「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
粥占/菌叢/クレベリン・・・・・・新型コロナだより(3)


黴タイプの粥占の例(佐賀みやき町・千栗八幡宮の「お粥試し」)。

http://www.miyakikankou.jp/より

 「粥占」という古くから伝わる占いがある。

 例によって例の如くWikiによれば、面白いことにやり方には何種類かあって、主なのでは棒でお粥をかき回してくっ付いた米の数で占う方式、竹筒を沈めてお粥を炊いて筒の中に入った米粒を数える方式、そして炊きあがったお粥を放置して繁殖したカビの生え方で占う方式がある。専ら神社の専売特許みたいで、お寺で行ってるっちゅう例はひじょうに少ない。また、それぞれの方式の分布には地域差がかなりあるみたいで、竹筒方式は東日本、カビ方式は西日本、特に九州北部に集中してるんだそうな。また、使うお粥も白粥、小豆粥といろんなパターンがあるらしく、場所によっては栽培する作物の種を全部入れるようなケースもあるらしい。

 何か大きな災害が起きるたびに、今年の**神社の粥占では**大いに見ゆ、って出てたんで神託は見事に的中した!な〜んて記事が地方紙の三面を飾ったりするけど、これって実はあちこちの粥占結果データベースみたいなんを新聞社で拵えてあって、そっから逆引きで取材してるんぢゃないかとちょっと思う・・・・・・粥占をやってる全ての神社で同じ結果が出た、ってんなら疑い深いおれもさすがにちったぁ信用するけどね。

 ともあれ、今回おれが取り上げたいのはこの内、カビ生やしタイプだ。

 まぁ鏡餅だって何もせんで放っといたら、鏡開きの頃には黒・白・赤・黄・緑〜と大変カラフルななコトになってるワケで、それがもっと水分の多いお粥を放たくっときゃぁ、そら盛大にカビも生えるだろう。何でそんなんを占いの材料にしようと思い付いたのか?カビの生え方と世の中に起きる様々な事象との相関関係に、どこまで統計的有意性があるのかは分からんけど、どのようにして気付いたのか?何ともヘンテコリンな占術であることは間違いない。
 恐らくは、日本の発酵文化と、微生物が顕微鏡その他の科学の力で詳らかになる以前の、神の御業にも近いカビの不思議な作用への畏怖と畏敬の念なんかが深く繋がってるんだろうが、詳しいことは良く分からない。

 こうして生えるカビが一種類っちゅうことはまず滅多にない。大体がカラフルになる。それは空気中を漂ってるカビの種類が様々だからだ。そいでもって温度や湿度等の条件の違いでどれが沢山繁殖するかが決まる。ひょっとしたらおれたちには分からないだけで、実はミクロの世界ではカビ同士の熾烈な争いや駆け引き、共闘とかがあるのかも知れないが・・・・・・いずれにせよ微妙で脆弱なバランスの上にカビの世界は成り立ってるワケだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 世界は文字通り無数の、阿僧祇だの那由他といった途方もない数字の単位でもってしても表現できないくらいの数の細菌類に満ち溢れている。新型コロナの蔓延によってちょっと知られるようにはなったが、そもそもコイツ等は生物なのかどうかさえも怪しい。カビはまぁ概ね生物らしいんだが、ウィルスになるともぉかなり生物から遠い所にいるんだそうな(外部から栄養素を取り入れて消化する、ってことがない)。生物と非生物の中間くらいにいるとでも言えば良いのだろうか。

 実はこの歳になって初めて、そうした微生物が色々混じり合って混在する状態のことを「菌叢」って呼ぶコトを知った。「叢」とは「雑多に色んな草の生い茂った草むら」を表す。「少女の柔らかい叢をかき分けて・・・・・・」などと三文ポルノ小説の表現にあったりするけど、ありゃ間違ってるっちゅうこっちゃね。生えてるのは陰毛一種類なんだし(笑)。ちなみに「菌叢」はいささか古い言い方らしく、ウィルスやキノコ類なんかも地続きのカテゴリーになることから、最近は包括的に「微生物叢」っていうのが主流のようだ。

 ちょっと前まではこうした微生物研究ってのは、そんな中から単体の種を抽出・培養して調べるなんてやり方ばっかしだったんだけど、何せしょっちゅう変異するものだから、特定がものすごく面倒らしい。で、遺伝子研究が進むにつれて菌叢全体での作用とかに目が向くようになって来てるのだという。例えばA・B・C、三種類のカビがいてそれらがどれくらいの割合で繁殖するかによって、例えば発酵で言うなら風味やら香りに大きな違いが出て来るんだそうな。何だかカレーのスパイスの配合みたいなハナシではある。まぁそんな人間側の都合だけでなく、カビの方でも好いカンジの繁殖の割合みたいなんがどうやらあるらしいが・・・・・・まだまだこれらの研究は緒に付いたばかりで、分からないコトだらけみたいである。もし、不世出の天才数学者、A・チューリングが生きてたら、或いはそこに明快な数式に還元される何らかの法則性を見付けてたかもしれないが・・・・・・って、粥占のパターンまで数式にしかねんな、この男なら。

 人間はひじょうに身近な存在であるこうした微生物について、実はだから分かってるようで殆ど分かってない。ニワカに信じがたい話では、腸内細菌の状態がどうやら精神病の発症に深く関わっていそうだ、なんて研究さえ細菌では、もとい最近ではある。もちろんビフィズス菌だシロタ株だといった乳酸菌、あるいは逆のブドウ球菌やサルモネラ菌、ボツリヌス菌等の身体への影響については今更言わずもがなだろう。
 ただ、前段で「微妙なバランス」って述べた、そんなユルくて頼りない均衡の上にカビを含む菌だのウィルスだのといった様々な微生物の世界が成り立ってること、それはもう多分、間違いないと思われる。

 そんなんで、「菌叢」ってのにおれは何だかちょっと魅せられてしまったのだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 昨年の今頃、コロナが世界的に拡大し始めた時、世界の各地で薄青い防護服に身を包んだ一群が大きなスプレーガンで町中に消毒液を噴霧する映像が毎日のように流されていた。それに比べて日本の対応は甘いちゃらなんちゃら、自称専門家な人がヒステリックにコメントするコトもしばしばあったように記憶している。

 おれはやることなすことスカタン続きの日本政府にしては、バカみたいに消毒液を撒き散らさなかったのはかなり賢明な対応ではなかったかと思っている。ここまで述べたように世界は微生物に満ち満ちており、たまたま新型コロナって、実はそれほど大したことないウィルスが出て来たっちゅうだけで、あらゆる微生物を十把一からげに死滅させるような対応は、却って大きなバランスを崩し、より悪い結果を生みかねないと思ったからだ。
 それにそもそも論で、コロナなんてメチャクチャ弱くて、宿主の身体を出るとたちまちあの金平糖みたいな表面がハゲて、感染力を失ってしまうのだ(だからこそのソーシャルディスタンスなワケである)。紙の表面だと何時間生きてるとか、まことしやかな言説があろうことか大手のマトモな筈のメディアによってまで流布されもしたけど、生きるも死ぬも、表面ハゲたウィルスなんてただの剥き出しのRNAに過ぎない。そんなんで感染するとか、刺身食ったらマグロやらタイに変身する、って言ってるに等しいで。

 だから、この時とばかりに売り込み攻勢を掛けまくってる「クレベリン」なんてのも、ホンマとんでもない代物だと思う。そもそも効能として謳う空間除菌効果自体がかなり怪しいっちゃ怪しいんだけど、百歩譲ってマジで効くとして、それで子供のためにあんなものを家中に置いて手当たり次第の殺菌による無菌環境を生み出してしまったら、他の様々な菌への抵抗力がちっとも育たないではないか。そんなんメッチャ虚弱な大人になってまう、っちゅうねん。それに必要な菌だって中にはいる。それまで根こそぎ無くしてしまうと、目の前の日々の健康さえ保てない。
 実はアレ、大幸薬品が「正露丸」の一本足打法ではこの先経営が先細りする一方でヤバい、ってんで出された戦略製品なのだ。何年前だったっけかなぁ?しかしながらそこまでの大ブレイクには至らず、低空飛行のまま燻ってたトコに何たる天祐!で、コロナがやって来た・・・・・・それだけのことである。いや、大幸薬品には昔ちょっと仕事上の繋がりがあったりもしてディスりたくはないんだけど、ありゃぁ尤もらしい化学の皮をかぶっただけのイカサマ商品だ。
 まぁプラシーボには良いだろう。コロナ対策で推奨され、実際それなりに効果的な換気ってのをシッカリやってれば、あんな二酸化塩素の蒸散なんてまったく意味をなさない代わりに、健康に害を及ぼすほども室内には残らないだろうしさ(笑)。逆に密室状態でクレベリン並べてたら、塩素で絶対に身体悪くしまっせ。

 面白い記事を一つ紹介したい。脂手の人はコロナにやられにくい、って統計結果があるんだという。とかく嫌われる脂手・脂足なんだけど、まずコロナウィルスの表面の皮がある種の脂肪分で出来ているために、脂手だとくっ付いてもそこで油の親和性によって溶けてしまう。またギトギト・ベトベトしてるゆえに他の菌にやられちゃう、ってのもあるんだそうな。同じような理屈で洟垂らしてる子供がコロナにやられにくい、って記事も笑ったな。

 一般的に言われる「清潔」が如何にご都合主義で身勝手な概念かが良く分かるエピソードだと思う。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 もし、粥占でまったくカビが生えなかった場合、それにはどんな吉凶の意味があるんだろう?

 生憎、粥占の観相については各寺社では秘伝となってるらしく、その詳細については良く分からないが、なんとなくそれって「大凶」なんぢゃないかとおれは思う。

2021.02.05

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved