「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ドリップコーヒー/リポビタンD/ルイ・ヴィトン


実はケッコー好きです。オロナミンよりは効きそうで、アリナミンほどクセがなく、ユンケルよりマイルドで飲み飽きしない。

https://www.amazon.co.jp/より

 ペーパーフィルターでのドリップコーヒーがこんなに普及した国って日本くらいって、昔聞かされたことがある。元祖はドイツのメリタらしいが、あっちの方ではあくまで他のネルやらサイホンやらフレンチやら何やらといった淹れ方の簡便な代用品に過ぎなかった。
 このメリタのドリッパーをぶっちゃけほぼそのまま剽窃してちょこっとだけ改良したのがカリタである。名前までクリソツにしたトコが往年のギラギラして、パクリに何ら後ろめたさを感じてなかった日本のノリそのまんまだ。そんなまだまだパテントなんかがアバウトだった昭和30年代に、高度経済成長の波に乗るようにして日本各地の喫茶店に営業攻勢を掛けてシェアを伸ばしたのだった。

 とは申せ、当時の喫茶店でもペーパードリップは「ちょっと落ちる淹れ方」と思われていて、だからこそ看板に「自家焙煎・本格サイホン式」な〜んて謳われることがあったりもしたんだろう。おれだって学生になって、漏斗やフィルターペーパー一式買い込んだ時に、「いつかはサイホン欲しいな〜」って思ってたもん(笑)。形がややこしい分、美味いのが出るんだって思い込んでたもん・・・・・・いやお恥ずかしい。

 ところが実際はペーパードリップは美味いのである。紙臭さの問題はある(特に最近主流の無漂白パルプ使ったタイプはそのままだとかなり強く出る)とは申せ、熱湯を通すなりなんなりすれば殆ど分からなくなるし、一回一回交換するから衛生的だし、ロスも出にくい。それに何より抽出のバラ付きが少なく安定して淹れることが出来る。過去にTコーヒーの営業マンから教わった通りで、サイホンは成功率が低いし、そもそも淹れ方としてあまり理に適ってないし、ネルは維持管理がめんどくさいだけでなく、少量を淹れるのがむつかしかったりもする。かくして日本の喫茶店ではペーパードリップが主流になったんだそうな・・・・・・もちろんカリタの熱心な営業活動もあったんだろうけど。

 ・・・・・・スンマセン、ちょっとばかしピンボケで冗長なマクラでした。

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 「丁寧な暮らし」なんちゅう尻がこそばゆくなるような薄気味悪い言葉と一緒に語られることの多い、「サードウェーヴコーヒー」ってブームがある。日本ではこの5〜6年くらいだろうか、アメリカから上陸する形でやって来て、そぉゆうのに目がない拝欧丸出しの「丁寧なアホ」がいろんなメディアでヨイショしたりしてるんで、それでご存知の方も多いだろう。昨年だかにネスレに買収された「ブルーボトルコーヒー」が代表格だ。

 何とこの一党の特徴が自家焙煎・ペーパードリップなのである。それもそのハズ、元々が日本の喫茶店の、「自家焙煎に拘って、オーダー受けて一杯づつ淹れる」っちゅうスタイルの影響を受けて始めたからだ。違うとすれば使う道具がカリタではなく、おれも愛用のハリオってことくらいだろう。
 旅行で来たのか留学で来たのか知らないが、かつてはあちこちにあったシブい古典的な喫茶店にアテられて、帰国後に始めた商売がサードウェーヴコーヒーの始まりだ。それが日本円にして20数億の資本を持つ企業になったのである。「純喫茶」なんて名乗ってチマチマやってたような、日本のそんな店は今や絶滅しかかってるのにねぇ。

 似たようなエピソードは「ファイト一発!」のリポビタンDにもある。

 あれよあれよっちゅう間に世界での売上が1兆円を超え、F1チームのメインスポンサーともなったエナジードリンクの雄・「レッド・ブル」。オーストリアの会社がやってんだけど、あれってタイに元々あった「グラティンデーン」ってエナジードリンクを欧米人の味覚に改良して出したモンだったりする。そして元々のそれは何とリポビタンDのパチモンだったのだ。何でもレッド・ブルの創業者が日本に来て、「栄養ドリンク」なるものが大量に売られてるのを見て、こりゃぁ世界で商売になるんぢゃないかって思ったのが最初のキッカケらしい。だから味も成分も似てたりする。

 「つ〜ばさ〜をさずけ〜るぅ〜♪」とかレッドブルがアッちゅう間に世界中を席巻して我が世の春を謳歌する一方で、リポDはチオビタやアリナミン、リゲインにユンケルといった狭いマーケットで、正に蝸牛角上の争いを続けるばかり、未だドラッグストアの店頭に山積みになって10本980円とかでナゲやりにバッタ売りされる寂しい存在だ。製造元の大正製薬の売上は3千億弱である。これには他の看板商品であるパブロンやリアップなんかも当然含まれてるワケで、リポDだけなら微々たるモンと言えるだろう。この差は何やねん!?って誰だって思うよね。

 同様の図式が古くはルイ・ヴィトンの意匠にもあるっちゅうのは有名だから、ご存知の方も多いだろう。ありゃ明治の初めパリの万国博に出品された日本の行李のデザインから生まれたのである。こげ茶と金茶の市松模様は竹の網代模様から、LVマークのモノグラムを取り囲む意匠は日本の家紋を真似て作られたのだ・・・・・・まぁ、それを言い出せば同時期に浮世絵(特に北斎)の色数を絞った大胆な構図と平面的な技法が印象派に与えた影響(ジャポネスク)とかキリが無いんだろうけどさ。
 おれは特に欲しいとは思わないから一つも持ってないけど、ヨメも娘もキーホルダーやら長財布やらカバンやら持ってたりする。メチャクチャ高いなりに実はメーカーとしてはとても誠実で、どんなけ古くなっても修理とかレストアしてくれるし、そもそもがエラく頑丈に作ってあるんだそうな。

 いずれにせよ行李なんてモン、日本ではとっくの昔に絶滅し、今では伝統と格式を重んじる歌舞伎役者や相撲取りがせいぜい使うくらいのモンになっちゃってる。その一方でルイ・ヴィトンはコニャックのヘネシーと合併し、巨大コングロマリットとなって、年間売り上げは3兆円近くあったハズだ・・・・・・まぁ昨年来のコロナで足許の業績は厳しくはなってんだろうけど。あぁ、そぉいや大事にしてるエル・プリメロのゼニスもこのグループに買収されて久しいな。

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 これらの事実から何をトチ狂ったか、「日本人には先駆者としての才能がある」なんて世迷言をヌかす人もいるけれど、おれはこれまでの日本が抱えて来た問題が露呈してると思う。箇条書きにすると概ね次のような感じだろうか。酔っ払って書いてんで整理不足はゴメンナサイ。

   1.盲目的な拝欧と、それ故の既にある事柄への客観的評価の不足
   2.高付加価値ビジネスがヘタ・・・・・っちゅうか、それを良しとしない風潮
   3.物理的な「モノ」づくりへの依存とソフト/コンテンツビジネスの軽視
   4.「良い物を安く・大量に」への無批判・無反省な信仰
   5.改善主義で改革を嫌う風潮

 ・・・・・・ってね。

 まぁあんましペシミスティックになってもいけない。実のところこうした問題にしたって、国や社会全体で見ればあちこちで少しづつ薄れて来てるのは誠に喜ばしいことだと思う。
 例えばゲームの世界。「スーパーマリオ」や「バイオハザード」みたいに、狭いゲームの世界から飛び出してワールドワイドなコンテンツビジネスとして大きく成長したものもある。音楽なんかも今はもう完全に洋楽の呪縛から離れた世界が形成されてると思う。若い人たちに言わせりゃ、「洋楽!?はぁ!?知らんがな!今頃何を大層に騒いでんねん、オッサン」だろう。もっと古い例ではマンガだろうか。コミックやカートゥーンの影響を影響を遥か昔に脱している。アニメもだな・・・・・・最近ちょっと自家中毒に陥ってる気もするが。

 要はエンタメとかポップカルチャーといった領域では既にもぉかなりイケてたりするのだ・・・・・・だけど、誰もが蝶よ花よと浮かれて暮らしてるワケぢゃなし、ヤッパシ八ッ橋もちょっと衣食住に関係するトコで日本発の世界的なトレンドとかビジネスが生まれてくれないモンかねぇ〜、って思っちゃうのは、ナンボ愛国心に欠けるおれとは申せ、人情だろう。

 まぁ他人に期待する前に、もっと自分で再評価すべきカルチャーを探すのも悪くないかも知れない。おらぁ元々日本の中の忘れられたものを探すのは好きなんだし・・・・・・リポD飲んで元気になってさ。

2021.03.22

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