「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
仔猫譚(Z)


暑い日、ヒンヤリシートの上で滅多に見られないポーズで昼寝中。

 緩やかに変容しつつもネコの日々の生活は、極めて規則正しく続いている。「ネコは気まぐれ」なんて誰の流した妄言だ!?と問い質したいくらいに毎日のルーティーンはステディだ。

  4;45  起床。
  5:00  目覚ましと同時に鳴いてエサを要求。食後は洗面所で水を手の平から飲ませるよう要求。
  5:20  出掛けるおれを廊下側の窓から見送り。その後、家の中を隅々まで点検。
  6:30  出掛けるヨメを同様に見送り。そのまま就寝。
 10:00  帰宅したヨメと遊び、再び就寝。
 13:00  おやつを要求。食後の運動。天気が良いとベランダ側の窓の近くで日光浴。
 19:00  おれが帰宅。絨毯の上で転がって撫でることを要求。おれたちの食後は遊ぶことを要求。
 20:00  おれが風呂に入るのを観察。それ以外はソファーでヨメの横で休憩。
 20:30  自分の夕食を要求。
 22:00  家の中、外を念入りに点検。
 22:30  トイレを済ませて就寝。

 ・・・・・・ってなトコだろうか。見てて不安になるくらいに寝てばかりな一日ではあるな(笑)。

 休日は若干異なるし、ヨメが仕事やジムに出掛ける/出掛けないでもいくらか差はあるものの、ほぼ上記のようなパターンをひたすら来る日も来る日も繰り返している。飽きることを知らないっちゅうよりは、神経質で警戒心が強いから、なるだけ淡々としてるのが性分に合ってて、ストレスにならないんだろう。
 ネコは怠惰なのではなく、余分な刺激を好まないと言った方が正解なのかも知れない。

 「緩やかな変容」と書いたのは、専ら寝る場所の変化と、あとは食の好みや遊びの内容、興味の対象が少しづつ変わって行ってることくらいだ。
 寝る場所についてはどうやら、季節で室温や湿度が変わるのに細かく合わせているだけのようだ。寒い季節はリビングのソファーの毛布や窓際のキャットタワーの箱の中、春になると娘の部屋のベッド、暑くなってくるとおれの部屋のネコ用クッション、もっと暑くなってエアコンを昼間も入れるようになると再びソファー、あるいはキャットタワー中段の娘が買って来たメチャクチャ高かったっちゅうウールの籠の中、ってパターンが多い。ただ、押入の中なんて暑いだろうに夏の盛りに入ってるコトもある。とにかくネコなりに工夫して合理性と快適性を追求してるんだと思う。

 食の好みは、年経るごとに乾きモノを好むようになってること、偏食がむしろ強まってるコトなんかが挙げられる。健康のためにはグジュグジュしたエサの方が良いとお医者からは忠告されてるんで、ちょっと悩ましい問題ではある。チャオちゅ〜るなんかも以前はあんなに好きだったのに、近頃は気に入った味のしか食べない。実にワガママで贅沢なヤツだ。そんなんで不良在庫が増えてしまい、仕方なく散歩の時に見付けた猫に食わせたりなんかしてる。
 面白いのはヨーグルトで、「恵」は好きだけど、「ブルガリア」や「ビヒダス」は見向きもせず、「ダノン」は気が向いたらってカンジなコトだろう。どうやら酸味が強いのは苦手みたいだ。北海道民か!?(笑)。ただ、「恵」については急に食わなくなったり、すごく食べるようになることがあって、製造ロットでの微妙な味の違いがネコには気になるのかも知れない。
 ネコは甘味を感じることが出来ないと言われる。しかしながら、砂糖不使用のプレーン味はあまり好まず、また生クリームやカスタードクリーム、プリン等は舐めさせてくれって近寄って来るところからすると、若干は分かるのかも知れない。本来、人間の食べ物を与えるのが好ましくないことは重々承知してるけど、まぁたまにだし、それに茶匙に半分も食わしてないから大丈夫だろう。

 遊びは基本、転がる玉系には食い付いて来るが、リボンみたいなのはすぐに飽きちゃってるように思う。残念ながら智恵が付いた分、様々な事物への好奇心は薄れて来ており、今はよほど見たことのないモノでないと乗って来ない。いずれにせよ廃物利用が好きで、不思議なことに金出して買った玩具ほど遊ばない傾向がある。あくまで仮説だが、何らかの化学物質の匂いみたいなのを嗅ぎ取ってるんだろう。
 そうそう、風呂に入るのを観察するのは最近のマイブームになってる。早く風呂に入って見せろ、と急かされたりもしてる。おれが手で湯を飛ばすのが興味津々みたいなんだが、しかし水はやっぱし怖い。大嫌いだったりする。そんなんでドアの陰の絶対に飛沫が掛からないトコから黙って覗いてる。脚を揃えて妙に行儀よく、そして感情を消したようなやや虚ろな顔付きでひたすら凝視しているのだ。一体全体何なんだろう?

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 そんな規則正しい生活のリズムを乱す存在もまたほぼ決まってて、@電話、A玄関のピンポン、B廊下を通る人、C来客、D鳥、E虫、ってトコだろうか。

 電話については、鳴るだけで特にその後は何も起きないことを理解したようで、最近はあまり驚かなくなった。一方で玄関のピンポンについてはその後に来客があるってコトを学習してて、すぐに一目散に逃げる。大抵は郵便や宅配便で玄関まで入って来ないから、そこまで恐れることはないと思うのだが、とにかくおれとヨメと娘以外はダメみたいだ。上の子とも合わない。理由はカンタンで声がデカくて太く、ドスドス歩くからである。

 今では廊下を通る人については、同じ階の住民についてはある程度理解してるようで、網戸越しに黙って眺めている。声掛けられたら返事なんかもしてる。犬飼ってる家が抱っこして通ると、犬には自分から「ウニャッ」とか軽い挨拶をするのが面白い。犬の方もまんざら嫌いではないみたいで、尻尾振ってるんで、それなりに心を通わせる何かがあるんだろう。しかしご近所さんでない未知の人間が通ると飛んで来る。だからそれなりに番ネコになってくれてるワケだ。
 家に上がって来る部外者は恐怖の対象でしかないみたいで、特に電気やガス、水道の保守点検の人なんかが来ると大変で、押入れの奥に入って帰るまで息を潜めてたりする・・・・・・だけど、娘が友だち連れて来るのにはワリとすぐに順応したりして、それなりに相手をチャンと観察してるのかも知れない・・・・・・メスなんだけどな(笑)。

 鳥は恐るべき敵だったり襲うべき獲物だったりとややこしい。ネコに「弱きを助け強きを挫く」な〜んて義侠の精神はこれっぽっちもない(笑)。弱い者は即ち遅い、強い者からは逃げる、それだけだ。そんなんで特に天敵である烏には極めて敏感で、遠くでカァカァ鳴き声がしただけですぐにキャットタワーの箱の中に入って耳を立てて最高警戒モードになってるが、雀のような小さいのがベランダに来ると興奮してカッカッと短く鳴きながら明らかに襲うことを考えてる。微妙な立ち位置は鳩だろうか。昔にも書いたことがあるけど、繁殖期になると我が家のベランダには、つがいが巣作りにやって来たりするのだ。これが低くくぐもった声でボーボー鳴く。大きさ的には十分襲えるサイズなものの、低くて野太い声が嫌いだから、何とも言えないナサケない表情で見つめてたりするのがたまらなく可笑しい。
 虫はもうその点ではひたすら嬲り殺しの対象だろう。肉食獣としてのネコの酷薄さ(・・・・・・っちゅうかそぉゆう生き物なのだから仕方ないんだけど)が良く分かるが、一息にとどめを刺さずにちょっとづつちょっとづつ弱らせて行く。夏場、帰宅する途中でセミやらカナブンを拾って帰るともぉ狂喜乱舞、引っ掻いたり踏み付けたり、たまに弱り具合を確かめたりしながら、ジックリといたぶる様子は見ててやはりちょとコワい。

 思うに、ネコから見て虫は「単に動く物体」に過ぎないんだと思われる。そして動く小さな物体は動かなくなるようにしなくてはいけない、ってのがDNAにもぉ刻まれちゃってるワケだ。

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 ともあれこうして人間のおよそ4倍のペースで歳月は淡々と過ぎて行く。幸いなコトに「七歳の壁」と称される腎臓系の疾患は起きなかったみたいだ。油断は禁物とは申せ、ネコにしては比較的水飲む量が多いことがプラスに働いてるんだろう。しかし間もなく8歳だから、今後は少しづつ、しかし否応なしに老化は進んで行く・・・・・・何のこっちゃない、我が家のメンバー全員が老境に少しづつ足を踏み入れつつあるワケだ(笑)。


アンモナイトみたいになって眠る・・・・・・通常はこの姿勢。

2021.06.05

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