「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
晩夏


入道雲が湧き立つ晩夏の湿原を行く。このすぐ後、驟雨は沛然と降り始めた。

 例年になく遅れた梅雨明け宣言の後、関東平野部では熱中症による死人続出で、文字通り死ぬほどの猛暑日が続いていたのもようやく一段落しそうな雰囲気になって来た。相変わらずコロナの感染拡大は止まってないけれど、ぶっちゃけみんなもぉ分かってる。分かってんだよ。ジタバタしたって始まんないし、そこまで大騒ぎするほどでもない、ってコトをだ。
 未だにヒステリック、かつ実はちょっと嬉しそうに騒いでるのはメディアや自称専門家を始めとする一部だけに思える。ハッキシゆうてこの一週間、熱中症で死んだんとコロナで死んだん、どっちが多いんや?と言いたい・・・・・・え!?熱中症は伝染りません、ってか!?

 ・・・・・・うわわわ、こんな出だしの数行の文章だけでも良く分かるよね?全然ノレてない、ってさ。ちょっともおもろない。だらしない。手紙の時候の挨拶以下やんけ!?って自分でも思うもん。あきまへんわ。

 いやマジで、このところちょっとばかしダウナーなんですよ。鬱モードで全然ヤル気が出ないのだ。駄文のお題自体は大量にストックがあるし、おおよそのプロットみたいなんは頭の中にあるから、後はペチペチと2,000文字ほどキーボード打ちまくれば容易に出来るハズなんだけど、そもそもの気力が起きないんだからどうしようもない。ムリしてひねり出せないこともないが、箸にも棒にも掛からぬのは出だしで一目瞭然だろう。

 ここまでこうして書いたんにしたって青息吐息、這う這うの体の有様なのだ。旅のギャラリー作成も、その他の画像整理も同じ状況。ネタだけがうずたかく積み上がったような状態になっちゃってる。
 コロナでいささかままならなくなったとはいえ、それでもまぁまだ出掛けるのは楽しいし、写真撮るのは機材一新、さらには新しいレンズを追加したのもあって、そこに気を紛らわされてジャカジャカ撮ってるんだけど、それでもどこかノリ切れないままの自分がいるし、そこさえ動く気が無くなりそうな危うささえ感じている。ヤバいっす。

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 日常そのものは淡々と過ぎて行ってる。ゆっくり寝てたい休日の朝も、極めて規則正しい生活なネコはいつもの時間が過ぎれば、耳元で囁くように鳴いたり、やや遠慮がちに耳を引っ掻いたりして(・・・・・・ケッコー痛いんだ、これが、笑)キッチリ起こしてくれる。アタマの芯に熱さを感じながらエサの小袋を破いて一粒づつ与える。どうやら寝起きの一服のように、ネコからしてみるとこれがないと一日が始まらないらしい。
 おれたちが起床すると、もぉ物音を立てても良いって学習してるみたいで、家中をくまなく点検して回り、気が済むと戻って来て足許に転がってニャーニャー鳴く。要するに撫でろ、と言ってるのである。本人が満足してプイッと立ち上がるまで、毛繕いの疑似行為は続けられなくてはならない。まぁ時間にして数分、そんなにしつこくはないのだが。

 特に用事のない休日の朝の決まった儀式はまだ続く。次はコーヒー豆とミル、ドリッパー一式を食器棚から取り出す。一時期はインスタントコーヒーやら葬式の香典返しで貯まったカップに直接置く使い捨てのペーパードリップばっかしだったんだが、近所に美味いコーヒー豆屋を見付けてからは、再びコマメに淹れるようになったのだ。
 T−Falの電気ポットに湯を沸かし、ゴリゴリと豆を挽く。気付けばもう30年以上このミルを使ってる。あぁそうだ、何でもかんでもセラミックが流行った時代だった。コイツ、臼の部分がセラミックで出来てるのである。それで何か違いがあるのか?っちゅうたら良く分からない。まぁ、セラミックも石だから石臼みたいなモンなんだろう。それにしてもしょうむないトコで物持ちが良いな、おれ。別に愛用して来たワケではない。ただもうそんなに使うモノでもなし、壊れるモノでもなし、特段の不自由も感じないまま漫然と使ってたらそれだけの時が経っただけだ。

 最近は何でも濃口は嫌われてしまうのか、コーヒーも沸騰状態でアッチンチンの湯ではなく、火から下ろして少し温度が落ちた辺りで淹れるのが良い、な〜んて言われるようになった。豆屋のオッサンの講釈によれば、焙煎具合にしたって昔はフルシティローストっちゅうて8段階ある煎り方の上から3番目前後が主流だったのが、今では下から3番目のミディアムとかせいぜい4番目のハイローストくらいが好まれる傾向にあるらしい。当然ながら深煎りするほどに焦げて苦みは強くなっていく(その分酸味は弱まって行くが・・・・・・)からだ。
 そんな流れに敢えて楯突く気もないし、どだいそこまで微妙な味の差異が分かってるか?っちゅうたら心許ないが、だからっていちいち一呼吸置くのもアホらしく、まぁフツーに湯が湧いたらしばらく蒸らして、念のためにもっかい沸かしたのを静かに回し入れて出来上がり。温度もそら大切かも知れんけど、グズグズやる方が味への影響は大きいような気がするな。

 今年はあまりの暑さにその後のジョギングは殆どカットになってしまった。だってさぁ〜、7時過ぎで既に30℃越えとか、とても走ってられない暑さなんだもんな。いや、実はしばらく前、軽く見ていつもの調子で走って熱中症になりかけたのである。それから少し恐怖心が生まれたのだ。あの時はホンマもぉ目が回って頭痛がしてヤバかった。
 仕方なくPCの前に陣取りはするものの、何もしないで茫然と気の向くままにネットの画面を眺めてるだけだ。この場所はたしかに快適ではある。エアコンは効き、いつの間にか足許のソファでネコは惰眠を貪る。非生産的なコトこの上ないとは分かってるが、如何せんヤル気が出ないんだからどうしようもない。

 後は開店時間になったらヨメと近所に食料品やら日常雑貨を買いに出かける。以前はもうちょっと遅い時間に行ってたんだけど、あちこちのスーパーがタイムセールなんちゅうて、定刻が来ると時間限定値引きをするようになり、それでナンボ得するのか良く分からんのに店内に大行列ができるのが見てるだけで浅ましくてウンザリする光景で、それがイヤで時間をずらすようになったのだ。僅かの値引きのために行列に並ぶことを厭わないヤツって、結局自分の時間の価値がその程度しかないんだと思う。
 その後はリクエストに応じて近所で昼メシ食ったりして、帰宅するともう昼過ぎの結構いい時間だ。興が乗ってる時ならあれほど楽しい料理作りも駄文書きや画像整理同様、どうにも億劫でヤル気が起きない。本を開いてはみるものの活字が全く頭に入って来ない。流れるTime流れるTime流れるTime流れるTime、っちゅうやっちゃね。まるでボケ老人やで。

 漫然、茫然・・・・・・一言で言えば夏枯れが自分の中で起きてるような状況の、その原因は良く分かってる。しかしそれは余りに極私的なことであり、ここでクドクド書いたって詮無いことだろう。

 気付くといつの間にか空は黒雲に覆われ、真っ暗になっていた。時折遠くで稲妻が光り、低く雷鳴が轟くのが聴こえる。雷が大嫌いなネコは、寝室の押入の中に行ってしまった。窓を開けると涼しい風が吹き込み始め、微かに雨の匂いがする。夕立が近付いているのだ。雷の蒼白で予測不能なつんざく光がおれは結構好きだ。
 果たして驟雨は降り始め、旱続きで乾ききっていた街もアッと言う間に激しい雨に包まれ、真っ白に煙って潤されて行く。雨脚はいよいよ激しく、景気よく雷も鳴り続け、たまにすぐ近くに落ちたとき特有の乾いたパリパリ・パシーンってな音も交じる。山で雷喰らうともぉ恐怖しかないけど、家の窓から見るのは爽快感さえある。エエぞエエぞ、もっとバコバコ落ちまくれ。

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 今のおれに必要なのが、かなり根源的な部分でのカタルシスであろうことは間違いない。ただそれがフロイトが言うような「代償行為」とやらで得られるようには到底思えない。何故ならそのカニズムを含めておれはいささか知り過ぎてしまっているからだ。タネの分かった手品が面白くも可笑しくもないのと同じ伝で、カラクリの分かった代償行為になんて容易に騙されなくなっちゃってる狷介なおれがいる・・・・・・キミはたくさんの物を知りすぎた、なんてね(笑)。

 余人には理解しがたいクダらなくてバカげたことになるかも知れないが、自分なりに納得できる真っ向勝負を模索して、ケリ付けるしかないんだろう。

2020.08.25

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