「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
東芝騒動/水滸伝


昔のロゴには味があったなぁ〜・・・・・・

http://seiga.nicovideo.jp/より

   ♪光る光る東芝
   ♪回る回る東芝
   ♪走る走る東芝
   ♪歌う歌う東芝
   ♪みんなみんな東芝
   ♪東芝のマーク

 ある年齢以上の人ならきっと一度は耳にしたことがあるに違いない。往年の東芝の有名なCMソングである。「日曜劇場」や「サザエさん」といった一社単独提供の番組の途中で流れてた記憶がある。光り輝いてたのが東芝製品だけではなく、東芝って会社そのものだった時代の話だ。

 ちなみに我が家は別に東芝を贔屓にしてるってワケではない。それでも何故か掃除機とTVについてはこれまで結果的にココの製品を買うことが多かったように思う。室内を歩き回って調べてみると冷蔵庫は三菱、洗濯機は日立、エアコンは見事にバラバラだなぁ〜・・・・・・あ!。そぉいや今のPCの前に使ってたのがDynaBookだったっけ!?結果的には薄幸のVista搭載機。ハーマン・カードンのスピーカー付いてまっせ!ってな口上に釣られて買ったんだけど、結構HDDの寿命は短かった気がする。なんだぁ〜!意外に買ってるやんけ、東芝。

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 そんな天下の東芝が今や揺れに揺れている。同じようにPCや白物家電も扱ってたメーカーではあるものの、シャープの時とは比べ物にならないレベルでの大騒ぎである。

 言うまでもなくそれは、シャープが何だかんだで畢竟家電専業のメーカーであるのに対し、東芝は国策に関わるような重電までを幅広く取り扱う日本を代表する電機メーカーで、そもそもガタイが全然違うからだ。赤字の方もこれまたたいへん豪快で、あくまで暫定の数値ではあるが、2017年3月期の連結での赤字額が9,500億に登ると発表されている。ほぼ1兆円、ってコトだ。もしこれを国が救済するとなると、国民一人当たり8,000円くらい負担しなくちゃなんないことになる。まぁ、賃金カットしてもまだ一般のサラリーマンより給料の高い会社に血税投入は時期尚早だろうとおれは思うが。
 ともあれそんなんで万策尽きて、儲かる部門から切り売りせねばならんっちゅうまことに厳しいところまで追い込まれちゃってるのが目下の状況だ。勤めておられる人は夜も落ち着いて眠れない事だろう。実は以前、息子の同級生の親御さんでダンナが東芝に勤めてることをエラく自慢げに話す鼻持ちならない奥さんがいたんだけど、あの家どぉなったんだろう?

 ここまで天文学的な赤字になったのは、原子力発電事業の強化を狙ってアメリカの重電系の名門・ウェシチングハウスをバカみたいな高値で買収したものの、それに見合っただけの利益が出せないどころか、東日本大震災に続く福島第一の問題で、スッカリ世界的に原発事業が冷え込んでマーケットがシュリンクしてしまったのが原因と言われてる。
 しかし本当のトコは、バブル崩壊時の莫大な負債を買収時の「のれん代」に紛れ込ませて粉飾してたのがいよいよ隠し通せなくなったっちゅうのが真の原因とも言われてる。金融に疎いおれには何だか良く分からない。とは申せ、キリンがブラジルのビール会社を法外な高値で買って失敗したとか、日本郵政も箆棒な高額で買ったオーストラリアの企業が思った通りの利益が出ずに2千億だったかの赤字に沈むことがつい最近報じられたりとか、「のれん代」については同じように胡散臭い話がとても多い。そんなんからすると、粉飾そもそも説が正しいように思えて来る。おれも「不発弾」、読んでみようかな?

 たいへん有名な話で今更触れるのもアレだけど、この超巨大企業の創始者は、田中久重・・・・・・というより「からくり儀右衛門」の名前の方が通ってる幕末から明治初期にかけて活躍した空前絶後の発明家である。その彼が始めた重電系の芝浦製作所というのが、弱電系の東京電気という会社と合併して今の形になったのだ。
 田中は「東洋のエジソン」等とも称されるが、その驚嘆に値する功績は、意外にパクリが多くて欲の皮の張ったエジソンなんかよりも純粋な発明家としては魅力的なようにおれには思える。それに大体、田中の方がエジソンより数十年早い時期に活動してるのだから、後世の人に喩えるのは失礼ってモンだろう。
 和製オートマタであるからくり人形から始まり、複雑精緻極まりない和時計、照明器具、模型とは申せ蒸気機関車に蒸気船、さらには反射炉に大砲・・・・・・テクノロジーとして純粋に発明と呼べるものは無かったものの、興味と好奇心の赴くままにあらゆるものを創意工夫で作り出したそのエネルギッシュな生涯はもっと賞賛されて良い。

 そんな人が創始した会社が今、瀕死で断末魔の状態に喘いでいるのである。本業そのものは比較的順調だったっちゅうのがこれまた泣かせてくれるではないか。何のこっちゃない、赤字は事業の本分である製造ではなく、錬金術に失敗した挙句に膨らんだモノばかりなのである。
 企業が途方もなく大きくなり、組織のダンジョンがどんどん深くなり、経営と現場の物理的・心理的・組織論的距離が遠くなってしまった果てにヘロヘロの弱体化は起きたようにおれは思う。

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 そこまで考えて唐突におれは「水滸伝」を思い出したのだった・・・・・・そ、施耐庵作、中国四大奇書の一つに数えられるあの水滸伝である。一種のピカレスクであって、百八の魔星に司られた好漢とはいえ要するに山賊共が根城である梁山泊に集い、一大軍勢を率いて不正と腐敗がはびこり領民が苦しむ世の中に向かって敢然と闘って行くという話だ。
 キャラクターも魅力的なのが多く、これまでいろんな形で翻訳されたり、舞台を現代やらSFに変えたり、もちろん映画化されもしたしマンガになったりもした。

 しかしチャンと読むと、何故か一番良いカンジの所で終わってないのである。朝廷に帰順し、官軍となってからは鉄砲玉ばっかやらされ、地方を転戦に次ぐ転戦でボロボロに疲弊し、仲間がドンドン討ち死にして行って、最後に残った僅かなオリジナルメンバーも都の奸臣共の計略に落ちてみんな死んで・・・・・・と、後半がむちゃくちゃにタルいだけでなく、あまりにも救いがなくて読後感がどぉにもスッキリしない。このスッキリしなさは最近流行のイヤミス並みにヒドい。
 そらまぁたしかにみんなこの世に顕れたのは魔星の仮初の姿であって、天界に戻るためにはこの世で苦しむ民衆を救わにゃならんっちゅう話はワリと最初の方に出てくるからスジは通ってる。ナントカ天女っちゅうのが出て来て説明する、ってな話だったっけ。でもだからってこんなけごっつ頑張ってアータ、あっさり戦死でっか!?斃死でっか!?てやっぱ思うよね?

 初めて通読したのは小学生の終わりか中学生の初めだったと思う。どの版で読んだかは忘れたが、チャンと最後に全員が皇帝によって廟に祀られるトコまで書いてあったからワリと原作に忠実な翻訳だったんだと思う。もちろん、横山光輝の漫画版も読んだ。そして上のようないささかの不満を抱いたのだった。
 そしてこのことは自分の中では謎となったまま長らく埋もれてたのだった。

 それが今回の東芝騒動見ててようやく分かった気がしたのである。

 思うに作者・施耐庵は、如何にも中国人らしい冷徹で虚無的とも言える現実主義によって、「驕る平家は久しからず」といった仏教的無常観とはまったく毛色の異なる、もっと人間臭い業、あるいは不可避の運命としての「巨大化した組織が滅亡を免れ得ないこと」を書きたかったのではないか、と。

 昔、知り合いに中国人の女の子がいて、運勢についての考え方に驚かされたことがある。あちらでは一種の素養として子供の頃から占いを一つ二つ習得するのが常識らしいのだけど、曰く、「日本の占いは間違ってる。そんな悪い運勢をを何かを心掛けて好転させようなんて全然ダメだ」っちゅうのだ。そんな余計なことをすると天の理に反することになり、世の中全体がおかしくなってしまうらしい。
 ほたらどないしたらよろしおまんねん!?って訊いたところ、不幸の星の下に生まれて悪い運勢の人は目一杯その悪い運勢を生きることが結局はその人らしく生きることなんだと言う。それがその人にとっての幸せなんだ、と。

 何だかインドで、泥棒しか職業としてやっちゃダメなカーストがそのカーストに従って泥棒やって、それで捕まったらやっぱしフルボッコにされるってな理不尽さと同様のモノを感じてしまうが、彼の国の現実主義とはつまりそぉゆうことなのだ。まったく希望や救いがない。そんな醒めに醒めた眼差しでもって組織の巨大化は必ず破滅を招くと言ってるような気がしたのである。

 だから、たらればを並べてメディアは盛んに代々の社長の誰がA級戦犯なのかを指弾にするのに躍起になってるが、遅かれ早かれこのような事態は到来してたのではないか?っちゅう風におれは思ってしまう。
 少なくとも歴代経営陣の誰だって会社をツブそうと思って経営判断を行ってきたワケではなかろう。技術的に何の関連もない原発とICチップをこれからの事業の二本柱にしようとしたのも、東芝の持ってる方式の技術と全然違うウェスチングハウスの原発に手を出したのも、社内カンパニー制とかなんとか社内分社化も、今から言えば甘い取り組みだけど(ちなみにおれ個人は昔からカンパニー制や事業本部制は弊害の方が多いやり方だと思ってるが・・・・・・)、それでもここまで歯車が狂うなんて誰も想像しえなかったと思う。大体、大物と小物の組み合わせって創業時からの流れぢゃんかよ。
 別に歴代のジジィ共を庇いたくてこんなことを書いてるのではないよ。要は運命だったと言いたいのだ・・・・・・あ!そぉいや東芝をモデルにしたって言われてるから島耕作も戦犯なんだろうな。会長にまでなったしさぁ・・・・・・次作は「被告人・島耕作」だったりして(笑)。

 巨大化した組織は必ず崩壊する。それを防ぐっちゅうか、一寸延ばしにでも延命する手立てはいくつかなくはないが、万能の処方箋ではないしそれを明らかにすることはちょっといろいろ差し障りもありそうなんで、ここでは控えさせていただく。

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 そうだ。随分以前、鶴見線沿線を一日かけて歩く、って試みを行ったことがあった。地名の通りあの辺は東芝のシマであり、いろんなところに工場が点在してる。海芝浦なんて改札が工場に直結してるモンだから東芝の従業員以外電車を降りて駅の外に出ることさえできない。元は国の鉄道がやってた路線がこんな一民間企業に特化したコトしてエエのんか?って問い詰めたくなるようなワガママな作りだ。
 休日ってこともあって望まれる工場はどれも閑散とした雰囲気だった。クリーム色で2階建ての驚くほどに細長い建屋が並んでいる。それも昭和モダニズムを感じさせるレトロな外観のが目立つ。もう何十年も前からそのまんま変わってないのだろう。
 変わってしまってるのは縦横無尽に引き込まれてたであろう貨物線が無くなって、道路に変わってたり、あるいは茫々と雑草の茂る広大な空き地に変わっちゃってることくらいだ。

 その風景を見ておれは何となく、東芝だけでなく日本の産業そのものがとっくに分水嶺を越えてしまってるように感じたのだった。衰退はとっくの昔に始まってたのである。今回の件は延命治療がもはや限界に達した、ってコトなんだろう。


あれ!?こんなに巻数少なかったけかな?

https://www.amazon.co.jpより

2016.05.12

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