「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
パチモンとしての「日本製」の魅力・・・・・・オリエントの時計


サンムーンの時計。一見何かすんげぇ複雑機構っぽく見えるけど、実際は至ってフツーなのがミソ。

http://www.piaud.uinsu.ac.idより

 IWCに「ダ・ヴィンチ」ってモデルがある。今でもそうなのかは知らないけど、パーペチュアルを謳って再登場した際にはたしか7750ベースだったと思う。何がパーペチュアルか?っちゅうたら、要は閏年やらムーンフェイズの月の満ち欠けの誤差なんかを機械的に上手く吸収させて、何百年も表示されるデイデイト等の調整が要らない、ってコトらしい。まぁIWCだけでなく、各社技術力を誇示するためにこの「何百年に一回の修正で済む」って謳い文句は良く出て来るんだが、実のところそんなのは無用の用の極みっちゅうか、こけおどしっちゅうか、そもそもムリな矛盾の塊みたいなハナシなのである。

 だってその性能を発揮させるためにはずーっと動かしてなくちゃなんないし、ずーっと動かしてたら何年かに一回はオーバーホールでバラして油注したり、磨り減ったパーツを交換したりしてやんなくちゃなんない。だから何百年ノンストップで動かそうにも、その前に壊れるっちゅうハナシやね。それによしんばノーメンテで正しく動いたとしても、それが確認できる頃にはオーナーはとっくに鬼籍に入ってるだろうし。

 機械式時計の超絶技巧なんてそんなもんだ。そもそもの部分で「マニエリスティックで手の込んだ子供騙し」と断言できる。

 さて、今回はそのような世界に威張れる派手なギミックを何一つ持ってないにもかかわらず、そのクセ人一倍チャチな仕掛けだけは大好きなヘンな国産メーカー・・・・・・もといブランドである「オリエント」についてだ。

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 微妙な書き方をしたのにはワケがある。実は残念ながら企業としてのオリエントは吸収されて何年か前に消滅してしまい、今はセイコー・エプソンのいちブランドとなってしまってるのだ。残酷な言い方だけど、機械式時計に拘りを見せながら肝心のその部分で殆ど進歩がなかったのだから、こうなるのはもう何年も前から予見されてたことと言えるだろう。

 何せムーヴメントが基本1種類しかない。「46系」と呼ばれるセンター三針6振動(21,600bph)の自動巻き、これだけをひたすら手を変え品を変え未だ後生大事に使い回ししてるだけなのだ。東西ドイツ統合前、過酷で陰湿な社会主義体制下でのグラスヒュッテの時代遅れな時計公社もビックリな状況である。ほいでもって、90年代も終わりになった頃の苦労話に、スケルトンにしたとかムーフェイズくっ付けたとかを公式サイトに載せてる始末だったりもする。いやもう実にショボい。世の中はとっくに機械式リヴァイバルで、冒頭に挙げたような複雑怪奇極まりない超絶技巧なのがドンドン出て来てたっちゅうのに、スケルトンくらいで騒ぐなって。騒ぐんならヴィンセント・カラブレーゼの上行くようなスケルトンとかやってから語れって。
 この「ちょっと遅れた感」は今に始まったコトではない。上記46系にしたって登場は1971年(昭和46年・・・・・・だから46なのね)で、既に世界には8振動(28,800bph)や10振動(36,000bph)であまつさえクロノグラフなんてのが次々に登場してた頃だから、そりゃぁ5振動よりはハイビートだったろうがデッド・オン・アライバル、登場時点でちょっと時代遅れだった。それにどだいフルオリジナルではない。ほぼほぼセイコー70系のパクリである。別にロービートが悪いとも、長くムーヴメントを使い続けるのがダメとも思わないが、間違いなく他社より基本的な部分で2〜30年くらい遅れてる。何やってたんだろうね、ホンマ?労働組合が強かったとかかも知れないな。

 そんなオリエントを代表する機能は何か?っちゅうたら、12時位置のパワーリザーヴ、サンムーン表示、ディスク短針、そして忘れちゃいけない万年カレンダー、ってトコだろう。

 まずパワーリザーヴ。そもそも自動巻きにゼンマイの残量を示すパワーリザーヴなんてまったくの無駄である。とは申せ無用の用が機械式時計の本質なので、別にそんな機能を付けること自体は一向構わない・・・・・・構わないが、テッペンの12時位置で傘みたいになってる緊張感の欠片もないデザインセンスの欠如はどうしたものか?わざわざ12時のインデックスつぶしてまでやることか?ってやっぱし思っちゃう。
 他に置き場所がなかったんだろうな、ってのは分かるさ、分かる。でも、真上はないやろ!?真上は!・・・・・・ってな声が社内でも上がったのか、オリエントとしての末期くらいから1時方向に若干オフセットさせたモデルが出たりもした。ただ、要はムーブメントを何十度か右に回転させただけなので、リュウズの位置までオフセットしちゃってた(笑)。

 サンムーン(あるいはデイ/ナイト)表示、ってのも、ワールドタイマーとかで遠い異国の都市が今昼の何時か夜の何時か?っちゅうんなら重要な機能と言えるだろう。「あ〜、あっちは今は真夜中だから電話かけるのは止しとこう」とかさ。それにワールドタイマーに連動して瞬時に動かすとなると、途端に複雑で精密極まりないカラクリ仕掛けが必要だ。
 もちろん我らがオリエントがそんなややこしい細工やるワケがない(笑)。ただ単に小さなディスクが回って昼に太陽、夜に月が出るだけだ。しかし、北極とか南極、あるいは陽の差さない部屋に何日も閉じ込められてるならともかく、今現在自分のいるこの場所が昼か夜か?なんて、別に時計見なくったって分かるコトやんか。それにカラクリとしてまったく面白くも何ともない。単に短針のギア比を2倍に落として24時間で一周する輪列加えてるだけなんだし。
 無意味はともかく仕掛けのこのあまりの幼稚さは、著しくブランドステイタスを毀損するだけだろう。それでもパッと見はムーンフェイズに見えるから、時計のこと知らんヤツにはドヤ顔できる、ってか・・・・・・あぁ、貧乏くさい。

 おれも持ってるディスク短針、これもまぁ相当である。だから何なんだ?と言いたくなる。要は短針だけが針ではなく丸いプレートになっており、針に当たる部分がステンシル状にくり抜かれ、その隙間から下のカラフルに塗り分けられた地板の色が見える・・・・・・ってそれだけやないか〜い!いや、マジでそれだけ。例えば3時は青、8時は赤、11時が黄色になる。そぉ塗られてるんだから当然だ。くどいようだが分針や秒針はフツーの針である。ナゼか短針だけがディスクなのである。何かのまじないなんだろうか?
 これが例えば時分秒3枚の重なったディスクになってて、なおかつそれらの色が変わってく、とかゆうんなら素晴らしいカラクリだろうけど、このディスク時計はそもそもカラクリと呼べるほどのカラクリになってないし、ネタとしては詰まらないし、デザインとしては野暮ったいし・・・・・・一体全体何がやりたくてこんなことしでかしたのか、サッパリ見当が付かない。オリエントの中の人って、ひょっとしたら小学校低学年くらいなのかも?と疑ってしまうほどにローファイな怪作と言えるだろう。まぁ、そんなんを買ったおれもどうかしてるんだけどさ(笑)。

 そしてそして万年カレンダー。これこそがオリエントの最もオリエントらしいギミックではなかろうか。
 コイツについて語るにはまず、時計のベルトに付けるカレンダーってトコから始める必要があるだろう。アルミの薄板で作られており、小さく1ヶ月のカレンダーが印字されたモノのことだ。これを折り曲げてベルトに付けるのである。だから毎月交換しなくちゃいけない。実はそんなにキワモノではなく、銀行や保険会社が広告で良くくれたもので、昭和のサラリーマンは大概これを、人によっては先月分や翌月分まで時計に付けてたのだった。調べてみると今でも愛用者がそれなりにいるのか、細々と売られてたりする。
 こいつが時計の文字盤上に可変式ダイヤルになって埋め込まれてるのが万年カレンダーである・・・・・・・って、万年はウソ。実質は最長でも44年分しか入ってない(交換してくれるサービスもあるみたい)。ちなみに簡易版で曜日と日にちだけを合わせる仕様のもあった。むしろこちらの方が明快で見やすかったりするのだが。
 ともあれこれ、時計からは全く独立した機能となってる・・・・・・っちゅうか、回転する板が入ってるだけなのだ。何年の何月はどんな曜日巡りなんだ?ってのは、2時位置にあるリューズを何回も押すことで分かるんだけど、月が替わったからって自動で進んでくれるワケではない。つまり完全手動。ついでに言うと大の月も小の月も2月もカンケーなく、日付は31日まで表示されてるのは最早ご愛敬と言うべき作りだろう。

 ・・・・・・世の中ドンドン進歩してるのに、こんなことばっかしやってちゃそりゃ経営も傾くわな〜、ってつくづく思う。どれもこれもまぁチャチだ。メーカーとしての足腰を鍛えず、ひたすらガワに邁進してたワケだ。辛口だけど、ホンマ見掛け倒しで小手先の仕掛けばっかしなんだよ、これがもう。

 過去にはIWCの純然たるパクリであるペラトン式自動巻き上げ(だから冒頭にIWCネタをブッ込んでみたのだ)、G−Shockより20年以上早かった麦球使ったライト、一度だけ実物を見たことのあるほぼ無意味な100石仕様、あるいはレディース用のムーブメントを3つ搭載したジェイコブもビックリなモデルなんてのもあった。でもあんまし詳しく知らないし、割愛しても良いだろう。
 またオリエントを語る上で絶対に外せない、ちょっと常人には理解しがたいエクストリームでレトロフューチャーなデザインセンスも触れてみたかったが、これ以上書き並べると、単なる悪口の羅列になってしまいそうなんで止めとく。

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 ・・・・・・そう、ディスりたくてオリエントについて書いたワケではない。

 オリエントって、かつての日本製・「メイド・イン・ジャパン」の工業製品が持ってた、誠実かつ真面目に作ってんだろうけどどうしようもなくパチモン臭くていかがわしくて安っぽい雰囲気を最後まで残してたメーカーの一つだったのではないか?って気がしてる。酒で言うならホッピー、あるいはホイス・バイスの感じに近い。それはそれでとても美味いものの、結局はパチモンだし安っぽいし、でも何だか懐かしくて、そしてどこか哀しく愛おしい、っちゅう点で。

 だからってオリエントのコレクターになりたいとも別段思わないが、それでも70年代テイスト炸裂なTVのブラウン管っぽい、スクエアのカットガラス、毒々しいグラデーションの緑や赤のフェイス、コッテコテの太いインデックスにパワーリザーヴやらサンムーン、万年カレンダーとテンコ盛りに搭載したモデルなんかが出たら買ってもいいなぁ〜、って思う。

 会社は無くなっちゃったけれど、ブランドとスピリットは喪わずに、余りオーセンティックに走らず、エキセントリックでブッ飛んだセンスの時計をこれからもリリースし続けてほしい。

 
ちょっとオフセットしたらリューズ位置も動いちゃったモデルと万年カレンダーの復刻版。

https://www.orient-watch.jp/、https://store.shopping.yahoo.co.jp/より

2020.07.26

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