「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ガチとパチの間の魑魅魍魎界


超絶的な時計を各種リリースしてるのは事実だけど、ブランドとしては決してガチではない。

https://www.gressive.jp/より

 先日、もし家を建てるんなら近年増加中の洪水に強い下駄ばきで、ついでに屋根を家庭菜園なんかにしたら楽しそうだなぁ〜、みたいなことを考え付いて調べ物をしてるうちに、「近代建築の五原則」っちゅうのに行き当たった。

 これ、今やその作品が世界遺産にも指定された近代建築の父・ル・コルビュジエが提唱した概念である。なんとそこには「1.ピロティ(要は下駄ばき)、2.屋上庭園、3.自由な平面、4.水平連続窓、5.自由なファサード」と書かれたぁるぢゃあ〜りま温泉!素敵なアイデアだと悦に入ってたら、そんなん100年も前に既にキッチリ理論化されてたのだ。トホホホ。
 しっかしル・コルビュジエ、名前は知ってても実際どんな人か知らなかったのと、ちょっとばかしの悔しさもあって、ついでだからどんな人物だったんだろうとさらに深堀りして調べてみると、面白い事実に行き当たった。この人、スイスの時計の町であるラ・ショー・ド・フォンで時計職人の息子として生まれ、元はそっちを目指してたものの、生来目が弱かったことと、スイスの時計産業が斜陽化して先がなさそうだ、ってんで建築家の道に進んだ、ってあったのだ。1900年ちょっと過ぎのコトらしい。
 そう、クォーツショックでスイスの時計産業はガタガタになったなんて言われるけれど、その遥か以前、明治の終わりくらいに既にスイスの時計産業は傾きかけてたのだ。これはかなり目からウロコな話である。

 みなさん、「システーメ・グラスヒュッテ」って時計をご存じだろうか?・・・・・・って、おれも最近知ったんだけどね(笑)。1900年代初頭あたりに存在した懐中時計のブランド(?)で、その名の通り3/4プレート、控えめながらも歯車にはサンバースト加工、スワンネック、そして現在のグラスヒュッテでもほとんど見られなくなったマイセンの流れのポーセリン(陶板)のインデックスと至る所がグラスヒュッテの流儀に則った作りになってる・・・・・・が、これ、実はドイツに輸出されたグラスヒュッテを騙るパチモンなのである。それもスイス製の!スイスメイドのドイツブランドのパチ時計(笑)。何でもテンプ受けの形が決定的にドイツとは違うので、分かる人が見たらすぐ分かるらしい。
 要はそれだけスイスが新興勢力であるグラスヒュッテに押されてた、ってコトに他ならず、上のエピソードを裏付ける。世界最大のムーブメント会社であるETAだって、1920年代辺りにそれまで群雄割拠・合従連衡だった中小のエボーシュ工場が集まって出来たのが始まりだもんね。裏を返せば、そうして生産効率を上げたりしないとヤバいくらいに商売が行き詰まってたんだろう。

 何を言いたいのか?っちゅうと、「スイス製だからガチ」なんて単純な図式はどこにも無いし、そもそも何を以てガチとするかがイマイチ曖昧なままになってるってコトだ。

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 まずは「ガチ時計」としての定義付けが必要かと思われる。あくまでおれの個人的な感覚だけど、次のようなカンジではなかろうか?

   1.ブランドが継続的に続いているコト(経営権の移譲は問わない)。
   2.チャンと自社工場が存在し、地板からムーブメントを作ってるコト(ヒゲゼンマイやベルト、ケースはまぁいいや)。

 かなり厳しいレギュレーションだけど、それくらいでないとガチとは言えない。これに適うのは所謂御三家の「パテック・オーデマ・バシュロン」に加え、ロレオメ、ジャガールクルト、ゼニス、ピアジェ、ブランドとしては新参者だけどグラスヒュッテオリジナルなんかもまぁ入れて良いように思う・・・・・・あと国産のセイコー、シチズンは間違いなく入る、ってなトコかな。もちろん数ある工房系、例えばリシャール・ミルとかなんかもガチだろう。
 しかし実のところ最近のバシュロンなんてちょと怪しい気がするし、フランク・ミューラーもハイエンドの家が一軒買えそうなん以外はかなり怪しい気がしてる。マニュファクチュールを謳うけど昔からくちょっと怪しいジラール・ペルゴはどうだろうな?国産でもオリエントは前回書いたようにそもそものベースムーブがパクリだからアウトやろね(笑)。ロレだって一時期、デイトナにプリメロをデチューンして使ってたよな。しかしそのプリメロにしたって、そもそものクロノの技術はモバードちゃうかったっけ?
 また、カルティエやショーメ、ショパールなんかはどうなんだよ?ってな意見もあるだろう。なるほど時計作ってる歴史が長いのは事実だ。カルティエなんて「腕時計」ってモノを最初に作ったトコとさえ言われてる。ぶっちゃけこれらについては判断がむつかしいんだけど、宝飾品としてはガチ・時計としてはガチではないんぢゃないかって個人的には思ってる。彼ら自身も痛いほどそのことは分かってるからこそ近年、中のムーヴの内製化に注力してるワケだしね

 ・・・・・・で、こっからパチ時計に至るまでがもっとややこしい。おれ的にはその下に「なりすまし時計」・「フツーの時計」・「掘っ建て時計」・「パロ時計」が存在するのではないかと思う。

 「なりすまし時計」とは、要するにブランド再興タイプである。お家再興、っちゅうたら聞こえは良いが、休眠ブランドを買って立ち上げるっちゅうほぼ詐欺に近いやり方だ。実はこのセグメントはとても多いし、とにかくブツ自体ちゃんと作り込んである本物なのは事実だから、たいへん威張ってたりもする。でもそれがホンマにステイタスなんか?っちゅうたら、どうしてもおらぁ「?」が10個くらい付くのだ。
 代表格は何たってブレゲだろう。時計の歴史を200年進めたと言われる天才の名を冠してドヤ顔してるけど、実は長い長い空白期間が存在するし、ブレゲの血統は早くも19世紀終わりごろに途絶えて(・・・・・・っちゅうか時計業界に見切り付けて航空機メーカーに鞍替えした)、その後の何十年間は仕入れた時計を売るだけの単なる町の時計屋さんだったのだ。
 同じスウォッチグループのジャケ・ドローも似たような感じ。過去に書いたようにランゲ・アンド・ゾーネもそう(亡命してたのを担ぎ出された三代目はそもそも時計作りもあまり知らなかったらしい)、H・モザー、ブランパン、ユリス・ナルダン、M・グロスマン、ヘンなのではクエルボ・イ・ソブリノスとか・・・・・・まぁ若干ビミョーなのは置いといて、基本、錚々たるブランドが並ぶよね。でも、おれの感覚ではこれらは決してガチとは呼べないと思う。
 つまり、高級ブランドだからって必ずしもガチとは言えない、ってトコが実にもう闇が深い。

 「フツーの時計」とは、要はETAポン、あるいはETAベースでゴチョゴチョ弄っただけなのに「マニュファクチュールです」って言ってるくらいまでのトコを指す。異論はあるだろうけど、筆頭格はIWCだろう。最近は急速に自社ムーブを揃えて来てるが、実はけっこう長期間にわたってETAを弄っただけなのに法外な値付けで利ザヤを稼いでた。パネライなんかも同じ。デビューしたては初々しかったのに近年妙にドヤ顔してるノモスもそう。デカ厚ブームが去ってちょっと地味になった印象のエベラール・・・・・・まぁこの辺はフツー時計の松ランクではなかろうか。良く分からんのではモンブラン。ミネルバを吸収して時計を始めた、って喧伝する割に大半はETAベースだもんな。
 竹はそだなぁ〜、スウォッチグループで言うと真ん中あたりに書いてあるようなの。ラドーとかロンジン、ティソ、ミドーなんかみんなそうだ(・・・・・・ロンジンはそこよりちょっと上に持って行こうとしてる雰囲気もあるけど)。おれの愛用するユンハンスもこの辺。そいでもって基本ポン付けしかしない梅はエポス辺りが受け持ってるように思う(・・・・・・って、実はエポスのレトログラードとかユニタス系はちょと欲しいんだけどね)。

 まぁいずれにせよ、この辺までが真っ当にブランドを名乗れる限界ではなかろうか?そいでもってこっから先は限りなくパチに近付いて行く。

 「掘っ建て時計」は要は「なりすまし時計」の激安ヴァージョンだ。何だか良く分からん雰囲気だけの企画系ブランドの多くがここに含まれる。悪口になってもいけないんで具体的なブランド名はもぉ列挙しない。大体が近年急に登場したブランドで、とにかく安いワリにパッと見の雰囲気だけは上手く作ってある。それもそのハズ、高級時計のデザインを丸パクリで剽窃してるんだから当然だわな。でも中身はETAポン、セリポン、ミヨポン、中華ポン、正にチャンポン何でもござれだ。もちろん細かい仕上げや磨き込みなんかも雑でテキトー。ついでに言うとケースとムーヴのサイズがが合ってないのを樹脂リングか何かのエスカッションでムリヤリ合わすなんてこともある。防水性・耐衝撃性・・・・・・何ですかそれ?ってな劣悪なんまで存在する。ヴィンテージっぽいのは外観だけで中身はクォーツなんて序の口だろう。
 彼らの特徴としては、スイスは保護政策があって厳しいんで、ドイツやイタリア、最近では北欧あたりで90年代前後に創業したってな触れ込みが多いコト、日本語公式サイトはすぐ見付かるワリに本国サイトが無かったり、あっても何故か所在地に関わる情報は一切無かったりするコトだろう。また文言にやたらと「***への敬意」、「***へのオマージュ」あるいは「***からの影響」、「***を讃えて」なんてセリフが妙に出て来るのも特徴の一つと言える。

 ・・・・・・当然だ。実態はほぼ100%中国製の輸入なんだから。

 カラクリはそんなにむつかしくない。上記の如何にもな雰囲気の国のどこかで本店登記だけするのだ。本社ったって恐らくは小さな雑居ビルの一室、誰かの家、あるいは貿易商社のフロアの片隅とかだろう。そこにどれだけ常駐の人がいるのかさえ怪しい。そいでもって法律でギリギリ許される程度のバラし方で輸入して、最後の一工程だけとかをどっかの町工場にやらせる一方で、取って付けたようなブランドの由来だけは念入りにデッチ上げる・・・・・・ってな寸法だ。実のところ「メイド・イン・***」って名乗れるかどうかの基準なんて国によってマチマチで不統一だし、抜け道だってナンボでもある。
 要は真性パチがヤバくなったんで、何とか体裁だけ最低限取り繕ったようなんがここに入って来てるワケだ。

 下には下がまだあって、その次に「パロ時計」がある。堂々とパチであることを名乗ってるようなタイプ、とも言える。最近だとやっぱ、開き直りぶりが却って清々しい「フランク三浦」が代表格だろう。「完全非防水」って何やねんな?(笑)。そもそもパロディの対象にするにはあまりに安時計なダニエル・ウェリントンをパロッて「ダニエル売れてんのん」とか、完全に世の中をナメた態度がホント笑える。
 レレックスとかラレックス、ルレックスなんてのも一昔前は良く見掛けけた。オネガとかオメカなんてのも(笑)。でもパロディとしては余り笑えないし、パチっちゅうにはちょっと情けない。いっそ思い切って「パクッテ・フリップ」なんてあったら楽しいだろう・・・・・・法外な訴訟起こされるだろうけどさ。。

 そして最後が純粋なパチ、いわば「ガチのパチ」(笑)。平たく言うと贋作であり、偽札なんかと同じで完全にアウトな代物である。上物になると一見しただけでは分からないが、大体は風防の材質とリューズでバレる。言うまでもなくほぼ全て中国製。おれ自身が実見したことがあるのではロレオメ、バシュロン、ウブロなんかがあるが、まぁ値段なりには良く出来てた。
 しかし諸外国に対する世間体もあって当局の取り締まりも厳しくなったか、あるいはクルマや新幹線のパクリの陰に隠れてしまったか、昔ほどムチャなパチはあんまし見なくなった気がする。それでも今なお上海とかのパチマーケットに行ったらジャカジャカ買えるみたいだけどね。

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 全てのブランドを列挙してるほどヒマも知識もないんで、ザーッと勢いだけで雑駁に書いてみたが、少なくともガチとパチの単純な二元論ではどうにもならないトコまで腕時計のブランドってのは逝っちゃってるんだ、ってコト、そしてそれが必ずしも近年始まったコトではないっちゅうのもご理解いただけたろうと思う。

 そんな中で、「ぢゃぁあたしゃぁ一体全体何を買ぉたらよろしおまんのん?」ってな質問は当然あるだろう。

 お答えしよう(笑)。これもあくまでおれの個人的感覚、かつ趣味の世界としての時計選び、ってエクスキューズを入れて答えるならば、1.フツーの時計、2.ガチ、3.なりすまし、後は止めとけ、ってなる・・・・・・あ、もちろん機械式時計って括りでね。またガチブランドでも根が貧乏性でステイタス作りがヘタな国産らしく、セイコー・シチズンならお安いのがあるから最初の1本としてはオススメだろう。プレサージュなんて、フェイスの繊細さにケースの厚さがアンバランス、って致命的なプロポーションの欠点はあるものの、恐ろしく良心的な作りだし、シチズンでも多分ラ・ジュー・ペレをブッ込んだと思われる年カレ・デイデイトなんかはとても良く出来てる。でもハッキリ言えば、ETAポンから始めなさい、これが結論だ。

 そこから維持費の眼を剥くほどの高さや具のメカニズム、ついでに黒歴史なんかも含めてシッカリ学習して、それでなおハマれば次にステップアップしていきゃいい・・・・・・それだけのコトだ。


ほぼETAポンながら端正でオススメしたい1本。JUNGHANS"Meister Chronoscope"

こちらもETAポンに加えて中華疑惑もあるEPOSだけど、ユニタス6497ももうすぐ手に入らなくなるかもよ。
https://store.shopping.yahoo.co.jp/,http://www.europassion.co.jp/より

2020.08.01

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