「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
どこかで、誰かが、作ってる


おらぁ野菜類は大体何でも大好き。

http://internet-homework.com/より

 おれが歳食っただけなのかも知れないが、最近そんなことに思いを致すことが増えた。

 いやもぉそりゃワリと最近まで、一応は社会人であるにも拘らず、一言でゆうて「公徳心に欠ける」っちゅうヤツっすか、「そんなモン知るかぁ!アホ!ボケ!カス!イッてもぉたらんかいやコラァ!」みたいな、まことにアナーキーでデストロイでポンなトコが結構多かったのが、ちったぁ変わって来たのである。ホンマ、おらぁアホだ。
 とは申せ、そんな風に変わったことを殊更威張る気も恥じる気もなければ、人さまに強要しようとも思わない。そぉゆう風に思うようになったんだからそれはそれで仕方ないくらいに思ってる。ただただ今日はそんなおれの思うところを書きたい。

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 1つは「自家菜園で作った野菜でレストランやりたい」みたいなコトを語る人が思ったより世の中には多いってコトに気付いたのだ。

 「人生の楽園」をヤリ玉に上げたネタを書いた辺りからもご想像は付こうかと思うが、おれは地方都市に近いくらいの田舎で隠遁生活を送りたいと、かなり真剣に考えてる。実際物件探しなんかもしてたりする。「隠居」ではなく「隠遁」である。もっと言えば「逼塞」なんてのがもっと近いかも知れない。要は今の収入を捨て世間から隠れて貧しくひっそりと暮らしたいのだ。別にムリに変人を気取って人との交わりを完全に絶とうとまでは思わないけれど、行った先で人脈を広げてセカンドキャリアとしてのビジネス立ち上げよう、な〜んてコトはこれっぽっちも考えてない。それなら今のまま働く、ってばさ。
 しかし、そうではない人の方がむしろ多い。それで上に挙げたような夢を口走ったりする。

 断言しても良い、絶対に無理である・・・・・・もしその商売で食ってくならば、だけど。

 例えば簡単な所でホウレン草のお浸しなんかを例に取って考えてみようか(←さっき食ったのだ、笑)。一口サイズならば1把で4人分くらいは可能だろう。俗に飲食業は1日100人のお客が必要と言われるが、まぁ趣味性を上げて自宅の一部を改装するのならもうちょっと少なくても大丈夫か。6ガケの60人としよう。ホウレン草は1日15把必要ってコトになる。食ってくんなら土日のみ営業、ってワケにも行かんだろうから月に最低20日は店開けなくちゃならない。そうすると300把必要になる。大体ホウレン草は4cm間隔くらいで間引くので2畝で撒いたとしても畝は6m以上必要だ。もちろん、収穫したらそれまでなので何ヶ月もとなると、その数だけもっと育ててなくちゃならない。
 もっとカンタンでボコボコ生える所でトマトを考えてみようか。トマトのクシ切りを一切れ添えようとしよう。ありゃ大体1個から8切れくらい取る。セコくやるなら10切れでも良いけれど、それだと自家菜園の看板に傷が付く。1日7.5個、つまり月に150個必要だ。トマトは中玉で一株50戸前後できれば御の字なので3株必要ってコトになる。通年なら36株だ。これはさっきの6mの畝なら2畝くらい必要になる・・・・・・冬は露地栽培では生えんけどね。

 そう、どんな野菜もそう簡単に通年で育てるのは難しい。その多くは生育が夏場に集中してる。後の季節、どないして過ごせ!?っちゅうハナシやね。ハウス栽培するのか?雪国なら厳寒期は油代が必要になるで。ハウスが倒壊せんように雪下ろしも必要だ。

 たった2種類の野菜だけでもこの体たらくなのである。「色とりどりの野菜をふんだんに使って」なんて到底ムリなことなのだ。これ、机上の計算でばかり言ってるワケではない。
 ヨメの方の実家は自宅用にあれこれ野菜を育てている。義母は野菜作りが好きなようで結構器用にやってるし、畑も減反で休耕になった田圃の一部を転用したりしてかなりの広さがある。どうだろ?2〜300坪くらいはヨユーであるのではなかろうか。おれも行った折には手伝ったりしてる。夏場だと茄子、ピーマン、シシトウ、前述のトマト、キュウリ、ゴーヤなんかが多い。曰く、これらは少々放っといても実がなるらしい。ただ、ひたすら一時に集中してできる。だから茄子の揚げ浸しなんてウンザリするくらい三度三度続いたりする。
 しかしそれも秋口までのコトだ。季節が終わると当然採れない。その後、秋の終わりくらいまではイモ類や南瓜や白菜、大根等が多いが、瓜はともかく葉物は本当に難しい。農薬使ってないんで虫食いの穴だらけになる上に、そもそもあんな売れられてるような立派な姿にはナカナカ育ってくれないのだ。さらに冬から春に掛けてはそもそも野菜が生えてくれない。

 無農薬だとか有機肥料なんてワガママ言いだすと、事態はさらに絶望的になる。どんなけ目の細かいネットで覆ったとしても、どこからともなく虫は侵入してくる。イチイチ丹念にアブラムシなんて取ってられないって。ネットで遮られる分、天敵の侵入がなくって却って大繁殖なんてコトもある。
 猪・猿・鹿・イタチ・ハクビシン・ヌートリアにタイワンリス・・・・・・最近は害獣が増えたモンだから、そういったのへの電気柵等の対策も必要だ。これも害獣の一種かも知れないが、怪しい外人や食い詰めたヤクザが根こそぎ盗んでく、なんて被害も増加中だったりするワケで、これも手間と資金が掛かる。防犯カメラなんて設置したら200万くらいすぐにブッ飛ぶが、そんな投資、絶対に元は取れない。

 それが現実なのである。自家菜園で作った野菜でレストラン・・・・・・阿呆な妄想もあったモンだが、そんな無体なことを夢見る人が何故多いのか?

 理由はカンタンだ。今や世の中の大半が食品を消費しかしたことのない人だからだ。金と引き換えた経験しかないから、作るプロセスの大変さが少しも分かってない。そのクセ頭でっかちに無農薬が、有機肥料が、手間暇かけた手作りが、なんてコトだけ知ってやがる。そんなんだからちょっと天候不順で値上がりすると平気でブーブー文句言ったりするし、逆に豊作で値崩れすると諸手を挙げてウェルカムみたいな恥知らずなコトをヌかしやがる。今の農業が依然大変な苦労を伴う労働集約型の一方で、多額の設備投資をも伴う集中/大量生産によってあの品質と価格、ほぼ季節を問わない供給が維持出来てるんだ、ってコトが実感できてないのだろう。

 大上段にやるな!とまでは言わないが、赤字覚悟の趣味の範疇にしとけば?とは思ってしまうな、やっぱし。

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 2つ目は似たような話で申し訳ないけど、そこまでぢゃなくってもこれくらいならやれるでしょと言われがちな「自給自足の生活」についてだ。これまた憧れてる人が多い。まぁ、気持は分からなくもない。

 前段で述べた通り、もしあなたが狂信的ヴィーガンならば何とかかんとか一人食ってくくらいは出来るかも知れない。ただし、申し上げた通り夏場はひたすらピーマンやら茄子、トマトばっかし食い続けなくてはならないし、秋からは米や芋ばっかしで、冬は米と白菜ばっかし食い続けられるなら、って条件が付く。
 ニワトリ飼えば玉子くらいはまぁ何とかなるだろうが、カシワ食いたいってニワトリ潰しちゃうと、何日間かは鶏肉ばっか食ってなくちゃなんない。当然、豚肉や牛肉はムリな相談である。たしか山上たつひこのマンガの口絵で振り向いた豚が後からスライスされてハムになってるのを見たことがあるが、そんな器用なことでもできない限りは不可能だ。大体、豚一頭からちょっと小ぶりでも4〜50kgの可食部分が採れるのだ。これ、トンカツにしたら軽く3〜400枚分はあるよ。ちなみに牛は回収効率が悪くて体重の1/4ちょっと、ザックリ200〜250kg・・・・・・どないして個人で食うねんっちゅう世界やね。年中すき焼きでもするんかい!?(笑)。

 海や川が近くにあれば魚は釣れば何とかなるかも知れない。しかし、庭に泉水を導いてアマゴやヤマメを飼って・・・・・・な〜んてこれまた幻想である。相当の広さが無いとアッちゅう間に食いつくしてしまう。たまに塩焼きにしてくらいが関の山だろう。
 これまたヨメの実家ネタで申し訳ないが、もぉかなり以前に亡くなったけど彼女の祖父母の家っちゅうのがエラい山奥にあって、何度か訪問させてもらったことがあった。杉林の中を上がってくとちょっと広くなったトコに家があって、脇には山水を樋で引いた池が設えられており、山葵が植えられ、アマゴかニジマスだか知らないが何十匹か泳いでた。タニシもうようよいたな。横の畑には様々な作物も植わってたし、少し離れた谷あいには田圃もあって米を作ってた。
 しかし、それでも自給自足の生活ではなかった。米以外はまぁちょっと日々の足しになる程度、ってコトだった。

 大体、食うだけでは人間生活は営めないのである。衣食住っちゅうやおまへんか。服だって必要だ。家だって住んでりゃあちこち痛んでくる。どこまで逃げようが税理は追っ掛けて来て税金をむしり取ろうとする。具合が悪くなれば、薬も要れば、医者に通うことも必要だ。たまにはどこかに出掛けなきゃならんこともあるだろうし、祝儀や香典を包まにゃアカンコトもあるだろう。。
 これらの点で、それでもあの家はかなり自給自足生活に肉薄してたと言えるだろう。おれが初めてお邪魔させてもらった時点で、祖父はもうとっくに鬼籍に入った後だったが、聞くところによれば存命中は家の補修も山の木を伐ったり、藁と土を捏ねたりして自分でやってたらしいし、ちょっとした病気や怪我なら山で摘んできた薬草で間に合わせてたともいう。冬場の燃料にしたって若い頃は薪を集め炭焼いて確保してたっちゅうから、本当にスゴい。

 しかしそれでも、くどいようだけど完全な自給自足ではなかったのである。

 おれたちのやれるのはせいぜい、おかずの一品二品に自家製野菜を並べる程度のユル〜い自給自足ごっこまでなのだ。そんなんマンションのベランダのプランターでもやれちゃう。結局は何らかの色んなプロダクツを他所から手に入れるしかないし、最低限のお金だって必要なのである。
 中井正広の金曜日のなんちゃら、って番組で、常陸大宮でディレクターが一人自給自足を目指す長期シリーズがあるけれど、あれだってまったく自給自足とは呼べない。だってヘルムート渡辺とかゆうオッサン、今でも給与生活者なんだもん。きっちり製作会社から毎月給与が支払われてる。だからあんなノー天気なことができるのだ。実に罪作りな番組だと思うぞ。

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 あらゆるプロダクツはどこかで、誰かが、作ってる。それも同じモノを延々と大量に作るっちゅう、単調でしんどくて退屈な作業の我慢の上に今の安価で安定的な供給体制は出来ている。

 ・・・・・・賢明な読者諸兄はもうお分かりだろう。何故に今回はこんなに説教臭いのか?

 こうしておれはなんとか自分自身に言い聞かせて、全てを放り出してしまいたい衝動からようやく何とか免れてる状況なのだ。ゴメン!相済まぬ!ホンマ堪忍どすえ!許しとくれやっしゃ!
 散々勿体ぶって書きまくっといて実はそうだったんっす。自家菜園も自給自足も、これだけ分かって分別のある自分が諄々と言い聞かせてるにも拘らず、隙あらば首をもたげようとするもう一人の自分の欲求だったんっすよ。

2018.06.06

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