「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
マンザイとラーメンはとんでもないコトになってる!


今回優勝の「とろサーモン」。

 ・・・・・・ヨメに付き合ってTVで「M−1グランプリ」を見てて、つくづくそう思った。

 何がとんでもないか?っちゅうと、それまで傾けた努力や投資あるいは原価、そして到達したレベルに対して対価があまりに低すぎやせんか?ってコトだ。世襲でヌクヌクとしてる政治家や歌舞伎役者はちったぁ見習え!って言いたいで、ったく。

 まずはマンザイだ。吉本NSCっちゅう仕組みが出来て以来、かつての徒弟制は完全に崩れ去ったと言える。未だに徒弟制に拘る落語の世界とは大違いだ。そしてもちろん入学時の選抜があるとは申せ誰でも容易に目指すことができるようになった。まぁ、これは良いコトだ。下積みと言う名の理不尽な折檻に近い師匠のシゴキに耐えてナンボ、ってな経験を経ずともトップを取れるようになるのは徒に若い才能をツブすこともないだろう。例えば横山やすしの弟子に対する厳しさなんてもぉ、パワハラとかの甘ったるい言葉がケツまくるような凄まじさだったことで有名で、弟子を呑み屋の2階の窓から下の通りに突き落としたとか、ホンマにムチャクチャである。
 そんなんで妙なしがらみのない純粋な実力主義で才能ある者が伸びる、繰り返すがそれは確かにとても良いコトだと思う。そらまぁ8.6秒ナンチャラとかラッキーパンチとしか言いようのない例外はあるにせよ、総じて日本の笑いのクオリティは世界的に見てもこの20年くらいで物凄いレベルに達したのは間違いない。

 でもそれでいくら色々副賞あるとは申せ、優勝賞金たったの1千万である。今回でいうと素人も含まれてるとは申せ4千組以上の芸人コンビがエントリーして、そのテッペン取ってようやっとの1千万だ。何だかなぁ〜、っておれは思う。コンビなら一人500万に過ぎない。2〜3億は出しても良いんぢゃないかな?バチは当たらんで。
 もちろん、翌日からは各TV局からの出演依頼が殺到する。そらもぉ面白いように収入も増えるだろう。しかし、これもいささかお約束のやりすぎで何ともウソ臭くて寒々しい。メディアがムリクリなムーヴメントにしようとしてるのが見え見え怪傑みえちゃんねるだ。話は逸れるが、上沼恵美子が辛口でエゲつなかったとかなんとか批判するフニャフニャ・クニャクニャしたバカが多いらしい。極めて憂慮すべき事態だと思う。あんな程度で何が厳しいねんな。かつて一世を風靡した天才漫才師・海原万里として、彼女は真摯に出場者の芸に向き合って見極めてたと思うで。

 それはともかく大体、今回優勝の「とろサーモン」にしたって、惜しくも逃した「和牛」にしたって、すでに在阪局では立派な中堅以上のコンビであって、人気や知名度だってそれなりに高いのである。そこにさらにマトモに家に帰って寝ることも出来ないくらいの殺人的スケジュールをバキバキに詰め込むことが、1年間まったく休むこともネタ作りも出来ないような状況を作り出すことが、本当に正しいことなのか、おれは大いに疑ってる。結局、メディアによって貪婪で飽くなき大衆消費のカラクリに呑み込もうとしてるだけなんぢゃねぇのか?とさえ思ってしまう。

 又吉直樹の「火花」を引き合いに出すまでもなく、売れない芸人はそら本当にツラく厳しいし、扁業と呼ばれる芸事の世界に生半可な温情は不要だってコトは百も承知だけど、現在の余りにコンペティヴにシステム化されたマンザイの世界も如何なものかと思ってしまう。M−1グランプリにしたって、笑いの極限を追求した話芸を観ながら、何だかハラハラドキドキして素直に腹の底から笑えないというひじょうにややこしい状況で、ひどく息が詰まって疲れたのが正直な感想である。

 それでもいつだって大衆は「頂点」という名の生贄を求めている。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ラーメンだってそうだ。

 今やラーメン業界は裾野の広がりと日々の研鑽、切磋琢磨の積み重ねの結果、その原価率はベラボウなレベルにまで上がっており、損益分岐点が上がりまくって行列店でないと生き残れないような状況となってる。安易な気持ちで参入すると大火傷間違いなしな、飲食では最もリスキーな世界だ。
 だってもう、羅臼の昆布に比内地鶏のガラに枕崎の枯節に五島のアゴダシに幻のナントカ豚にナントカ竹のシナチクに・・・・・・ってな具合で、もぉバンバンに惜しみなく原料や素材に拘ることがデフォになっちゃってるのだ。そんなんがせいぜい800円ほどで食えてしまう。FL比率なんて知るかボケ!トコトンやってナンボぢゃいっ!ってなムチャクチャな状況がラーメン業界には蔓延してる。

 当然ながら、昔ながらの蕎麦とか饂飩の出汁に適当に生姜と葱、鶏がらなんかをチョロッと加えて胡椒で整えた程度の素朴なラーメンなんて、余程古くから確立した名声のある有名店でもない限り、とても生き辛い状況になってしまってる。今時、オーソドックスな雷文模様の丼に入れてるだけでもアウト、みたいな雰囲気さえある。
 そしてマンザイ同様ドンドンと店が消費されて行く。不味いのならともかくそれなり以上の水準で美味い店が、である。恐ろしいほどの淘汰である。おれの勤める都心の会社の周辺でも、20年ほどの間にどれだけの行列店がいつしかヒッソリと消えてったことか。

 おれにしては珍しくほぼ毎週観てる「ザ!鉄腕!DASH!!」でちょっと前に、「世界一うまいラーメンを作る」ってな企画があった。
 結論から言うと、世界一かどうかはともかくスゴいのが出来たコトは間違いない。しかしたしか原材料費だけで600ナンボとかになってしまい、マトモに採算取れるようにするには2,000円くらいで提供しないとムリだろうってな結論で終わった記憶がある。
 あの番組をおれが好きなのは、決して正面切って言わず、あくまでバラエティのオブラートに包んで、実は色んな現代社会の矛盾や問題の批判をやんわりマッタリとやってるトコなのだけど、あのラーメン企画にしたって、要するに現在の行きすぎたラーメン(あるいはグルメ)ブームへの批判だったように思う。こんなことばっか続けてたらどこのラーメン屋も持ちまへんで、今のラーメン屋の多くは真っ当な対価になってまへんで、ってなメッセージがあった、ってコトだ。

 大体、味という官能の世界に良い原料や希少な素材をより沢山ブチ込めばより美味くなるだろう、ってなマルクスの出来損ないみたいな思想を持ち込むコトがそもそもおかしいのである。そんなの昔、「美味しんぼ」のネタになった中国の成金趣味でバッドテイストな「佛跳牆」だけで充分だろう。あんなモンを絶賛するなんてバカぢゃなかろうかって、思う。沢山高い絵の具を使えば良い絵が描ける、スリーピースの下手なパンクバンドよりバカテクのビッグバンドの方が良い音楽だ、って言ってるのと同じだ・・・・・・まぁ、クソ高いハイエンドのカメラを貧乏質に入れて買ったおれが言うのもアレなんだけどね(笑)。
 原料費と味なんてそんなリニアな関係にはないのである。極端なコトを言えば、上に書いたような古典的でテキトーに拵えたラーメンだって美味い時は美味い。もっと言えば、所謂「マズウマ」ってヤツで、不味いからこそ美味いことだってある。

 でもって、ラーメンが一種の飽和っちゅうか臨界状態になって頭打ちなもんで、今や饂飩にシフトして同じような状況が始まりつつあるらしい。対象が饂飩になった、っちゅうだけで構造的には何にも変わってない。ちょっとホンマ、みんなアホなのではなかろうかと思ってしまう。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そもそもどうしてゴールドラッシュで西海岸にギラギラした連中が殺到したみたく、誰も彼もがマンザイやラーメンを目指すようになってしまったんだろう?

 学歴社会や1億総中流、あるいはバブル崩壊によるジャパニーズドリームの終焉か?戦後民主主義と個性尊重教育の成れの果てか?ヌルい平和の向こうの倦怠か?それとも先立つ80年代初期のMANZAIブームが一周回ったのか?佐野実や川原社長のド根性サクセスストーリーにアテられたのか?・・・・・・理由はいろいろ考えられるだろうけど、とにかくその世界で裸一貫・才覚一つでひと山当てればもぉウハウハやでぇ〜!みたいになっちゃって、余りに多くの人間が殺到して需給バランスが崩れてしまったコトに根本的な原因があるのは間違いなかろう。

 当然ながらそうなればそこには経済原則が働いてデフレが起こる。マンザイなんてもぉおれが昔やってたバンドの観客動員よりもひどい状況でライブやってるのがワンサカいる。ラーメンは上に書いた通りで、2〜3千円の値付けをしなきゃ到底採算ベースに乗らないようなのが軒並み7〜800円だ。水準が上がるのは良いコトだけど、まったくそれに見合う対価が動いてない。それはやっぱしデフレだろう。

 同じような状況がAKB以降、アイドルの世界にも起きてるのは今さらここで言うまでもなかろう。唯一、マンザイやラーメンと違うところがあるとすれば、全体的に業界全体の水準が上がるってコトが決してなく、勘違いした箸にも棒にも掛からんようなブスがアイドル名乗ってる、っちゅうまことにみっともない状態があちこちで顕現してるってコトだろうか(笑)。
 そぉして考えてくと何もマンザイやラーメンばっかしぢゃねぇな。声優、アニメーター、ユーチューバー・・・・・・はぁぁ。

 照りつける日差しの下で泥にまみれてろ!
 大波に揉まれながら漁網を巻き上げてろ!
 山蛭に咬まれながら枝打ちしてろ!
 地下何百mのトコで削岩機握ってろ!
 棟梁に怒鳴られながら鉋掛けてろ!
 ベルトコンベアの横で日がな一日流れ作業やってろ!
 指落とすリスク背負ってプレス機の前に座ってろ!
 上司や取引先にペコペコ頭下げて米撞きバッタのようになってろ!

 かなりマジでそう思うわ。いつまでも夢に二日酔いしたような連中はもちろん居て良いし、その方が世の中楽しいし、おらぁ決して嫌いでないどころか好きだったりもする・・・・・・とは申せ、それも程度モンだろう。そろそろ公的な仕組みで参入規制を強化した方が良いのではなかろうか。苦節ン年とかもういいから、目指して5年でアウト!アンタ無理でっせ!才能おまへんで!みたいな仕組みも要ると思うよ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・などと、安酒場でメートル上げたオッサンの巻くクダみたいな偏狭な理想の暴論ばっかし書いても仕方ないか。だって裾野はもう手の施しようがないくらいに広がっちゃってんだしねぇ。

 ともあれこうなってしまった業界の行く末はどうなるんだろう?

 競争原理の中で無反省に際限なくレベルが上がり続けるのは、そして相対的に価格や価値が低落してくのは本当に良いコトなのか?その果てに何があるのか?おれの疑問は要はそこだ。コンピュータの世界でシンギュラリティなんちゅうて議論されてるのも平たくゆうと似たようなハナシですな。

 俗に「エエ加減と良え加減」なんて言われるけど、そりゃぁマンザイもラーメンもただひたすら出鱈目にやられちゃ困る。一生懸命やったからっちゅうて不味かったり笑えなかったりしても困る。さらにそんなんでぼったくられたらもっと困る。ゼニ取る以上、努力や精進はともかく成果物の出来栄えは大切だろう。
 しかし、一方で絶えず「丁度のところ」をレベルとしても対価としても考えてないと、結局は業界全体がいつかは枯渇して衰えて行くような気もしてる。まぁ、おれが気を揉んでも始まらないか。どうなるかはこれからの歴史が証明してくれることだろう。


おらぁこっちと思ってました。「和牛」

2017.12.07

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved