅうねん。

 ・・・・・・つまり、後々のランニングコストを殆ど考慮しないまま建てちゃってたワケだ。あらゆる耐久消費財には、イニシャルコストに対して応分のランニングコストが掛かるってコトを考慮してなかったんだろう。

 大体、耐火性以外では今の時代、シッカリ作った木造はそれほど悪くはない。プレハブだって大いに進化しており、その軽さゆえに耐震性に極めて優れてたりしもする。阪神の震災の後、セキスイのプレハブが激売れしたエピソードなんて有名だ。断熱性なんかも日進月歩で進化してるのだ・・・・・・ペケペケの安い建売は知らんけどね。
 おれの古い知り合いで、今は建築家になったのがいる。大学で教えてたりもするんでそれなりにチャンとしたヤツだと思う。そんな彼が昔、良く話してたのは、「日本の民家は紙と木と土で作るのが、気候風土からするといっちゃん理に適ってんだ」ってコトだった。そらもちろん問題もあるけど、「フツーに日常を暮らす」というコトを突き詰めてくと、快適性/耐久性/コスト/安全性のバランスが総合的に良いのは木造なんだ!って酔った時にしばしば力説してたモンだ。

 おれが「ほんなコトゆうたかて、やっぱし地震とかですぐ倒れるんちゃうん?」って茶々入れても、彼が言うにはシッカリした梁や筋交いさえ入れれば木造には驚異的な耐震性があるし、たしかに揺れはするもののそぉカンタンにツブれることはない。それにしなやかさがあるから、ある程度は揺れをいなして吸収できる免振性もあるんだ、とも言ってたな。たしかに法隆寺の五重塔は今でも立派に立ってるわな。
 そんな彼に言わせると、コンクリもプレハブも絶対ダメではないけども、日本で住居にするには完璧なエアコンが不可欠とのコトだった。調温と調湿に加えて通気を確実に確保し、定期的で大規模な補修をすればそりゃぁ木造より優れてる・・・・・・けど、現実的でないコストが掛かっちゃうんだよ。高く付く、ってコトさ。

 ・・・・・・彼の指摘はまことに宅建、もとい卓見だったワケだ。そこをケチって冷房のみ、それも部屋はいくつもあるのに1台だけ一階の狭い方の和室に付けただけで、何がそんなに心配なのか毎晩毎晩、ご丁寧に雨戸までシッカリ締め切ってちゃぁ、全然彼が言ってたのと真逆ではないか。そりゃ夏暑く冬寒かったワケだ。冬に一家で帰省して泊ると、おれ達の誰かは必ず風邪引いてた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 とは申せ、大いに満足して暮らしてた父母に対して、そのこと自体を貶める気もなければ文句を言う気はない。ただおらぁバッドテイストな家は真っ平御免だ、って言いたいだけだ・・・・・・コテコテにデコって飾り付けられたトーチカだよ、こんなの。言う相手ももぉいないんだけどさ。
 いやいやおれも俗物、これで調度類にものすごいプレミアがあるとか、地価高騰しまくってるとかっちゅうんなら、ちったぁ目の色変えてたろう。ところがどっこいギッチョンチョンって死語の世界やな(笑)、それがものの見事に、ない。笑っちゃうくらいに、ない。もちろんゼロではないけど、何ぢゃこりゃぁ!?なのである。

 ・・・・・・彼等の夢の後始末を息子のおれは背負わされた、それだけのことだ。まぁあまりに遅きに失した親孝行の一つと思うしかない。そう、思うしかないんだよな。だからキッチリやらせてもらいまっせ〜!

2021.12.15

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved