「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
天下の愚策・・・・・・ふるさと納税


元気になるどころか却っておかしくなります、って。

http://www.soumu.go.jp/より
 休日、特に用事もなく、PCの前に座るのもギターを抱えるのも肩が凝りそうで気が乗らず、鈍りになまった身体を持て余すような日は数時間かけてけっこう長距離の散歩に出かけることにしてる。
 おれが現在暮らすマンションから少し行くと一面に新興住宅地が広がってる。どうだろ?80年代半ば、バブルの前くらいに整備されたと思われるが、今はドンドン空家と更地が増えてって虫食い状態になりつつあるのは以前書いた通りだ。それで市の税収が昔ほど無くなってるためか、今はまぁ公園のベンチが壊れたまま放置されてるのが目立つくらいでまだ可愛いモンだけど、間違いなくインフラの崩壊はしんねりと進行してると思われる。

 そりゃぁ暮らす人が減って税収が減れば回せる予算も無くなるわな。当然の帰結だろう。

 こうした都市部のインフラ崩壊に拍車を掛ける仕組みがふるさと納税だとおれは思ってる。決して単なるおれだけの思い込みではない。国立だったか日野だったか立川だったか、どっか東京西部の町でふるさと納税による税収の流出が大きすぎて、市の財政にいろんな支障が出てるってな記事が出てたくらいだ。
 おれは初めっからこの仕組みに対しては懐疑的で、往年の「ふるさと創生」だったっけ!?竹下登のやらかした1億円バラ撒きよりも余程タチの悪い、それこそ末代まで悪名を残す天下の愚策ではないかと思ってる。1億バラ撒きなんて所詮はワンショットだからまだそこまで悪質ではなかった。なので、これまで一度も利用したことがないし、これからもやろうなんて断じて思わないだろう。

 そうそう、そうだった。おれより一回りほど若い同僚の一人に、決して能力が低いワケでもないのに何ともパッとしないのが居て、他はみんなもう管理職くらいになってるのに、そいつは一般職のままなんだけど、そいつが珍しく熱っぽく、ふるさと納税について語ってたことを想い出した。

 ------いやね、これ返礼品がすごく沢山貰えて良いんですよ!それが来るのが楽しみで。
 ------へぇ〜・・・・・・何円分くらい貰えるの?
 ------どうでしょ?軽く5〜6000円分はあると思います・・・・・・で僕、あっちこっちの町に収めてるんで。
 ------何万円分にもなる、と?
 ------そうなんです。サイトがあって調べるのも楽しいですよ。
 ------ほぉ、そぉなんだ。

 そいつは他にもいろんな財テクに励むのが趣味なので、ついでに訊いてみた。

 ------トータルしたらそぉゆうのんで1年にどれくらい儲けてるん?
 ------(ちょっと得意そうに)ダメな年もありますけど、大体50万から100万くらいかなぁ〜。あと、優待券とかもありますし。
 ------そっかぁ〜、結構儲かるんやね。
 ------教えましょうか?
 ------う〜んそやねぇ、考えとくわ。

 「そんなことにウツツを抜かさずに仕事やってりゃオメェ、とっくに今の年収より数百万は上行ってるよ」とまでは優しいおれにはどうしても言えなかったな(笑)・・・・・・ってまぁ、ここまで本末転倒なケースは珍しいと思うけど、欲と二人連れで国の甘言に唯々諾々と乗る人が世の中には溢れてるみたいだ。

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 そもそもふるさと納税ってどんなことかっちゅうと、自分の住んでる町以外のどっかの自治体に寄付をすると、上限額はあるとは申せその分が本来の住民税から引かれたり、源泉税からも寄付控除って名目で差っ引かれたりする、って制度のコトだ。それだけなら美しい話だが、こうして寄付された自治体からは返礼品として肉だの魚だの野菜だのってのが送られてくる。それは本来的には自己負担に相当する2000円(たったの!)を埋め合わせるってな名目だったが、それを遥かに超える豪華な返礼品を各自治体が競い合って社会問題化したりもしたのはみなさんも記憶に新しいことだろう。
 一昨年の実績だと年に3000億近い金が専ら都市部から田舎に流出してるようだ・・・・・・そ!寄付もクソもヘチャチャもホチョチョも、つまりは右から左に税金が動いてるだけなのである。肉だの魚だのの利ザヤ付きで。
 さらに調べてみると、人口減に苦しむクソ田舎の知事とかが10年ちょっと前に捻り出した奇策であるコトが判明した。よくもまぁこんな胡乱なアイデアを思い付いたモンだと逆に感心してしまう。ホント、今の日本の政治家にはロクなのがいない。

 何が根本的におかしいかというと、1つ目は「寄付の枠組みを借りながらちっとも寄付になってない」ってコトだ。むしろ返礼品で得する、ってんだから逆立ちも良いトコだろう。返礼がたとえあったとしたって、赤い羽根共同募金のあの羽根くらいで充分なのだ。
 本来的な寄付、要は「くれてやる」っちゅうのは、貧富の格差に対する結構ラジカルな解ではないかと昔から思ってる。お金なんて初めっから平等に分配してちゃ、アホな連中はアホな事に遣ってしまうだけだし、一旦有能で勤勉なヤツのところでプールして増やしてから、まとまった額で社会に還元した方が長い目で見たら余程有効なんぢゃないか?ってなまことに冷徹な考えによるものだけどね。やや話は逸れるけど、おらぁ税金なんて詰まらない仕組みよりも、社会的成功者が社会から得たものを社会に還元する直接的な方法として寄付を制度化すべきだとさえ思ってる。

 2つ目の問題は、極論すれば金が移動するだけでむしろ全体としては対価のない純粋な支出/消費しか残らない、ってコトだ。ちょっと模式化し過ぎかも知れないが、こんなケースを考えてみよう。A市に住むPさんとB市に住むQさんがそれぞれ相手の市に対して同額のふるさと納税を行ったらどうなるか?
 双方の市は税収は変わらず、Pさん・Qさんって個人のみが肉だか魚だか知んないけど返礼品って名の利得を享受することになる。つまり双方の市は返礼品の分だけ無駄に遣ったことになる。何となくみんな都会から田舎に一方的にお金が流れることばっか想定してるけど、そんなモンは高度成長期に集団就職列車に乗って都会に出て来てグンタマチバラキとかに建売買った世代の希望的観測に過ぎない。
 今行われてることは実のところ、毎日決まった面子だけで賭け麻雀やってるのに等しいのだ。

 とは申せ、圧倒的な人口差を背景に現時点では都市vs田舎での富の移動は起きてるのだから、大枠での格差を埋める効果はあるんだろう。それはおれも認める。それこそちょっとした肉や魚に釣られた浅ましい連中から何億って金が転がり込んでくるんだから、田舎にしてみりゃウハウハで夜なべ仕事でクール宅急便の荷造りもするわいな。しかし、それは結局のところ浮利に過ぎず、畢竟一時の栄華に過ぎないとおれは思う。住友家家訓ぢゃないけれど、浮利を求めて上手く行ったためしはない。
 どうも大枠とかマクロっちゅうだけで、大胆な施策だ!な〜んてホメそやす向きがおられるが、要するに大雑把でツッコミどころ満載なんだ、って当たり前の視点が欠けてやしません?
 そんなガタガタの仕掛けのふるさと納税も、5年くらいの時限立法でやってればカンフル剤としては有効だったろう。しかし本物のカンフルがそうであるように、のべつまくなしにボンボン打ちまくってたら却ってボロボロの廃人になる。

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 さてさて、冒頭に書いたように一部の都市近郊の自治体では税収不足が顕在化し始めてる。市バスの運転手が足りない、ゴミ収集車が回せない、水道管が破裂したけど財源がない、公園の草刈りや剪定が出来ない、市道の舗装が荒れ放題だ、側溝の蓋が割れたままになってる、街灯が切れたままだ・・・・・・etc。たとえ自分の田舎だって帰省するのは年に1度か2度だろう。ましてや一生のうちに何度訪ねるかも分からない縁もゆかりもない町とか、そんなトコの道が良くなるよりも、自分の普段暮らす町の道路に穴が空いてない方がおれは大事だと思うな。
 インフラが荒れれば間違いなく治安が悪化することは殆ど自明の事実だ。つまりふるさと納税によって緩慢に、しかし着実に都市部はスラム化して行く・・・・・・ああ、それならいっそもっとふるさと納税盛り上げて、外国のスラムからやってきたような得体の知れん外人連中をスラム化した都市部に住まわせて、日本人はみんな田舎に引っ籠って「人生の楽園」ゴッコやりますか?(笑)

 ・・・・・・そんなワケには行かないよね。

 マイナンバー制度も始まったことだし、ここは一つ、ふるさと納税してる人には、例えばごみの収集は別途有料化するとか、何か市に文句の電話しても一切取り合わないとか、死んでも火葬場使わせないとか、その額に応じて暮らす町からのサービスが得られないようにしてみてはどうだろうか。そうすれば天下の愚策に乗っかった連中も、ちょっとは己の浅ましさに気付くかもしれない。

2018.03.02

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